#22.発達障害の特性色々



 思い返せば僕はとても出来の悪いというか、なにかと上手くできない子供だったと思います。時間は守れないし、物体も約束も忘れるし、物事をパパっとできないし。


 そういえば授業もちゃんと聞けていなかった気がする。特に中学生以降の数学が顕著でした。教科書を開き、黒板を写し、先生に公式の使い方を教えてもらう授業。けれども『なぜその公式が生まれたのか?』とかそんなことばかり気になってしまい、スイッチが入ると考えずにはおれず、気づいた時には授業が終わっている。


 酷い時は『なんでxなん? αとかじゃダメなのか?』と授業に集中できない。これも今思えば多動性と衝動性が良い感じにブレンドされたが故の特性、だったのかも知れません。


 そんな自分に嫌気がさしたことは、幾度となくありました。

 もっと時間を守れるようになりたい。

 要領よく物事を進めたい。

 忘れ物をしたくない。


 大学生になった頃、そんな自己嫌悪がピークを迎え、色々な工夫を試み始めたのです。

 僕は知識を書物に頼る傾向があるので、とにかく本を読み漁りました。段取り力、スケジュール管理、超・手帳術、これでカンタン整理整頓などなど……もちろん知識だけでは意味が無いので、実生活でも色々と試行錯誤を重ねたりして。


 忘れ物の対策として、カバンは大きい物を一つ選ぶ。忘れようがない程に色々なものを詰めておく。ハンカチや帽子なんかは玄関に置いておくと、家を出る前に視界に入るので持っていくのを思い出せる。


 段取りを組むときは一度大きなスケジュールを立て、そこから細かくブレークダウンしていく。細かい単位で手帳に書いておけばなお安心。待ち合わせには乗る電車や家を出る時間も、全て逆算して手帳に書く。


 スマートフォンが世に出たときなんか、これぞ僕にとって必要なツールなのだと飛びつきました。画面には忙しい程にリマインダがーポコポコと鳴る。ポコポコしすぎて逆に見落とすレベル。


「こういう対策って、ADHD故のものなのでしょうか」

「そこまで努力をしなくても問題ない人もいますし、努力で何とかカバーできる範囲もあります。それに、努力ではカバーしきれない事も」

「しきれない事……」

「努力と無理の境目と言いますか。それに、カバネさんはかなりの負荷を費やしていると思います。疲れやすいと言い換えてもいいかも知れません」


 疲れやすい……?

 これも僕にとっては新鮮な言葉でした。何故ならあまり感じたことがなかったから。まぁぶっ倒れるまで働くほどの鈍感さなのだけれど。


「知らず知らずのうちに、そういった疲労やストレスは積み重なります。心や脳への負荷も同じです。もちろん人によって程度は異なりますが、その疲労やストレスは自覚しておかないといけません」


 なるほど、なるほど。


「ではカバネさん。時間も約束も守らない生活で良いのか、というと」

「今度は社会生活で問題が出ますね」

「そうなんです。ではどこで折り合いをつけるか、になってきます」


 ……これもリワークを通じて理解したことなのですが、どうも僕は完璧主義な所があるみたい。コンプレックスを克服したい、それも完璧な形でって。

 結果、知らず知らずに疲労が溜まり、ストレスが溜まり負荷が強まるという負のループ。


「完璧にまでしなくてもどの程度なら大丈夫なのか? 方法や手段も含めて、これから考えてみるのはどうでしょう」


 そんな工藤さんの言葉。

 折り合い、程度、いい塩梅。このリワークで学ぶべき、もう一つの目標が見えた気がしました。


 ここではチェックリストをベースに使用していましたが、僕の発達障害はそれだけで判断されたのではないのだと思います。

 後から知ったのだけれど、このADHD・ASDといった発達障害は非常に判断が難しいのだそうで。忘れ物が多いから当確! みたいなシンプルな話ではなく、個々人の様々な特性を把握し、分析し、それでも医師によって見解が分かれることもあるのだとか。


 単に『君はADHDやASDの傾向が強いね』と言われただけでは、僕も『はぁよく分からんけど』で終わっていたのかも。


 日々のリワークやコミュニケーションを通じ、傾向・言動・体調・その他、色々なものを観察して下さった3名の療法士さん、そして主治医の尾長先生。

 そしてリワークな仲間達も。


 自分の障害、或いは特性を受け入れることができたのは、そんな皆さんとの関わり合いのおかげだったのだと思います。

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