第23話 アイカユラの仕事 2
シュレイノリアの話に2人が納得していると、アイカユラは、自分の仕事をしていた。
アイカユラは、シュレイノリアに鍛治仕事に集中してもらうため、資材管理、生産管理、営業、そして身の回りの世話までをこなしている。
要するに、鍛治以外の仕事は全てこなしているのだ。
アイカユラは、ジュエルイアン達から信頼を得ている若手のホープである。
エルメアーナは、鍛治仕事は天才的なのだが、それ以外の仕事は独立前は、カインクムが行なっていたため良く分かっていなかった。
つまり、鍛治以外は大した仕事ができないエルメアーナに、アイカユラを付けて鍛治は出来ずとも、それ以外の事は何でもこなせて報告も的確であることから鍛治しか出来ないエルメアーナのお守りをさせるには都合がよかったのだ。
今回の仕事について、アイカユラは、その有用性について、話を聞いてはいたが、工学系ではないため、そんな物なのか程度に聞いていただけだった。
しかし、仕事となったら、そんな事はどうでも良いのだ。
エルメアーナの仕事の完璧性を上げるように材料を調達して管理を行うのだ。
そのため、アイカユラは2人の描いた石板を見て、自分が行うべきことを考えていたのだ。
「ねえ、用意するものは何かしら? 作る方向性が決まったら、それを手配しなくちゃいけないでしょ。 それは、どんな物が必要になるのかしら」
ジューネスティーンとエルメアーナは、設計が終わり達成感に浸って、ホッとしていたのだが、アイカユラの言葉で現実に戻されたようだ。
そんな2人をシュレイノリアが、冷めた目で見つめていた。
「お前達の話は、机上プランニングが終わったところだ。 この後、これに合わせて、寸法計算やら、必要な治具や工具を用意する必要がある。 その後には、サンプルの製造だ。 机上プランニングだけで、そんなに浮かれてどうするんだ。 アイカに言われて現実に戻ってくるようじゃ、先が思いやられるぞ!」
シュレイノリアが、2人を引き締めるように言葉にしたので、苦笑いで答えていた。
そんな2人をシュレイノリアは、置いておいて、アイカユラを見た。
「なあ、アイカ。 この石板の絵は、ここの工房にある、あのプレス機に取り付ける。 プレス機の回転軸に直接取り付けて回すと思って良い。 この円盤の大きさは、直径30cm位で構わない。 後は、削り出す溝を作る工具だ。 本来なら、鉄より硬い鉄以外の元素の材用が有難いが、そんな元素を用意できるとは思えないから、炭素量の多い鉄でも良い。 焼き入れして、硬貨させたものを使おう。 それも1本じゃダメだろうから、10本程度用意して」
そこまで言うと、シュレイノリアは、少し考えてしまっていた。
円盤を削る彫刻刀について考えをまとめているようだ。
「うーん、常に同じ形状の方がいいのか?」
今度は、話をすると言うより、自分に言い聞かせるように話し出した。
「最初から、溝の形の彫刻刀を使うのか?」
シュレイノリアがブツブツと話し出したのは、自分の頭の中で、その時の工程をイメージしているのだ。
丸い溝を掘ろうとしているのだが、最初からその形状の物を使って削ってよいのか、それとも、荒削りでV字なりの溝を掘ってから、丸形状の彫刻刀で削った方が、効率が良いのかを考えていたのだ。
「これは、ひょっとすると、最初にガイドになる円を彫るようにしてから、その溝に合わせて丸い溝を用意した方が精度は上がるかもしれないな」
シュレイノリアは、方向性を導けたようだ。
「削り出すための彫刻刀は、数種類用意した方が、使い勝手が良いだろう。 使い潰したら、別の物で、また、円盤を削ることにもなるから、溝の削り出し用の彫刻刀の素材は、数十本は必要かもしれないな。 ああ、円盤も炭素量の多い素材にしてほしい」
その素材については、アイカユラも大凡理解できている。
日本刀の製作において、鋼鉄と軟鉄の2種類の素材を合わせて使っているので、硬い素材にするなら、微量の炭素が必要なのだということは理解している。
ただ、その中でアイカユラには不安が有った。
それは、今のシュレイノリアの話に多くの情報が入っていたからだ。
「ああ、それと、固定するため台座やら、他にも必要なものがある」
「ちょっと待って!」
シュレイノリアが、次から次へと色々言い出すので、アイカユラは、それを止めた。
「ごめん。 メモっておくから、ちょっと待って」
シュレイノリアは、言われて何だと思った様子で、アイカユラを視線で追いかけていた。
すると、アイカユラは、大きな黒板を持ってきて白墨を持った。
「スケジュール用にと思ったけど、それは、また、買ってくるわ。 これには、材料関係のことを全て記載しておきます」
そう言って、シュレイノリアに話を続けるように視線を送った。
その様子をシュレイノリアは面白そうに見ると、話を、最初から初めていた。
それをアイカユラが、要点をまとめるようにして、黒板に記載していくのだった。
アイカユラは、ただ、言われたことを書くだけなのだが、シュレイノリアは、それを一目見て理解できそうだと思ったようだ。
シュレイノリアも、アイカユラが、ただ、エルメアーナの面倒を見ているだけの人では無いと理解したようだった。
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