第14話 幻のブランド「エリーゼ」
メイガス商会のビリーさんのおすすめ街道ルートに沿って、デジタルツインの数の暴力で土魔法で山を切り開いたり街道幅の拡張と舗装を押し進めたり、時折襲ってくる魔獣を退治する毎日を送っているうちに、位階が上がって鑑定の幅が増えたことに気がついた。
名前:エリス・フォン・カストリア
種族:人間
年齢:7歳
HP:1,237/1,237
MP:2,152,383/2,456,048
体力:615
魔力:12,503
加護:創造神の加護
と言っても、体力と魔力が見えたからなんだという話なのだけど。
「スキルを表示するとか、それらのヘルプ表示するとかしてくれてもいいのに」
「ボクがいるからヘルプはいらないんじゃないかな!」
「ファルコは、今更知ってももう遅い、というタイミングでしか言わないから使えないわ」
土方でひたすら土魔法を使ったせいで、魔法関係はかなりの威力とMPを誇るようになってしまった。今ではロードローラーのような、ぶっとい円柱、もとい、ストーン・ニードルを出せてしまうし、ストーン・ウォールやピットフォールを応用した高低調整も広範囲にかけることができ、効率はますます上がっていった。
お父様やお兄様の調整のお陰で街道のステークスホルダーの調整も順調に進んだお陰で、今では低優先度以外の街道は、ほぼ、王宮大理石クオリティで舗装が完了していた。
やはり、持つべきものは優しいお父様とお兄様ね。
ここまできたら、次は海路を開拓したいところだけど、その前に以前ティアラを贈ったマーガレット様からお便りが届き、交流のある令嬢たちから物凄い勢いで頼み込まれたから宝飾品を作って欲しいと言われてしまった。
ちなみに一番人気の職人はエリーゼ、私が職人として腕を振るう時の偽名である。さすがにエリス=エリーゼとは気がつかないだろう。
招聘に応じて七歳児が顔を出したら面子の問題があるだろうし、流石のお母様もことわるしかなかった。
「はあ、デジタルツインが大人の姿で出せたらよかったのに」
「年齢だけ変えることはできるよ!」
「…」
バシバシバシッ!
「痛いよ! エリス。暴力反対!」
「さっき、今更知ってももう遅いヘルプって言ったばかりじゃないの!」
まったく。でも、面白いことを聞いてしまったので、早速、十七歳くらいのデジタルツインを出してみることにした。
「で、どうすれば歳を調整した私を出せるの?」
「人数の前に年齢指定を入れればいいよ!」
「なるほど、デジタルツイン、十七歳!」
ポンッ!
あらわれたデジタルツインは、衣服が破れていた。
「ちょっと。なんで服は調整されないのよ」
「服に年齢はないから仕方ないよ! あと年齢を変えると、戻しても記憶や経験が統合されないんだ!」
なんて使えない…こともないか。お母様の若い頃の姿絵にそっくりなプラチナブロンドに青い瞳の十七歳の私は、なかなか綺麗な顔立ちにバランスのいいスタイルをしていた。
「これなら適当な服を着せればバレそうにないけど、お母様の知り合いだと血縁を疑われそうなくらい似ているわね」
隠し子発覚などと騒がれたら、お父様とお母様は真実を知っていたとしても、色々と問題があるような気がする。まあ、相談してみることにしよう。
◇
先日ビリーさんに届けてもらった布を使い、いつものようにデジタルツインで数をこなして服飾技術を上げた上で、ベーシックな白いブラウスに水色のスカートといったカジュアルな洋服を作って十七歳の私に着せ、晩餐の席に立たせた。
「エリス、後ろの子は…ひょっとしてエリス自身かい?」
「はい。服が複製できなかったり経験や記憶を共有できなかったりする制限があるようなのですが、歳を偽ることができるようになりました」
そこで私は、エリーゼの名前で宝飾品をマーガレット様に贈った時の対応について、見ての通りお母様に似過ぎているなど、色々と問題があると考えたことを話した。
「エリスがこんなに綺麗になるなんて、我が妹ながら今から心配になってきたよ」
カールお兄様がそう言うと、ブルーノお兄様は後ろに立つデジタルツインに近寄り繁々と見つめ、突然おかしなことを問いかけた
「俺の友人が甘いお菓子を手に入れたそうでエリスに今夜来てほしいっていうけどどうする?」
「本当ですか! 今すぐ行きます!」
「なるほど、中身は今のエリスのままなんだな」
即答するデジタルツインに、家族の皆も頷いた。
「ところで、この子が来ている服は見たことがないけど、どこに作らせたのかしら?」
「お母様、その服はビリーさんに納品してもらった布と糸を使って私が作りました」
「中々センスが良いわ。これも宝飾品と合わせてエリーゼのブランドで流してみましょう」
ええ!? 普通の洋服だったんだけど、売り物にするならもう少し洒落たデザインにすることにしよう。
その後、続けてお母様から色々と質疑応答で試された結果、危なっかしくて外に出せないという結論に至った。確かに客観的にみると、ホイホイ知らない人についていく傾向があり、危ないかも知れない。
もっとも、通常のデジタルツインと違って、何かあっても記憶にも残らないけど。
「この際、実家にエリス=エリーゼと正直に話して、他家からの催促については侯爵家で便宜をはかってもらうのがよいでしょう」
「イリス、アストリア家にはエリスの能力については隠しておくんだぞ」
「わかっています、お父様。もっとも、王宮での出来事が広まれば、侯爵家の情報網にかかるのは時間の問題ですが」
こうして、対面なしで侯爵家を窓口としてエリーゼの名前で宝飾品や服飾品の受注をすることになった。
◇
エリスが思いつくままにデジタルツインの数の暴力で作りまくった宝飾品と服飾品を大量に受け取り、今やマーガレットは歩く広告塔と化していた。
「マーガレット様、例のエリーゼの件、どうなりましたでしょうか」
「ごめんなさい、公爵家の専属ではないので呼び出すのは無理でしたわ。服飾も手がけているようで忙しいようですの」
「まあ、ひょっとして、今、お召しになられているものもエリーゼですの?」
「ええ、姿絵やデザイン、サイズなどを御用聞きの者にまとめてもらい、父を通してそれを叔母に送れば、こうして送ってくれますの」
どう見ても時間がかかる手の込んだ一品ばかりで、余人には人気の職人で時間がないという理由が自然に通り、オーダーメードの御用聞き部分をまとめたものをエリスが受け取り、それを元にして作った宝飾品や服飾品を御用聞きした担当者が貴族家に収めるという分業化が進みつつあった。
「では、私もそのように御用聞きの者にまとめさせますので、お願いできませんでしょうか」
「わかりましたわ。父を通して叔母にお願いしてみますわ」
こうして、エリーゼのブランドは口コミで少しずつ貴族令嬢の間に浸透していくこととなった。
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