受験の許可をいただきましたわ
剣はぴたりと止まっていた。
少女の頭上で、微動だにすることなく。
理由は簡単だ。
リーラリィネがつまんでいるから。
「なっ……! はぁ!? ど、どういうことだ! お前、何をしたんだ!」
「何をしたと言われましても、斬りかかってこられたのでお止めしただけですが?」
何でもないという顔で返す少女に、グランツはゾワッと悪寒を覚えた。
「そんな馬鹿な……たしかに全力で振ったはず! 僕の剣はそんなに生ぬるいものじゃっ! っていうか、これ……全然うごかないぃぃぃぃ!」
「これは失礼しました。もう攻撃はおしまいでしたのね。ここから追撃でもあるのかと思って警戒してしまいました。それでは、剣はお返ししますわ」
そう言うとリーラリィネは剣をつまんでいた人差し指と親指から力を抜く。
急に重みを取り戻した剣にびっくりするも、なんとか体勢立て直すグランツ。
が、その顔はすぐさま痛みで歪むことになる。
メキッ!
リーネリィラの拳が、彼の腹部に大きくめり込む。
グランツの身体は後方へと大きく吹き飛び、ピクピクと痙攣を始めた。
「あらあら、いまの一撃をそのまま受けてしまうのですか? それはさすがにちょっと期待ハズレですわ。勇者学園の入学希望者……いずれは魔王を打ち倒そうという者がこの程度では。まあ、ほかの勇者がどうであろうと、ワタクシには関係ありませんが」
そのまま倒れるグランツの元へ迷いなく近寄る。
が、それをグランツの側に立っていた2人の男が阻もうとする。
「そこを退いてくださらないかしら? ワタクシ、あの方からいただきたいものがございますの」
すると、男たちはすぐさまリーネリィラを捕まえようとする。
しかし、その手をするりと躱した彼女に、逆に首根っこを押さえつけられてしまう……それも、2人同時に。
「何度も言わせないでいただきたいですわ。ワタクシは、その方から、いただくものがございます」
グッと掌に力を込めると、男たちはそのまま気絶してしまった。
このやりとりのおかげで、グランツは意識を取り戻し、なんとか逃げようと這い出していた。
だが、のろのろと這っているだけで、まったく距離を取ることができない。
「どこに行かれるおつもりですか、えーと……グランツドローゼンハイム様?」
「ひ……ひぃぃぃ!」
名前を呼ばれただけで、悲鳴を上げてしまう。
それほどまでに彼女との「力の差」を自覚させられてしまったのだ。
「先ほど尋ねましたら、貴方はカメイをお持ちとのこと。なら、それをワタクシに譲ってくださいませんか? どうもそのカメイなるものを持っていないと、入学試験を受けられないそうなので。さあ、譲ってくださいな」
満面の笑みで手を出す少女。
「お前……なにいって……」
グランツは彼女の行動が理解できず、ただただ震えていた。
「ですから、ワタクシにはカメイが必要なので、それを譲ってくださいとお願いしているのです。それとも、まだワタクシに敵うとでもお思いですの?」
今度はさっきとは反対の拳を握りしめ、彼の頭上に構えてみせる。
「ち……ちがう! ちがうよ! 家名は……家名ってのは!!」
「我が勇者学園の入試に、家名は必要ありませんよ!」
静かに、だが力強く響き渡る声。
その場にいた全員が、その声の方向へと目を向ける。
「どんな者にも勇者となる可能性はある。それが平民でも貴族でも、盗賊でも物乞いでも家無しでも、素養さえあれば勇者への道は開かれている。それが我が校のモットーであります!」
先ほどとは異なり、揚々とした大声が空気を震わせた。
「ですから、それ以上、その方をいじめる必要はないですよ……レディ?」
いつの間にか近づいていたソレは、振り上げていたリーラリィネの拳を掴む。
彼女がハッとしたのもつかの間、すぐさま手の甲に男の唇が触れた。
「しばらく拝見させていただきましたが、素晴らしい才能をお持ちのようだ。あなたなら、我が校の門を軽々とくぐり抜けるでしょう。いや、あるいは歴史に名を残す偉大な勇者となられるかもしれません。さあ、試験会場までご案内しましょう」
その仕草はまるで王族のように優雅で、それでいて落ち着いたものだった……リーラリィネが見逃すほどの速さを除いては。
「それはつまり、入学試験を受けられる……ということで、よろしいのでしょうか?」
「ええ、もちろん! むしろ貴女のような方を逃しては、我々の名誉に関わりますよ」
そう言うと、男はリーラリィネの手を引いて歩き始める。
「そうだ! 私の名前をお伝えしていませんでしたね。私はこの学園の生徒会で副会長をさせていただいているアルス・ル・ホーエンハイムと申します。入学が決まれば、何かと聞くことになる名だと思いますので、ぜひ覚えておいてくださいね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます