第2話【「あれぇ? オレ、なにかやっちゃいましたぁ?」案件】
「あっ、ありがとうございますっ」リンゼが天狗騨に言った。
(怪しい)またも天狗騨は直感した。繰り返すが天狗騨の職業は新聞記者である。だから物事をついつい疑ってかかる癖がある。
「消えた男はあなたの名前を知っていたようですが、仲間が消えて『ありがとう』とは腑に落ちないのですが」天狗騨は訊いた。
「そうですね、確かに仲間です。でもしょうがなく仲間のような事をしていただけ。王国の未来のために」そうリンゼは答えた。
「おうこく?」
天狗騨は日本人である。だから一瞬『こうこく(皇国)』と言ったように聞こえた。しかし改めて少女に確認してもやはり『王国』であった。得体の知れない怪物が王国の領土内に出没し、それらを退治し続けなければ国が維持できないのだとかなんとか、そんな理由を天狗騨は一方的に聞かされた。
正直なところ天狗騨にはこの異界の国が置かれた事情に同情する余裕はまるで無かった。というのも食糧も飲料水も無いままに異界の深山に連れて来られ、どうしたら会社に、というか日本に戻れるのか皆目その方法が見つからないからであった。
天狗騨は自己嫌悪に陥りながらも、この現状の打開策がひとつしかないことを自覚する他なかった。
(なぜだか解らんが俺はこの少女のことばが理解できるし、それは向こうも同じらしい。そして不案内な土地では道先案内人というのは必須だ)
天狗騨はもちろん〝そんな取材〟はやった事も無いが、海外で特殊な組織に接触し取材をしようと思ったら一人で行くのは暴挙でしかなく、必ずガイドの役割を果たす仲介者が同伴しないと命の無駄遣いとなるくらいの事は十二分に理解していた。
となれば——
(ここは目の前のこの少女はそのガイドのようなものだ。ここは不道徳感漂うが仲良くなっておくしかない——)
とその時だった。
ガサガサガサと茂みをかき分ける、いや木々をなぎ倒しながら進むような無遠慮な音が天狗騨の耳に届いた。
果たしてそこに立っていたのはひとつ目の巨大な猿人であった。噂に聞くビッグフットよりもさらに一回りデカい。身の丈は3メートルは優にありそうだった。
ひとつ目の猿人はASH新聞社用車に今正にその手を掛けようとしていた。
とっさに(マズい!)と直感する天狗騨。(この車を破壊されたら元の世界に戻れなくなるのでは?)という直感に襲われた。
「オイっ!」
明らかにことばが通じなさそうな相手に思わず声を上げてしまう天狗騨。だがその瞬間、ひとつ目の猿人はぐらりとよろめいた。瞬間なにか直感めいたものを感じた。
「キシャアアアアアアアァァァァァッッッッ!!!!!!」閃きの趣くまま天狗騨は特段意味を持たないことばを絶叫する。
明らかに効果有り! ひとつ目の巨大な猿人は〝どう〟と仰向けに倒れた。もろに後頭部を地面にしたたかに打ちつけるような倒れ方だった。
警戒感をなお解かず、じっとその場を動こうとはしない天狗騨。ひとつ目の巨大な猿人もまた倒れたきり動き出す様子は見えない。
だが天狗騨には何かを成し遂げたという自覚はまるで無い。
ふと視線を感じた。脇を見ればリンゼという少女の目がなぜだか熱く感じた。頬もまた紅潮しているように見えた。
(いや、これはどういう……?)天狗騨の思考は一切まとまらない。
「俺、なんかやっちゃいました?」思わずヘンなことばが口から飛び出した。
「新たなる無双転生者の方が来てくれたんですねっ」リンゼは弾むような声でそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます