第3章 発達障害(ADHD・ASD)のはなし

#20.実は発達障害じゃね?

 リワーク絶賛参加中なころ、近しい人が発達障害(ADHD・ASD)の診断を受けたと聞きました。

 発達障害? ADHDとかASD…?

 あまり聞きなれない単語だったので正直、はえ~何か大変そうだなぁみたいな感想。HDMIやUSBとの区別さえ定かではなかったかも知れません。そんな話を先生にしたところ、


「うん、カバネ君もその傾向あるよね。どう思う?」

「えっマジ?」


 そんな会話が、僕が発達障害と向き合うキッカケとなりました。

 先生に手渡されたのは『大人のADHD・発達障害』と銘打たれた小冊子。続いてWebサイトのURLなどを教えて貰い、興味が湧いたので色々と目を通すことに。


 ADHD、日本語では『注意欠如多動性障害』と呼ばれるもの。

 脳裏に浮かんだのはいつかテレビで見た映像でした。小学校の授業中にじっとできず、教室を走り回る男の子を思い出したのです。


「う~ん、自分の場合はちょっと違うんじゃね?」


 当時の僕の知識は薄く浅く、色々な障害や疾病……例えばASD(自閉スペクトラム症)やSLD(限局性学習症)、それにアスペルガー症候群など不正確な知識が混同されていた様に思います。


 冊子やWebサイトを調べてもいまいちピンと来ない。自分に当てはまる部分が全くないわけでは無いけれど……最初はそんな感覚でした。


 例えば、忘れ物。

 例えば、時間や約束を守れない。

 例えば、段取りを立てるのが苦手。

 例えば、じっとしているのが苦手。等々。


 どれも問題ないけどなぁ。そんな正直な感想を療法士の工藤さんに聞いて貰ったところ、


「現状でチェックするのではなく、子供の時にどうだったか、で見るのはどうですか?」

「子供の時ですか?」

「そうです。大人になるにつれ、努力や訓練で身に着けたものは多くあります。ここでチェックするなら、元々の本質はどうだったか、という観点かなと」


 元々の本質……。

 と言うわけで、子供の頃を思い出しながら発達障害の傾向を改めてチェックすることに。


●忘れ物について

 思い返してみると、小学生の頃は非常に忘れ物が多く、先生や親に叱られたことは数えきれないほどありました。忘れないようメモを残しても、そのメモの存在さえ忘れる始末。大事な書類が見つからなくって、ゴミ箱からグシャグシャになって出てきたことも。


●時間や約束について

 友達との待ち合わせは大体1時間くらい遅れる。遅れたいわけじゃなくってバタバタ準備しているのに、何故か遅刻を続けてしまう。ある時、友人が僕にだけ1時間早い待ち合わせ時間を伝えたことがあり、そんな日に限って時間ピッタリに到着し『おまえなんで時間通りなんだよ……』と苦笑されたこともありました。


 おや?

 おやおや?

 いやいや、まだ判断するには早い気がする。もう少し工藤さんに付き合って貰いながら、自分の傾向を確かめて行きます。


●段取りについて

 仕事ではプロジェクトリーダーを務めていたので、これは非常に得意でした。数か月単位の予定を立てて、リスクも考えて業務を遂行していく。そんな段取り力には少しの自信さえありました。ですが小さいころは……まず宿題という物を期限に提出できない。あと料理とか苦手で段取りよくパパっと出来ない。何をするにも無駄が多く、例え手順を示されたとしても、その手順通りに進めることが何よりも苦手。


 うむむ?

 いや、でもじっとしているのは結構好きだと思います。落ち着きに定評のある時折カバネ。


「本当にそう思います?」

「えっ?」

「例えば買い物でレジを待っている間、じっと待てます?」

「えぇ、待てますけど」

「スマホとか触らず、ボーっと待つとかは出来ますか?」

「あっ無理な気がします」

「あと、お風呂に入る時はどうです?」

「……スマホか本でも持ち込まないと、5分も入浴できませんね」

「恐らくそれが、多動傾向と呼ばれるものです」


 マジですか。

 多動、と聞いて先述のテレビ映像が浮かびます。授業中にじっとしておれず、教室を走り回ってしまう男の子。


「多動というのは動作だけの話ではありません。思考を止められない、何かを考えずにはいられないというのも多動の一つです」


 そんな会話を積み重ねてチェックリストを見直すと、もう疑いようもなく発達障害の傾向が全開に。初回に自分でチェックしたとき……今現在の自分とはかけ離れたような色合いに。


「その二つの差が、カバネさんが努力してきた証です。でも本質的に治ったとかそういうものではありません。傾向のない人が当たり前のように時間を守ったりするのとは違い……カバネさんが段取りを組んだり、時間を守るとき、そこには常に負荷が掛かっている、疲労を伴っているという認識が大切だと思います」

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