#9.リワーク・スタート!

 いよいよ迎えたリワーク初日、僕はわりと緊張していました。

 一体なにが行われるのか正直よく分からない。イメージが湧いていないままだから、不安が大きかったのかも知れません。


 どんな人がいるんだろう。

 どんなことをするんだろう。


 そんな心持ちで、待合室の先にある扉を開きました。


 奥では20畳ほどの広い部屋に、大きなテーブルが4つ、それぞれに椅子も4つ。

 床はグレーを基調としたカーペットが敷かれ、入口から左手には少し大きな窓が一つ。窓の手前には、収納スペースを兼ねた畳敷きの引き出しが置かれています。入口右手には41型のテレビ、それにパソコンが1台ずつ。


 左手の奥には冷蔵庫、そして小さなキッチン……ここで料理も出来るのかしら?

 部屋の奥には腰ほどの高さの棚が並び、書籍やぬいぐるみ、ギター等が綺麗に並べられていました。


 席に座っているのは僕を含めて10人。雑談をする人、スマホを触る人などカリキュラム開始までは思い思いに過ごすご様子。とりあえず一番入口に近い席に座ってみました。初めまして時折カバネです、なんて挨拶は緊張で少しぎこちなかったかも。


 10時になると、リワークの説明をしてくれた工藤さん、それに2人の女性が部屋に入って来ました。

 それぞれ病院のロゴが入った名札を下げていて、竹下さんと井元さん。それにサポート役の方が1名おり、総勢4名の方がリワークを担当されるとのことでした。


 ◇


 まず最初、リワークの始まりは『昨日をどう過ごしたか』そして『体調』などを一人一人が報告するというものでした。

 部屋の右奥に座っている方から始まり、順々に一人ずつ報告をしていく。今日は新メンバー(僕)がいるということで、皆さん自己紹介も兼ねたお話をしてくれました。


 参加者は若い人で20代後半、年長の方で50代前半の方も。性別も職業もみんなバラバラ。市役所に勤める公務員の方もいれば郵便局に勤める方も。ちなみにIT業界の方は僕を含めて3人いました。やっぱり多いのかこの業界。


 昨日をどう過ごしたか、というのはリワーク参加者に渡された『行動記録表』というA4サイズの用紙……イメージとしては24時間タイプの手帳みたいな感じでしょうか、そこに書き込んだ内容を元に皆さんの報告が進みます。

 僕も翌日から書き始めたけれど、起床時間や就寝時間の他に、食事、買い物、散歩、等々を記録していくものです。


●例えばある日の報告

 ・23時半就寝

 ・7時頃に起床

 ・8時半に家を出る

 ・電車に乗って10時からリワークに参加

 ・16時ごろにリワークと診察を終える

 ・17時半に帰宅

 ・そこから晩ご飯などを済ませ……

 と言った感じで。


 また、この表には日毎に『気分の調子』を数値で記録する箇所が。通常時を50、最低なときは0、最高で100と言った感じで数値を記録していきます。


 何でこんな記録をするかというと、日々の自分の行動と、気分や身体の調子を振り返るためなのだとか。昨日は予定を詰め過ぎて疲れたな、とか、調子が良いのは何でだろうな、とか。これ後になって分かったのですが、とても重要な取り組みの一つでした。


 そんな感じで1日が始まり、10時半から予定されていたカリキュラムがスタートしました。


●10/23AM『共感』

 共感、とはメンバーが数名のグループに分かれ、相談事や最近の状況などを振り返るという内容。4人グループで1人約15分ほどを話す感じ。


 仕事でのストレス、ダウンした頃の話、今はどうすれば良いと思っているか等々……皆さんゴールが見えない激務に次ぐ激務、そしてそんな状況への不満や疲労がダウンする前は強くあり、僕と似た様な感じと言いますか『それわっかる~』みたいな。


 んで、11時半になると療法士さんが声を掛けて一旦終了。


 そこから15分間、今度は『振り返りシート』なるA4用紙に、自身の振り返り内容を記入していきます。用紙には項目が3つ。当時の用紙に僕はこう書き込みました。


―――――

①集中できましたか? どんな気持ちの変化がありましたか? 理由は?

→集中できた。みんな似た様な経験をされていて、肩が少し軽くなった。


②意識して取り組んだことは何ですか? 次回、意識したいことは何ですか?

→意識した:話を聞くこと。

 次回:リアクション?


③自身について気付いた事は何ですか? 他者から学んだ事は何ですか?

→自身:特になし。

 他者:自身も含め、激務に陥る過程を客観的に観ることが出来た。

―――――


 こんな感じでカリキュラム終了後は必ず『振り返りシート』を記入します。カリキュラムを通しての発見、気づき、反省、自身の体調・気分の変化などを繰り返し繰り返し、振り返っていくのです。


記入が終わると、今度は一人ずつ記入内容を発表。人の受け取り方とは様々なもので、自分の振り返りだけでなく、他者の受け止め方も聞いていくという感じ。


 最初は『なんでいっつも振り返るんやろか』くらいの受け止め方で、後になってとても重要なのだと感じる様になりましたが、それはまた別のお話に。


 発表も終わって12時にはお昼休み。

 僕は近くにあったすき家でチーズ牛丼を済ませ、13時からまた席に戻りました。


●10/23PM『絵手紙』

 午後からのカリキュラムは『絵手紙』で、ハガキ大の画用紙に水彩絵の具を使ってイラストを描くというもの。

 周囲に目を向けると、手慣れた手つきで描いていく人、じっくりゆっくり描いていく人、各々のペースで取り組んでいます。僕はまぁ単純に楽しんだと言いますか、3枚ほどのイラストを描いていくうちに終了時間を迎えました。出来栄えはまぁお察しで。


 14時半には終了し、またここで振り返り&発表。終わったら全員で待合室へ出て、順番に名前を呼ばれて先生のいる診察室へと向かい、終わった人から帰っていく。そんな1日のスケジュールでした。


『こんな事やって意味あるんだろうか……』


 そんなぼんやりとした不安、或いは焦りに似た感情が、初日の感想だったかも知れません。

 これで病気が良くなるんだろうか。

 これで体調が良くなるんだろうか。

 これで再発防止に繋がるんだろうか……?


「カバネさん、ちょっと良いですか?」


みんなと一緒に待合室へ向かおうとしたところで、工藤さんに呼び止められました。


「リワーク初日、お疲れ様でした。初めての参加でしたので、軽く面談できればと思うのですが、これからお時間ありますか?」

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