渡る世間は……
――日曜日。
「よう瑠夏。愛しの親友がやってきたぜ」
「……はいはい」
今日は充希のお見舞いの日だ。
「おいおい。せめて一言ツッコミをくれよ。それにしても平野のやつ……俺のお見舞いに来ていい日をちゃっかり日曜日だけにするなんて、ひどいもんだぜ」
「でもきっちりルール守るんだな。真面目かよ」
「見つかったら面倒なことになるかもしれないだろ。それだけだ。で、お前は大丈夫なのか?」
「まぁ、傷はまだまだ痛むけど、身体は普通に動くし、日常生活は普通に送れるよ。入院期間はまだ一週間以上あるけどね」
「そうか……まずは俺から謝らせてくれっ! すまない!」
さっきまで笑っていた充希は、少しどこかばつの悪そうな表情になった。そして、急に頭を下げ、謝罪をしてきた。
「ええ!? どうしたんだよ、いきなり!? やっぱりあの場所を教えたのは……」
「いや、俺は一言も言ってない!」
「じゃあ、なんだよ?」
「俺にもう少し魅力があれば、あの電波女の気を引けたかもしれない……そのことに関する謝罪だ!」
「おい、顔を上げてくれよ……お前のせいじゃないって」
「はぁ……それにしてもなんでお前に惹かれたんだ。理解に苦しむぜ」
「おい」
一言多いなこいつ……
「とにかく、お前がこれ以上やばい目に遭わないよう、悩みがあったらすぐ俺に言え! なにかもかも投げ出しても駆け付けるから! お前を絶対に守ってみせる……大切な、大切な親友だからな」
「あ、ああ……」
充希から手を握られ、さらにこんなことを言われ、別の意味で震え上がった。言っている内容こそは頼りがいのあるものだったが、なんか目がやばい……もしかして充希、新しい扉を開いたりしてないだろうか。
「本当は今日、部活の練習だったんだが、お前が心配だ。だから今日は一日中、お前のそばにいてやるよ」
その言葉でさらに寒気を感じた。
▲
――水曜日。今日は入院してから一ヶ月経つ。つまり……
「おはようございます」
「流川!」
「おお! 二週間ぶりの帰還だな!」
「おかえり、流川!」
ついに俺は退院した。今日から学校へ復帰だ。登校し、教室の扉を開けた瞬間、クラス中が盛り上がった。
「瑠夏!」
「るーちゃん!」
「瑠夏!」
「おわっ!? びっくりした……」
そして、梨音、紫苑、充希が一斉にやってきた。
「よかった……復帰できて」
最初に、梨音が俺に抱き着き、俺の顔を自分の胸に押し当てた。や、柔らかい……まるで毛布に顔をうずめているようだ。
「ちょっと門矢さん! 紫苑のるーちゃんになにしてるの!? 離して!」
「あっ、ちょっと平野さん!」
俺は無理やり梨音から引きはがされ、紫苑に抱き着かれた。さっきとは違い、胸を顔に押し付けられることはなく、おおよそ一般的な抱きつきだったが……
「……すん……すん」
おもむろに身体中の匂いを嗅いできた。
「……ちょっと門矢さんの匂いが残っているけど、それ以外はるーちゃんのいい匂いだな~。本当、大好きっ!」
「おいおい瑠夏、彼女の横でそんなことされてるのに、まんざらでもない顔してるじゃないか!」
「なんですって……」
「おい馬鹿やめろ充希! 梨音の目が気になる!」
充希が余計なことを言いやがったせいで、梨音の低い声が俺の耳に突き刺さるように入ってきた。
「それにしても……さ」
「ん?」
いつもの日常に戻ったばかりだが、少し違和感もあった。
「梨音と紫苑、いつから仲良くなったの?」
「はぁ!? なに言ってるの!? 紫苑がこんな泥棒猫なんかと仲良くするわけじゃないでしょ!?」
「それはこっちのセリフよ! 私なんて瑠夏共々あなたに殺されかかったのよ! この人殺し! 未遂だけど!」
……どうやらまずい質問をしてしまったようだ。そのせいで口げんかが発生してしまった。
ちなみに殺人未遂を犯した紫苑が学校に復帰できたのは『好きになった幼馴染を誰かに盗られたなら、そんな行動に及ぶのも仕方がない』という、成司先輩の計らいである。マジで意味が分からないし理解に苦しむ。
「あー……すまない。聞き方が悪かった。二人とも、前まではお互い本当にものすごい火花を散らしていたのに、今ではそんなことないっぽいからさ」
「「……」」
俺にそう言われた直後、二人はお互い顔を合わせた。
「ま、まぁ……瑠夏が入院したときは私が多くお見舞いできるようにしたし、なにより私の大切な彼氏を助けてくれたこと、本当にありがたかったから」
「し、紫苑はまだ門矢さんがるーちゃんの彼女って認めたわけじゃないよ! でも、あんな電波女に比べたら、門矢さんの方が遥かマシって思ったよ。それだけ! あくまでそれだけだから!」
二人はお互いにツンケンとしているが、お互いなりに歩み寄っているのだろう。あくまで俺の解釈なのだが。
「おいおいお前ら。二人で争っていると、俺が漁夫の利で瑠夏を盗ってしまうかもしれないぜ」
「ひいっ!?」
この前病院でかけた言葉……あれは冗談ではなく本心だったのか!? 俺は恐怖で上ずった声を上げてしまった。
「……なんつって!」
いやお前、そうやっておどけているけどな。後付け感すごいし、目がマジだったぞ。
「まさか三葉君まで……ライバルが多いわね」
「いや、だから冗談で言ったんだって!」
「でもあなた、目が本気だったわよ。それに、たとえあなたが冗談って思ったとしても、言葉は取り消せないから!」
と、言いながら梨音は充希を睨みつけた。
「おっと。俺と瑠夏の友情を舐めてもらっちゃ困るぜ」
「ちょっと門矢さん、三葉君! るーちゃんは紫苑のものなんだから、勝手に二人で争わないで!」
俺を除く三人が緊迫のムードでお互いにらみ合い、火花を散らしている中、チャイム音が鳴った。
「ちっ、興ざめだな」
「昼休みに決着だね」
「そのときは誰が一番瑠夏の好きなところを多く言えるか勝負ね。瑠夏も席に戻りなさい」
「あ、ああ……」
こうして俺たちはぞれぞれ席に戻った。
美人で可愛い彼女ができたと思ったら、幼馴染はやばいやつになるし、親友も新しい扉を開いて(?)しまった……これから俺、どうなるんだよ!
「はい、みなさんおはようございます」
漠然とした悩みに、頭を抱えていると、先生が入ってきた。
「えーそれではここで、転校生を紹介します」
「転校生……?」
「いったいどんな人なんだろう?」
「美人か!?」
「美男子かな!?」
「はいみなさん静かに」
クラスメイト達がひそひそと話しはじめたが、先生はそれらを咎め、教室が静まり返った。
「それでは入ってきてください~」
「うっ、嘘だろ……?」
俺は入ってきた転校生を見て、震え上がった。なぜなら、その転校生は黒髪ツインテールにピンク色のリボンをつけていたからだ。パーツや髪型、なにもかも見覚えがあった。
「えっと……転校生の藤井亜姫です。今日からよろしく」
な……なんで!?
「あ、ああ……」
俺は彼女から受けたトラウマが呼び起され、ぶっ倒れ、気絶してしまった。
「る、流川君!? 大丈夫ですか!?」
「……」
「ふふっ、また一緒にいられるね……アキの王子様」
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