第14話 エルメアーナの検討 3


 エルメアーナは、ベアリングのボールを丸める為の円盤についてシュミレーションを行なっていた。


 ボールが円盤の中を転がる事をイメージしつつ、石板に書かれたジューネスティーンのポンチ絵を見ていた。


 そして、その中をボールが、どんな感じで転がっていくのかをイメージしていたのだ。


 同心円上の溝と、もう一方の円盤は、中心から放射状の線を描くように作って回転させたとき、この放射状の溝だと、つなぎ目の部分で球体に出ている僅かな突起などが引っ掛かる可能性を思い付いたようだ。


 そして、エルメアーナは鋭い目をした。


(これ、放射状の直線の溝だったら、それを抑えているのは、中心を走る一本の線になるのか。 ……。 もし上と下と同じ同心円の円盤を使ったら、どちらも同じように円になって接触しているが、常に円の状態で掘られた溝をボールは転がっていくのか。 放射状の溝を作るより、同じ同心円の円盤を用意した方が、効率的に球体にさせられそうだな。 ……。 きっと、こっちの方が、安定して、早く真球にしてくれそうだし、円盤の寿命も長くなりそうだな)


 エルメアーナは、ニヤリとして、ディスカッションで描いてくれたジューネスティーンの石板を見ていた。


(これは、明日、あいつらに提案してみよう)


 エルメアーナは、納得したような表情をした。


 すると、店にアイカユラが現れた。


「ねえ、ちょっと、いつまで、そこで考えているのよ! もう、ご飯だって、冷めちゃったじゃないのよ。 私だって、もう、お腹ぺこぺこなのよ。 どうでもいいから、早く、夕飯食べてよ!」


 アイカユラに捲し立てられたエルメアーナは周りを見渡した。


 窓の外は、暗くなり初めており、そして、手元に置いてある石板も見えにくくなっていたのだが、集中しすぎていたエルメアーナは、暗くなって良く見えてなかったことにも気がついていなかった。


 そして、アイカユラに言われて、自分も空腹であることに気がついたようだ。


「すまない、アイカ。 私も、お腹が空いていた」


 その答えにアイカユラは、残念そうにエルメアーナを見た。


「もう、何かに集中すると、いつもこうなんだからぁ!」


 エルメアーナの詫びに、アイカユラも仕方なさそうに答えた。


 だが、それは、昨年の日本刀の大量生産のハードスケジュールをこなした時の事もあったので、アイカユラは、今のエルメアーナを見て、その時の事を思い出していたようだ。


 アイカユラは、ジュエルイアンからの指示でエルメアーナの店を見ている。


 販売、材料手配、生産管理を一手に担っている。


 基本は、鍛治仕事以外の全てを受け持っているので、食事などの家事もアイカユラが行っていた。


 ジューネスティーン達が、夕食の時間に間に合わせるために帰っていった後、アイカユラは、夕食の準備をしていたのだが、夕食の用意ができて、いつでも食べられるようになってもエルメアーナがリビングに来なかったので店まで呼びにきたのだ。


 そのエルメアーナは、ジューネスティーンの描いた石板を見つつ自分なりに検討をしていた。


 だが、エルメアーナは、アイカユラに言われて、テーブルを立って店の奥の自宅の方に移動していった。


 アイカユラは、エルメアーナを見送ると、店の戸締りを確認してからエルメアーナの後を追うように店の奥に行った。




 リビングに戻ると、エルメアーナは、テーブルに座っていたのだが、心ここに在らずといった様子だった。


(あー、はじまった。 もう、さっきのジュネス達との話が、頭から離れてないのね。 お腹が空いてたはずなのに、また、それも忘れているみたいだわ)


 アイカユラは、仕方なさそうにエルメアーナを見ると、用意した鍋の蓋を開けた。


 お皿にスープ盛って、それをエルメアーナの前に出すのだが、エルメアーナは、ボーッと何を見るでもなく座ったままでいた。


(やっぱりね。 ジュネス達の話で、頭の中が一杯になっている)


 アイカユラは、仕方なさそうに、エルメアーナを見ていた。


「エルメアーナ」


 軽く声をかけたが、エルメアーナは、何も反応する様子もなく、ボーッとしていた。


 アイカユラは、少しイラついたようだ。


 そして、テーブルに手をついて、エルメアーナの顔の前に自分の顔を近づけた。


「エルメアーナ!」


 今度は、強い口調で呼ぶと、さすがにエルメアーナも気がついたようだ。


「あ、ん? なんだ? アイカ」


 すると、アイカユラは、ムッとした表情で、顔を戻すと、エルメアーナのテーブルの前に出された料理に、早く食えと言わんばかりに指を差した。


「あ、ああ、ありがとう。 早速、いただくよ」


 そう言うと、エルメアーナは、料理に手をつけた。


 その様子を面白くなさそうにアイカユラは見つつ、自分も席に着いて食べ始めた。


 アイカユラは、料理に手を付けるのだが、正面に座っているエルメアーナの様子をジーッと見つつ食べていた。


 エルメアーナは、数回料理に手を付けていたが、また、手が止まった。


 すると、アイカユラは、また、イラついたようだ。


 スプーンを握ったままテーブルを叩いたので、その振動が、エルメアーナにも伝わった。


 エルメアーナは、何事かといった表情で、アイカユラを見るのだが、アイカユラは、今にも爆発しそうな表情をしていた。


「あ、あのー、アイカ、ユラさん。 ……。 どうか、いたしましたか?」


 エルメアーナは、恐る恐る、何事かと思い聞いてみたのだ。


「あのね! 食べる時は食べるのよ! それに、空腹だと良いアイデアは出ないわ。 栄養を摂って脳に栄養を与えるから頭の回転も良くなるのよ。 だから、た、べ、て!」


 最後の言葉になると、エルメアーナは、怖いと思った様子で引き攣った表情をしていた。


「は、い」


 エルメアーナは、食事中は何も考えず食べようと思ったようだ。

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