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「本当に自分でやるのか? 変なとこに傷でも作ると大変だぜ。」
変なとこってどこ、とか、傷を作るとどうなるの、とか、訊きたいことは一つならずあったが、それでも薫はただ一つ頷いただけで一番小さな張り型を手に取った。
本当だったら蝉に部屋から出ていってほしいところだったが、それについての押し問答はとうに済んでいた。
蝉としては、もしも薫が体内を傷つけてもしたらすぐに対処ができるように、ある程度薫が張り型になれるまでは、部屋を出られないのだという。
こっちを見ないでください、と薫としては言いたいところなのだけれど、台詞がどうしても女々しすぎるようで口には出せなかった。
そうなると薫には、もう黙って張り型を体内にねじ込むしか道はない。
右手に握った張り型をぎっとにらみつけ、尻の方へ持っていく。
「いいね、役得。」
そんなふざけたことを言いながら、蝉がけらけらと笑った。
ほっといてくれ、と内心で吐き捨てながら、薫は手に持った張り型の先端を体内に挿入した。
「うえ……。」
そこで薫の手はとまる。ほんの先端だけなのに、身体の中に巨大ななにかが入り込んできたような感覚があった。
そのまま動きを止め、凍りついた薫に対し、抱えた膝に顎を乗っけて観察をしていた蝉は、けろりと言ってのけた。
「俺がやってやろっか?」
いや、いいです、と言いたかったが、言えなかった。自力ではそれ以上一ミリたりとも張り型を進められそうにはなかった。
「……お願いします。」
羞恥と屈辱で薫の顔から首にかけては真っ赤に染まっていた。
蝉はにやにや笑いを崩さないまま、平然と薫の腰の脇に移動し、張り型に手を添えた。
「息止めないで。ゆっくり呼吸してて。」
蝉の声は、にやにや笑いの印象とは全く異なり、低く静かだった。それは薫のばくばくいう心臓を鎮めようとするみたいに。
そのことに驚いた薫は、蝉の表情を確認しようと首をひねった。
しかし、確認をする前に蝉がぐっと一息に張り型を進めたので、そんな余裕はまるでなくなった。
唇を噛み、うめき声を押し殺す薫の唇を、蝉の女のように細い指がこじ開ける。
「いいよ、声出して。そのほうが辛くないから。」
薫はもがいてその手から逃れ、唇を噛み締め直した。その動作は、人間のそれと言うよりは野生動物のそれのように見えた。
いいな、ますます好み、と、蝉が囁くように言った。冗談にしては、密やかすぎる声だった。しかし、薫には蝉に真意を問う余裕などなく。
「しばらく入れっぱなしにするよ。」
蝉が地獄みたいな宣告をし、顔色をなくす薫の傍らにごろりと寝そべった。
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