第25話【ヤバい取材活動】

 天狗騨がASH新聞社用車のエンジンを回すと後部座席のふたりは驚き、いよいよ動き出すと今度ははしゃぎ始めた。なんやかんや言って貴族の別邸、ありがたいことに街までの道は未舗装ながら続いている。

 まったくはしゃぎもしていなかったリンゼがようやくここで口を開いた。

「テングダさん、いったいギルドでなんのお話しをしていたのか、教えてくれますよね? ここでないとできないお話しなんですよね?」と。


確かに天狗騨は『密室でないとできない話しがある。話しは車の中だ』と口にしている。

(なんか怒ってるのか?)と軽く驚くが天狗騨も自分の言ったことは忘れていない。元々そのつもりだった。

 天狗騨は喋りだした。

「俺はこの世界に『無双転生者』は1人しか存在できないんじゃないかと、そう考えている。俺の目の前で蒸発するように消えたあの男が無双転生者だと知ったからだ」と、いきなり結論を断じた。


「はい」とリンゼが声を変える様子も無く普通に相づちを打つ。

「えっ⁉ なによそれ? 煙みたく⁇」と大家ミルッキ。

「テングダさんがやっつけたんじゃないんスか?」とフリー。

 〝ひとり〟と〝ふたり〟、まったく対照的な反応。


(そういや、リンゼは現場を見ているし、あの時フリー君は用でも足していたのか、現場にいなかったな、)と思い出す天狗騨。むろんこの時大家であるミルッキが現場にいるはずもない。

「実は彼はこの乗り物の下敷きになった」車の運転を続けながら実に無造作に天狗騨が言った。

「えーっ‼」とフリーと大家ミルッキの声が重なってしまう。

「だけど生きてたんだよな、普通に。まあ重たそうではあったが—」と天狗騨。

「さすが……無双っスよね……」

「だけどなフリー君、彼も無双で私も無双、無双転生者と無双転生者が戦ったらいったいどっちが勝つんだ?」

「そう言えば、そうっスよね? 俺がテングダさんに……、その悪態つくまでになにが起き……、あっ、スンマセン」

「いや、それはいい」

「テングダさんが前の無双転生者の身体に触れた。その途端に消えたんでしたよね?」とリンゼが代わりに〝答え〟を口にした。

「そうだ」

「そんなことがあるの?……」と大家ミルッキ。

 天狗騨は続ける。

「俺のカンでは、これは一度きりの偶然じゃない。そこでギルドだ。『無双転生者』の退治する魔物は、ギルド金貨への換金率が非常に高いらしい。当然誰に支払われたか、名前の記録もあるに決まっている。そこから同時期に無双転生者が複数人いるかどうか分かると踏んだ。だが支払い記録の閲覧は即行拒否られた」

「テングダさん、こっちの文字読めましたっけ?」とリンゼ。

「そこは協力を求めるに決まってる」

「まぁ、わたしがやるしかないですよね」とリンゼ。チラと天狗騨が横顔を見れば僅かに微笑みがあるようにも見える。天狗騨は前を向き、話しをなお続ける。

「だがこれでハッキリしたことがある。帳簿を俺たちに見られるとマズイことになるんだ」


「それがあったとして、誰かがちょろまかしたって可能性ない?」と後部座席から大家ミルッキの声。人間が一人、蒸発するように消えるなどまだ信じてなどいないという声がアリアリ。


「実際誰にも支払っていないのに、帳簿上支払ったという可能性ですか?」確認するように天狗騨は訊いた。


「そう」


「しかしギルド内部の人間が『ギルド金貨』を横領したとして、出所はギルドだと分かっているんだから、持ち出した人間としては実に使いにくいお金であるのは間違いない。分不相応に使っていたら簡単に足が付きそうだ」と天狗騨が否定的な見方を示した。


「なんか、ヤバい話しになってません?」とフリー。


「まだ何か考えてますよね?」さらにリンゼが訊いてきた。


(なんか、この子は鋭いな……)

「だがこっちはもう行き止まりだろう。ギルドの帳簿を調べられない時点でな。そこで今度は別のアプローチだ。今からそのための材料を集めに行くところだ」天狗騨は答えた。


「どこへです?」


「壁の外をぐるりと一周のドライブだ」そう言いながら天狗騨はパワーウィンドウのスイッチに手を伸ばしウィィィンと運転席の窓を降ろした。爽やかな森の風が車内に吹き込んでくる。

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