第15話 エルメアーナの検討 4


 エルメアーナが、ディスカッションが終わった後、食事の事も忘れてジューネスティーンのベアリングの製造方法について、店の商談用のテーブルで考え込んでしまっていた事に対して、それを咎めたアイカユラの態度にドキッとしたのだった。


 エルメアーナは、新たな技術について考える事がとても楽しかったので、周りの事も考えずに集中してしまっていたのだ。


(いやー、ジュネスの事を、ちょっと考えていただけなんだが、そんなに酷かったのか?)


 エルメアーナは、反省しつつも、アイカユラの様子を伺いつつ料理に手をつけていた。


 酷く怒られてしまったので、エルメアーナは、アイカユラのご機嫌を伺っていた。


(何だか、フィルランカの事を思い出すな。 あいつの料理も美味かったけど、アイカの料理も美味いんだ。 まあ、どちらが美味いか甲乙つけ難いものがある。 フィルランカは、帝国風だし、アイカは、南の王国風だから、どっちが美味しいか比べられないな)


 エルメアーナは、ニヤニヤしながら出されたスープを美味しそうに啜っていた。


 しかし、アイカユラは、ベアリングの事について集中して、食べるのも忘れるほどだったエルメアーナを信用していなかったので、自分も食べ始めても、まだ、エルメアーナを気にしていた。


 ただ、今度は、考えるではなく、ニヤニヤしながら、食べているのをみて、自分は、どういう反応を示したら良いのかと思っているようだった。


 エルメアーナのニヤニヤが、アイカユラには、何だったのか理解できずにいたので、徐々に怖くなってしまったようだ。


「エルメアーナ?」


 耐えきれなくなったアイカユラは声を掛けたので、エルメアーナはアイカユラを見た。


「どうかしたか?」


「ねえ、私の作った食事だけど。 ……。 美味しくなかったかしら?」


 アイカユラは、エルメアーナのニヤニヤが何でなのか気になったようだった。


 その理由が分からかったので、自信のなさそうな声でエルメアーナに聞いていた。


 そのアイカユラの様子とは裏腹に、エルメアーナは、美味しさについて、フィルランカの料理と甲乙付け難いと思っていた事もあり、アイカユラは、何を聞いてきたのだという表情をした。


「いや、そんな事はないぞ。 フィルランカの料理と同じく美味しいと思っていた。 どちらも美味しいから、甲乙つけ難いと思って食べていたところだ。 ……。 それが、どうかしたのか?」


 それを聞いてアイカユラは、ホッとしたようだ。


「そう。 よかったわ」


 アイカユラは、苦笑いをしている。


 そして、エルメアーナに美味しいと言われて、徐々に嬉しそうにした。


「フィルランカは、帝国風の料理だったし、アイカは、王国風だ。 もし、同じ条件で料理を作ったら、どちらが美味いか分からない位、上手だ」


 エルメアーナは、料理について満足そうに語った。


 料理に関しては、帝都にいた時、フィルランカと一緒に食べ歩いたこともあり、舌は肥えているので、味の良し悪しも分かる。


 そして、フィルランカが、常に自分の調理の腕を磨いていた事もあり、常に美味しいものを食べていたのだ。


 だから、エルメアーナが美味しいという料理は、本当に美味しいのだ。


 それを知っているアイカユラとしたら、エルメアーナから美味しいと言われたので、素直に嬉しいと思ったようだ。


 エルメアーナは、アイカユラの様子など気にする事なく食事をしていた。


「私は、幸せだ。 食事は、いつも美味しいものを食べられる。 毎日、美味しい料理が食べられるなんて、こんな幸せな事は無い」


 アイカユラは、エルメアーナが言葉を選んで褒めるのではなく、気がついたことをそのまま言うので、恥ずかしそうにしていた。


「な、何よ。 エ、エルメアーナったら、そんなに褒めないでよ」


 アイカユラが、顔を赤くして答えるのだが、その答えをエルメアーナは、何でそんな事を言うのかというように見た。


「いや、私は、感想を述べただけだ。 フィルランカの料理も、帝都の高級レストランの料理も、遜色ない美味さだった。 それにアイカの料理も変わらないくらい美味いぞ」


 エルメアーナが、当たり前のように言うので、アイカユラは、本当に嬉しそうにした。


 そして、それ以上、言葉にならないのか、両手を頬に添えてモジモジしだした。


 そんなアイカユラを不思議そうな目で、エルメアーナは見ていた。


(何だ、変な奴だ。 何で、モジモジしているんだ? ……。 まあ、アイカの機嫌が直ったのは助かる)


 エルメアーナは、アイカユラの機嫌が直ったことにホッとしつつ、自分の前にあるスープにスプーンを入れ、何気にかき混ぜていたのだが、スプーンを置いて、薬味の乾燥させた葉っぱを細かくしたものをスープの上にかけた。


 その乾燥した葉っぱの粉は、スープの上をクルクルと回り始めた。


 そして、エルメアーナは、スープにスプーンを入れようとして固まった。


 エルメアーナは、スープをジーッと見ていた。


 そこには、スープの上を回っている薬味の細かく砕かれた葉っぱの粉が回っていた。


 そして、そこにスプーンを軽く入れると、エルメアーナは、その葉っぱの動きを凝視していた。

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