瀬戸は薫の全身にくまなく触れ、丁寧に性感帯を探していった。その仕草はどこをとっても蝉に似ていて、蝉を男娼として育てたのは瀬戸なのだということを如実に物語っていた。

 「ここも、ここも気持ちいいんだ? すごいね。蝉に散々可愛がられてるんだね。」

 薫の耳元で瀬戸が囁く。恥じ入った薫は、身を縮めながらどうしようもなく喘いだ。

 くすくすと、息のかかる距離で瀬戸が笑う。

 「蝉もやりすぎたね。これじゃあ、水揚げの子を買う楽しみがない。」

 「だめ、ですか? 俺の身体は。}

 「だめじゃないよ。蝉の執着が見えて面白い。ここまで乱れてくれたら男冥利に尽きるしね。」

 言いながら瀬戸は、薫の中に入れた指を、内壁をなぞるように動かす。

 薫は半ば怯えるような嬌声を上げて身を捩った。

 「いい声。」

 子供を褒めるように薫の髪を撫でながら、瀬戸は彼の中にある指をもう一本増やした。

 「俺ももう10年はここで遊んでるけど、水揚げでここまで感度がいいのはきみがはじめてだな。」

 10年。

 快楽でかすむ意識の中でも、薫の頭はその言葉を確かにとらえた。

 咄嗟に男の腕を掴み、身体を捩るようにして瀬戸の下から身体を逃がす。

 畳の上に裸で正座した少年を、瀬戸は虚をつかれたように目を瞬いて見つめた。

 「10年ここで遊んでらっしゃるって、言いましたよね?」

 快楽の残滓と、不安と期待とで、薫の声は不自然に揺れていた。

 「ああ、言ったけど……。」

 瀬戸の声も、驚きと不審感とで不自然に揺れていた。

 「捜してるひとがいるんです。10年前にこの街にいたひと。」

 「……10年前に?」

 「はい。」

 「それは、どんな?」

 まだ驚きから抜け出せないのか、瀬戸は自分に言い聞かせるかのように、短い単語だけをゆっくりと発音していた。

 それとは対象的に、期待を孕んだ薫の声は早口でわずかに弾んでさえいた。

 「髪の長い、背の高い人です。俺のことを助けて、1月の間育ててくれた人なんです。」

 「そのひとの、名前は?」

 「……わかりません。」

 「どこの置屋にいたひとなの?」

 「……わかりません。」

 情報が少なすぎるね、と、瀬戸が苦笑した。

 「時々いるんだよ。親代わりをしてくれたひとを探しに来る子は。でも、大抵の場合は見つからない。情報が少なすぎたり、時間がたちすぎていたり。きみは、両方だね。」

 言いながら、瀬戸は薫の身体を組み敷き直す。

 逆らうことはできず体中をいじられながら、きみは、両方だね、という瀬戸の言葉が薫の頭の中をぐるぐると回っていた。








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