徘徊

蘭山琥珀

第1話

「ああ、今日も暑いな」

 最近の日本は外に出るだけで全身汗だくになる。クーラーやアイスでもないとやっていけない。今にも死にそうになる暑さだ。そんな愚痴を言いながら今日も一人どこかへ向かう。学校か?美容院か?いや、違う。歩いて行った先には大きな建物があった。この辺りの住民でここを知らない人はいないだろう。そこは僕の行きつけの場所だ。いや、行きつけの場所になってしまったという方が正しいか。建物の中に入るとそこは天国のように思われた。

「涼しい~」

クーラーだ。ここへ向かう道中、灼熱の太陽に晒され死にかけていた僕にとってはこれ以上ないご褒美だった。

「(戦を戦い抜いた後のクーラーは格別だな)」

どうやら幾つになってもこんな子どもじみた側面が抜けないのは僕の性らしい。そんなことを考えていると自分の名前が呼ばれるのが聞こえた。

「〇〇さん、おはようございます!」

看護師さんの元気のいい声が聞こえる。ああ、そうだ。ここは病院だ。なんだ、夢だったのか。僕は入院してるんだった。


 夢の中と同じように猛暑の日だった。毎日毎日パソコンで同じ動きをし、上司に叱られ、クレーマーに対応して―ロボットみたいな生活だった。そんな僕が唯一仕事から離れて過ごせた日、そんな日のことだった。猛暑の中散歩していると、急に視界が真っ暗になった。自分でもなにが起きたのかわからない。なんだか周りの人たちが騒いでいたような気はする。次に目が覚めた時、僕は病院のベッドで寝ていた。目が覚めた僕を見て慌てて医師を呼びに行く看護師。

「なにをそんなに慌てているんだ?ただの熱中症かなんかだろ」

悠長にそんなことを考えていた。医師が来た。どうやら院長らしい。

「わざわざ院長がご苦労なこった。それにしてもこの院長、トトロみたいだな」

そんな呑気な僕を一瞬にして凍らせたのは院長の一言だった。

「あなたはもう長くないかもしれません」

え、、、、、

「トトロさん、どういうことなんですか!?」

「トトロ?」

「あ、いや、院長さん」

「言葉の通りです。正確にはわかりませんが、」

頭が真っ白になった。そりゃそうだろう。つい先日まで普通の生活をしていたのに、いきなり寿命宣告-しかも期間がわからない-されて落ち着いていられる人間なんていないだろう。

「僕は、僕はどうすればいいんですか?どうすれば生きられますか?」

「わかりません。今はそうとしか言えません。失礼します。」

「今はって何ですか!いつわかるんですか!」

この時の僕は正気を失っていた。院長や看護師が部屋を出た後、僕は泣きじゃくった。

「死にたくない。生きたい、、、」

そうして泣いているうちに気づけば夢の中にいた。まるで泣きつかれて寝てしまった赤ん坊のように。

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徘徊 蘭山琥珀 @relaxed

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