【第1章】魔王令嬢、勇者学園で大騒ぎ
勇者学園に到着しましたわ
「ふふふ……ついに、ついにこの日が来ましたわ! ワタクシが勇者になる日が!」
高らかに叫ぶ少女は……その堂々とした振る舞いとは裏腹に、ボロボロの恰好をしていた。
というのも、(元)魔王令嬢リーラリィネはユウシャとそれを育てる学園の話を聞いて、すぐさま人族の住む南大陸を目指した。
道中で路銀を稼いだり、危うく道に迷いかけたりといった苦労はしつつも、およそ3か月ほどで勇者学園を擁する都市カルガンディにたどり着いた。
その時点では、多少汚れは目立つものの、それなりの装いをしていた…が。
問題は「学園の入学試験が5か月後だった」という点である。
そして、それは「手持ちのお金がない」という状態に直撃。
路銀を稼いだ時のように、腕っぷしで仕事をしようとするも、そういった「物騒な仕事」が出回るほどガルガンディの治安は悪くなかった。
むしろ、北大陸との境目からは距離が離れており、魔物の被害とはほぼ無縁。
加えて、勇者学園という「国営施設」が存在するために常駐の騎士団などもおり、人々は安心して暮らせるという状況だ。
そんなところに身元不明の少女がやってきて、「仕事をください」と言ったところで誰も取り合ったりはしない。
いや、唯一「女を売る」という道ならば残っていたが、それは魔王令嬢(元)としてのプライドが許さなかった。
結果、リーラリィネは無事に「家無し」となり、ガルガンディの夜をこそこそと生きるハメになった。
「うう……惨め、惨めでしたわ。まさか、パンの切れ端をあんなにおいしく感じる日が来るなんて。ああ、バハル通りのツェンお爺様、あなたが夜の街の歩き方を教えて下さらねば、今ごろワタクシは路傍の石のごとく打ち捨てられておりました。貴方こそワタクシの第二のお父様でございますわ」
きらりと右目の目元が光るが、それを指先で力強く払う。
「でも、今日は……今日からは! そんな日々ともおさらばですわ! 今日この日こそ、勇者学園の第12期生の入学試験日! 事前に聞いたところによると……勇者学園に入学すれば、寮での生活に三食つき。ふかふかベットで眠れる日々がやってくるのですわ! 勝った、これは勝ちましたわ!」
嬉しさのあまり大声で叫びまくるリーラリィネ。
しかし、周囲の視線は冷ややかである。
それは痛い子を見る目……とは違うものだ。
だが、誰もそれを彼女に告げようとはしない。
ただただ、「視線」だけを向けてくる。
けれど、それを「気にしない」のが魔王令嬢(元)としての作法と、完全に無視するリーラリィネ。
彼女が叫び散らかしていた学園の正門をまっすぐに進むこと徒歩で5分。
そこには長蛇の列が生まれていた。
受付である。
勇者学園への入学希望者はあとを絶たない。
入学した者に与えられる恩典はもちろんのこと、もし無事に卒業できれば、どれだけ成績が悪くとも「名誉ある職」を得ることができる。
仮に「勇者」と認められれば、「魔王軍と戦うため」という名目の元にあらゆる援助を受けられ、その家族は「勇者の一族」として尊重されるようになる。
しかも、受験条件は無し。
平民だろうが貴族だろうが、盗賊だろうが家無しだろうが、素質があると判断されれば入学可能。
言ってしまえば、「人生を変える大博打に誰でも挑戦できる場所」となっていたからだ。
そして、リーラリィネもその列に並ぶ1人となる。
目的はほかの人族たちとは大きく異なっているが。
「三食付きベッド……ほかほかあったかご飯……ぬくぬくベッドでお休みなさい」
異なっているはず……?
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