第26話 報告を受けるジュエルイアン 3
エルメアーナにベアリングの開発を行わせた事によって、ベアリング以外のものにも商材としての価値を見出していたジュエルイアンの眼力をヒュェルリーンは感心していた。
ただ、それは筆頭秘書としては合格点とは言えない。
むしろ、その辺りをヒュェルリーンから、ジュエルイアンに提案できなければならない事でもあるのだ。
しかし、ジュエルイアンは、その事を咎めたりはしない。
気が付かなかったのなら、それを気がつけるように自らが仕向けるようにする。
それを怠った事によってヒュェルリーンは、気が付かなかったのだと思っている事もあり、説明をしつつ、ヒュェルリーンにも考えることをさせていたのだ。
人は、知らない事を行うことはできない。
しかし、それを導くように伝えれば、人は、それを辿って正解に行き着く。
一つのことに集中してしまうと、それ以外が見えなくなってしまう事もある。
ヒュェルリーンの目的は、エルメアーナにベアリングの開発を行わせる事にある。
ジューネスティーンの言う、1000分の1の精度については、南の王国の鍛冶屋と職人から、生産も開発も断られたものであり、それをエルメアーナが行う事になったのだが、過去にそんな精度の製品を作った事が無いのだから、その機械を作るだけでも、今までに無い何かが必要になる。
それも今までと似たようなものであったとしても精度が上がれば、それも商材となる。
新たな製品を開発しようとした際には、それを作り出すための周辺機器においても商材となる可能性が高くなる。
それは、今までの技術では作れないものが出てくるので、それをどうやって作るかを考えていくと結果として新しい機械が必要となるのだ。
今までに無い精度1000分の1のボールを作ることによって、ジュエルイアン商会として、ベアリング以外の商材が今回の開発で手に入る可能性ができたのだ。
ベアリングの開発の方向性が決まり、完成が現実味を帯びてきたので、ジュエルイアンは報告に満足していた。
「そうか、そこまで考えられたら、完成は時間の問題だな」
その言葉を聞いて、ヒュェルリーンは安堵した。
そして、報告が終わったことでヒュェルリーンは、ジュエルイアンの執務室を退出した。
ジュエルイアンは、今の報告をもう一度初めから検証していた。
ジューネスティーンとしては、パワードスーツの開発において各駆動部分をスムーズに動かしたいと考えていただけなのだが、その思いをジュエルイアンが興味を持ったのだ。
ジュエルイアンとしたら、そのベアリングの技術によって様々な部分に転用可能だと判断したのだが、その開発の話を、どこの鍛冶屋も職人も不可能と判断されてしまい開発に断念するしかないと考えていたのだが、ヒュェルリーンがエルメアーナなら可能ではないかと推薦した事から開発を手伝える可能性を見出したのだ。
そして、カインクムとフィルランカの結婚騒動によって、カインクムの娘であるエルメアーナが家を出るように誘導して、大ツ・バール帝国の帝都から南の王国の王都に移動させ、ギルドの高等学校の近くで開業させた。
ジュエルイアンとしては、エルメアーナの鍛治の腕の良さと、ジューネスティーンの新商品に対する開発力を引き合わせれば、ベアリングの開発も可能になるだろうと考えていた。
ただ、それは、意外な形で2人は、ジュエルイアンが引き合わせるより先に巡り会えていた。
ジュエルイアンとしたら、エルメアーナの男嫌いの性癖を考慮して、引き合わせるために、思案を巡らせていたのだが、それより先に、ジューネスティーンの持つ日本刀に目を付けたエルメアーナが、ジューネスティーンに製造方法を聞いたのだ。
日本刀の技法について、エルメアーナは、今まで見た事もない物であり、その技法を知りたい、自分でもこの剣を打ちたいという願望から男嫌いの性癖を乗り越えさせたのだ。
ただ、男嫌いの性癖を乗り越えられたのは、ジューネスティーンだけで、メンバーのカミュルイアンとレィオーンパードは、未だにエルメアーナの前には出れないでいる。
そんな中、ジューネスティーンは、エルメアーナが唯一の話ができる男子になり、その日本刀を見て話を聞きつつ製作して精度の高い日本刀を作ってしまったのだ。
そのため、ベアリングの開発は遅れてしまったのだが、エルメアーナの作る日本刀の斬れ味が評判となり、瞬く間に生産が追いつかない程の受注を受ける事になってしまった。
しかし、それによって、ジュエルイアン商会にも大きな利益を生むこととなり、ジューネスティーンのアイデアから作られる新製品には、大きな利益を生むと証明してしまった事になったのだ。
それによって、ジュエルイアン商会として、ベアリング開発に本腰を入れる事となり、高額なプレス機をイスカミューレン商会から購入したとしても十分に採算が取れると判断されたのだ。
そして、発案者のジューネスティーンと実際に開発を行うエルメアーナの連携によって、開発完成の見込みができたのだ。
そんな中、アイカユラの報告から、ジュエルイアンはベアリングの開発の中から新たな商材の可能性を見出していた。
人の手によって作られていた物が、新たな製品を作ろうと考えた事で、徐々に機械に取って変わる。
最初のプレス機は、イスカミューレン商会が最初だったかもしれないが、ベアリングの技術によって、ジュエルイアン商会にも新たな道が開けたのだ。
機械の開発は、イスカミューレン商会に先行されたが、それを挽回するための商材として、ベアリングの開発だった。
ジュエルイアン商会としたら、先行された機械開発において、巻き返しを狙える位置に立てたといえるのだ。
そして、ジューネスティーン達は、ジュエルイアン商会という大陸全土に支店を持つ大陸最大の商会というスポンサーを持つことになった事により、パワードスーツの開発において、資金面の心配が無くなったのだ。
報告を受けた終わったジュエルイアンは、ホッとしたようだ。
それは、先行して購入したプレス機の購入費用の回収の目処が立った事もあるのだが、それ以外にも何か気がついたようだ。
「あのパワードスーツを使ったら、歩けない人でも歩けるようになる可能性があるのか」
誰もいない執務室でジュエルイアンは独り言を言った。
ジュエルイアンは、パワードスーツに新たな可能性を見出したようだ。
「ジュネスの必要な台数は、6台だかららな」
ジュエルイアンは、ジューネスティーンが卒業後、本格的に冒険者として活動を始める際の事を考えていたのだ。
学校で組んだメンバーは、卒業しても同じメンバーで活動する事が多い。
ジューネスティーンの現在のメンバーは、シュレイノリア、アンジュリーン、カミュルイアン、レィオーンパード、アリアリーシャの合計6人となるので、必要なパワードスーツは6台となる。
「これは、エルメアーナの店が手狭になりそうだな。 それにセキュリティーの問題もあるのか。 やはり、移転させる必要がありそうだな」
ジュエルイアンは、今回の報告から考えられる未来を考えたようだ。
エルメアーナのベアリング開発 パワードスーツ ガイファント外伝 〜物が無いなら作れば良い。 諦めない心が、新たな閃きを与える。〜 逢明日いずな @meet_tomorrow
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