第17話【無双転生者の証明証】
その怒鳴り声から一転、ネルリッタが天狗騨の方を振り向いたときもうその表情はまったく別のものになっていた。
「では私からは今日最後の説明となりますが、テングダさん。これを首にかけておいてくださいね」
そう言われネルリッタから、手の平に乗せた銀色をした縦笛のミニチュアのようなものを示された。ミニチュア、というのもそれは長さが5センチほどしかなく、ペンダントにするためとしか思えないこれまた銀色のチェーンがついている。
「では私がこれをつけて差し上げましょう」と既に話しがネルリッタペースに。天狗騨が言われるまま首を垂れ前傾姿勢のような体制をとると手早くそのペンダントはまたたく間に天狗騨の首からぶら下げられてしまった。
ふと天狗騨の頭の中に嫌な予感が奔った。
「これ、一度つけたら外せないなんてこと、無いですよね?」
ネルリッタはほほっと高く笑いながら「まさか、」とまず口にし、「それを指でつまんで『ステータスオープン』と言ってみてください」と続けた。
(これに使い方なんてものがあるのか?)と思いながら、それを指でつまみ、口にするのに少しためらわれる台詞を初めて口にした。天狗騨は口にする。
「ステータスオープン」
口にした瞬間に銀色の縦笛のミニチュアのようなものから、あの時と同じように宙にAR(拡張現実)技術で作られたが如き半透明の長方形が現れた。あの時とは大司卿なる人物がそのことばを口にした時と、その大司卿が託した謎の筒を手にしたネルリッタが、やはり同じことばを口にした時である。
ともに現れた半透明の長方形を裏から見ていたから気づかなかったのだろうか、今こうして正面からこれを見れば、細かな模様のようなもので半透明の長方形の中が埋め尽くされている。
しかし——それはただ現れているだけとも言えた。
「これはナニカの武器ではないのですね?」天狗騨が念のために訊いた。
「これを見ただけでテングダさん、あなたが無双転生者であると、誰にでも分かります。街中で身分や素性を疑われたら『ステータスオープン』と口にする、それをするだけで疑った人間の態度が反転しますから」
(人間とはそんなもんだっていう割ととんでもないことを、あっさりと口にしてくれる)そう天狗騨は思った。しかしこれはまだ序の口な感想に過ぎない。
ソレにもまして天狗騨が嫌になってしまったのは(この世界ではことばが解っても文字が読めない!)、そのことに気づかされてしまった点にこそあった。
(新聞記者が文盲なんてお話しにならない! 俺はもう無双転生者として生きていくしかないのか⁉)と。
そんな思考からふと天狗騨が我に返るとネルリッタの話しはまだ続いている。
「——では、お名残惜しいですけど、いろいろ片付けなければならない用事もあるでしょうし、今日のところは私からはこれでおしまいです。またのお越しをお待ちしております」そう言ったネルリッタは天狗騨を出入り口の方へと誘導する。
そうしてわざわざギルドの正面玄関にまで見送りに出て、かくして天狗騨とリンゼとフリーはギルドを後にすることになった。
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