「さ、グレートホールに急ぎましょう。朝食の時間です」

 「うんっ!」


 私は、着替えを済ませ意気揚々と歩き出すお嬢様の後に続いて、部屋を出た。

 

 グレートホールは一階の大広間の隣にある。近くまで行くといい匂いが鼻腔をくすぐってきた。

 中に入ると案の定というか、ほかの皆様が揃われている。

 お嬢様に気が付くと、皆様がそれぞれ反応をみせた。


 「やあ、アレイシア、釣りに出かけてたんだってね。収穫はあったかい?」

 「お父様っ、おはようございます! んー、ぜんぜんでした」

 「あら、そうなの? 魚が欲しいのなら、アイシャに捕ってもらえばよかったのに」

 「お母様っ、魚が欲しいのじゃなくて、釣りがしてみたかっただけなのです。釣れなかったのは、ちょっぴり残念でしたけど」

 「ふん、釣れなかったのはどうせお前がマイペースすぎて、かかったことに気が付かなかったんだろう」

 「そういうお兄様は、相変わらずせっかちさんですねっ!」

 「なんだと」

 「まぁまぁ」


 ご家族全員が揃い、食卓が華やかになる。

 これがこのフロンダート家の日常だ。私はその様子を壁際に立ちながら、眺める。

 お嬢様たちのお食事を、メイドは邪魔しないようにするもの。ほかのメイドも同じようにしているし、お呼ばれでもしない限りは、こうしてじっとしていなければいけない。

 

 「アイシャ、来て!」


 お呼ばれしてしまった。こういうときのお呼び出しは想像がつく。

 私はそそくさとおそばまで駆け寄り、お嬢様の元に跪く。こちらの目線が下になるようにするためだ。


 「どうかなさいましたか?」

 「ニンジン食べて」


 やっぱりですか。

 私が小さくため息を吐くと、バツが悪そうな顔でお嬢様が言い訳を始めた。


 「だって、これ、苦いんだもん。それに、こんなの、馬が食べるものだよ……っ」

 「……お嬢様、ニンジンは苦いかもしれませんがそのぶん、栄養だってあるんですよ。好き嫌いせずに食べたら、馬みたいに足が速くなるかもしれません」

 「ほんと? かけっこでアイシャにも勝てるようになる?」

 「もちろんです。ですから、一口でもいいので、頑張って食べてみましょうね?」

 「分かったっ!」


 少し無理があるかなとは思ったけれど、お嬢様は大きく頷いてくださった。ニンジンをほかの野菜と合わせてもりもり食べてくれている。

 その様子をほかの皆様が微笑ましそうに見られていた。ひとまず、おとがめはなさそうだ。

 私はホッと安堵の息をつきながら、壁際へと戻ることにした。

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