第8話 3人のディスカッション 2
ジューネスティーンの説明が終わると、シュレイノリアは、エルメアーナを見た。
エルメアーナは、真剣な表情で、ジューネスティーンの話を聞いていた。
「どうだ、素人のジュネスの作ったボールは、大した精度が出てないが、作り方に何か問題は無いか?」
シュレイノリアが、エルメアーナに、ジューネスティーンとの間を取り持つように話を進めていた。
「ああ、要するに、一発で精度の良いボールは作れないということ。 今の話でも、2回の工程を通すことで、ボールになっていくのは分かった。 叩いてから、丸めるのか。 ……。 ただ、その方法に問題があったのかどうかは、何とも言えないな。 まだ、作り方を聞いただけになっている。 もっと、色々と聞けたら、何か出てくるかもしれないな」
シュレイノリアに話を振られたエルメアーナとしては、何か良いアイデアを出したいと思ったようだが、今の話からは、何もアイデアが浮かばなかったようだ。
そんなエルメアーナを、シュレイノリアは、ジーッと見てから、ジューネスティーンを見た。
「ジュネス。 ボールを丸めるのに、何で板を2枚使った?」
シュレイノリアから、質問されたジューネスティーンは、少し、驚いた様子でシュレイノリアを見た。
だが、ジューネスティーンは、シュレイノリアなら知っているだろうと言いたそうな表情でもあったのだが、シュレイノリアは、そんな事は気にする様子もなく、ジューネスティーンに話させようと思って、ジーッと見ていた。
そのシュレイノリアの視線が、ジューネスティーンには突き刺さるように思えたようだ。
そんなジューネスティーンを無視して、シュレイノリアの表情は、説明するようにと訴えていた。
ジューネスティーンは、そのシュレイノリアの威圧するような表情に、負けたようだ。
「あ、いや、ほら、団子を丸める時って、両手で転がすように丸めるだろう。 だから、板で押さえるようにして、円を描くように回したんだ」
それを、シュレイノリアは、視線を動かすことなく聞いていた。
その辺りにも、シュレイノリアは、ヒントが有ると考えていたようだ。
「ジュネス。 手工業なら、それで構わないだろう。 だが、これは、工業製品を作るために行なっているんだ。 だから、お前は、もう少し踏み込んだ考えをする必要があったはずだ」
シュレイノリアは、表情を変えることなくジューネスティーンに、容赦無く言うので、ジューネスティーンの方が、シュレイノリアにプレッシャーを感じてしまいイヤそうな表情をした。
シュレイノリアは、手工業と工業の違いについて、ジューネスティーンに、もっと、理解を深めてもらいたいと思ったようだ。
そして、ジューネスティーンの話した内容の中にも、まだまだ、ヒントが隠れていると思っているようだ。
人は、先入観が有ると、それ以上のアイデアが浮かばなくなるものなので、シュレイノリアは、ジューネスティーンに、まだ、何か、考えさせようと思っていたようだ。
アイデアは、追い詰められれば追い詰められるほど出やすくなる。
不便だと、便利にしたいと思うからアイデアは浮かぶ。
シュレイノリアは、ジューネスティーンを追い詰めるようにしていたのだ。
そんなジューネスティーンとシュレイノリアの、やり取りを聞いていたエルメアーナが、今の話を聞きながら、何かを考えるようだった。
「団子か。 ……」
エルメアーナは、考えていた事が、ポロリと言葉になってしまったようだ。
団子を丸めると言われたことが、気になっていたので、考えていた事が思わず声になってしまったのだ。
そして、エルメアーナは、ジューネスティーンに視線を向けた。
「なあ、手のひらって、柔らかいから、団子を作るときって、団子が、手のひらに沈んでないか?」
その何気ないエルメアーナの言葉だが、その言葉でジューネスティーンの表情が変わった。
「沈む」
エルメアーナの言葉に、ジューネスティーンも何かを感じたようだった。
「板に、窪みか。 ……」
エルメアーナの沈むという単語から、ジューネスティーンは、それを窪みに結びつけたようだ。
その窪みという単語から、今度は、エルメアーナが、何か、ボーッと考えるような表情をした。
「窪みが出来る。 ……。 窪みなら、溝でも構わないんじゃ無いのか?」
ジューネスティーンの、窪みという言葉に対して、今度は、エルメアーナが反応したのだが、どうも2人の言葉から連想される内容が声に出る事で、最初の言葉が徐々に変わってきていた。
そして、溝でも構わないと言われて、ジューネスティーンが、エルメアーナを睨むようにみた。
「今、溝って言った?」
そのジューネスティーンの表情が、あまりに真剣な様子だった事もあり、エルメアーナは、突然、表情の変わったジューネスティーンに少し驚いたようだ。
「あ、ああ」
ジューネスティーンが、何かを閃いたようだったので、その様子を見て、シュレイノリアの口の端が上がった。
それは、2人の話を、シュレイノリアが誘導して、新たなアイデアを導き出せるように仕向け、それが良い方向に進んだのだが、シュレイノリアとしたら思惑通りに進展したと思ったようだ。
その話が、うまく運んでしまった事により、シュレイノリアは面白く思えたようだ。
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