捜索

金の受け渡しが終わった後、蝉はからりと口調を変えた。それは、薫が咄嗟に追いつけないくらいに。

 「捜してる女の特徴を言ってよ。思い出話しでもいいや。少しでも情報がないと捜しようがないでしょ。」

 乱れたままの布団の上に膝を崩した蝉は、しかし右手でぎゅっと掛け布団を握りしめていた。

 その手から目を離せないまま、薫が言葉に詰まっていると、蝉は右の手首を左手で握るようにして両手を自分の膝の上においた。

 見てはいけないものを見てしまった気がして、薫は焦ったように頭に思い浮かんだ言葉をそのまま口にした。

 「背が高くて、髪の長い人です。」

 すると蝉は両手を軽く握ったり開いたりしながら、ちょっと笑った。

 「それは前に聞いたよ。そんな女はここにはたくさんいるんだよ。背が3メートルあるとか、髪が5メートルあるとか、そんなレベルじゃないんでしょ。」

 はい、と、まだくちゃくちゃになった頭の中で、薫は必死に言葉を紡ぐ。

 「俺、戦争で両親亡くして、食べもん探してこっちの方まで流れてきたんですけど、万引きしようとして捕まったんです。それで、棒で殴られて死にかけてたのを助けてくれた人なんです。」

 そう、と軽く頷いて、蝉は顎先をしゃくってで先を促した。

 「私の子供だよって、その人は言って。お店の人とは顔見知りだったみたいだから、そんな嘘を信じたわけじゃないとは思いますけど、とにかく解放はしてもらえて。」

 「そう。それで?」

 「それで……その人の家に連れて行ってもらって、一ヶ月間暮らしてました。」

 「その家の場所、覚えてないの?」

 「……通りの真ん中あたりから一本か二本横に入ったところにあったバラックだったのだけは覚えてるんですけど、正確な場所は覚えていなくて……。」

 「そのバラックで客取ってたの?」

 「いえ、違います。夜になると化粧をしてどこかに出かけて行っていたので……。」

 へぇ、と肩をすくめながら、蝉が曖昧に首を振った。

 「家の場所、なんとなくでも覚えてるなら探してみる? このあたりは人の出入りが激しいから、10年前から住んでる人なんかいないと思うけど、それくらいしか手がかりないでしょ。」

 「はい!」

 「見つかんないと思うよ? 戦後の焼け跡に建ってたバラックなんか、ほとんどどこも取り壊しになってるからね。」

 「はい!」

 「ちょっと、俺の話ちゃんと聞いてる?」

 「はい!」

 わずかでも手がかりらしきものを見つけられた嬉しさで舞上がる薫を見て、蝉は呆れたように息を吐いた後、じゃあとっとっと行くよ、と着物の裾を捌いて立ち上がった。





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