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「俺、まじで仕込みは得意じゃないんだよな。どうする? 自分でやる?」
4畳もない狭い和室に、ここがあんたの部屋な、と通された後、腰を落ち着ける猶予さえなく蝉が問うてきた。
薫は殊更ゆっくりと畳に腰を落ちつけながら、蝉の派手な花柄の着物の襟元あたりに視線を固定した。
「自分でやるって、なにをどうやってやるんですか?」
ああ、そうだよな、普通わかんないよな、と、妙に感じ入ったように頷いた蝉は、押し入れの中からやけに立派な桐の箱を取り出した。
「これを尻の中に入れる。俺のときはここにも何人か男娼がいたから、みんなで入れあってならしたんだけど、今は俺とお前しか男娼いないから、俺に入れられるか自分で入れるかの二択になる。」
薫はそろそろと手を伸ばし、桐の箱の蓋を開けた。
中には一目で用途が分かる、黒い鉄のような素材でできた男根が大きさ順にずらりと並べられていた。
「……。」
その物体から立ち上る威圧感に、薫はしばらく黙り込んでしまった。蝉は返事を促すでもなく、桐の箱の隣に座り込んで一つ欠伸をした。
その欠伸を見ていると、なんだか鉄製の男根を蝉に入れられるか自分で入れるかなんて些細な問題に思えてきた。
だから薫は震える息を細く吐いて、自分でやります、と答えた。
そっか、と蝉は目を細めて笑った。
「最初は俺がやり方教えるよ。中の洗浄だってしたことないだろ。」
中の洗浄というのがなにを意味するのか分からないまま、薫は頷いてそのまま蝉に頭を下げた。
「よろしくお願いします。」
いいってことよ、と蝉はにっと口元を笑わせた。
「あんた、結構俺の好みなんだよね。役得だわ。」
蝉の女のように白く細い指が、薫の額に落ちた前髪を軽く持ち上げる。
「あんた、前髪上げたほうがいいよ。きれいな顔してるんだから、もっと表に出していかないと。」
なんと答えれないいのか分からず、ちょっとたじろいで黙り込んだ薫の額に、蝉はにやにや笑いの形のままの唇をぽいと落としてきた。その感触は、冷たく乾いていた。
ぎょっと更に派手にたじろいだ薫を見て、蝉はにやにや笑いをからりと深くした。
「今日はもう休みなよ。明日、洗浄の仕方と尻の慣らし方教えるから。」
もう休みなよ。
その台詞でようやく、もうすっかり日が落ちていることに気がついた薫は、同時に自分が恐ろしく疲れていることにも気がついた。
「ふとん……」
布団どこにあるんですか、訊こうとしたときにはもう視界がブラックアウトしていた。
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