第54話 潜入

夜の帳が囁く時分、何者かが路地の一角で囁きあっている。

しかし路地に人の姿はない。そこには誰も居なかった。


「これって文明よね。遅れてるけど」

「男もブッさいのしかいないし、女はチビで顔もお尻も大きくてアンバランスね。

しかも足が短かい…」

「私たちと比べちゃ可哀想よ」

「そろそろ夜の街を探検しに行きましょ」

「お腹空いたなぁ」

「そうね…」

2人は身を隠していたステルスコートを脱ぐと、ネオン街へと歩みだしていく。


「ここがいいわ」

「いきなり?この世界のお金ないし、言葉も分からないに?」

「大丈夫よ」

2人は小洒落たレストバーへ足を踏み入れた。


レストバーで食事をしていた者、アルコールを嗜んでいた者、カップル、夫婦らしき人、待ち合わせをしている者、全員が、いま入ってきた女2人の余りの美しさに目が釘づけになる。 


2人の女はスツールに腰を落とすと、テーブル横のスーツを着た男と見つめ合う。

男の飲物を指差し、自分を指差す。

「おい、こちらのお嬢さんに同じのを2つだ」

それを見た他の客は、この男をうらめしそうに見ている。

苦虫を噛み潰したような顔をして。


女は他のテーブルに置いてあるミックスサンドとミックスフライを指差すと、誰に向けてなのか小首をかしげて自分の口を指さした。


先程の隣の男が「あーすみませ―ん、この」

「ミックスフライとミックスサンドをこちらのお嬢さん2人に」

テーブル席にいた30絡みの男が横から口だして横取りするようにオーダーしてしまった。

今度は横の男が苦虫を潰したような顔をしている。

それを見た女2人は笑いを抑えきれない。

それを見たカップルの女は嫉妬を抑えきれない。

それを見た夫婦連れの女は怒りを抑えきれない。

 

女の横の席の男は思った。顔立ちは日本人じゃない、

じゃないが意を決して女に話しかけた。

「あのーすいません。日本語分かりますか?」

ワカラナイというゼスチャーのつもりなのか、

食事中だった女は掌を胸の辺りへ持っていくと、横に首をふる。

その仕草も可愛かったのか男は見惚れてしまった。


食事を終えた女2人は隣の男にキスをして、テーブル席にいる30絡みの男へウインクすると金も払わずにレストバーを後にした。


「すごーい!どこで勉強したのよ!」

「ちんこたろう」

「あぁ、そう」

「でもミックスフライ美味しかった―」

「うん、美味しかったね。また食べましょう。でも他のも食べてみたいわ」


「じゃ、俺のフランクフルトも食ってくれよ。ヒィヒィよがるほどウメェぞ」


路地の角から卑猥な言葉が女2人に投げかけられる。

そこには半グレ風の与太公4人ががたむろっていた。与太公だけに恐れという言葉を知らないらしい。


「おい、姉ちゃん。美人すぎるのも罪なんだぜ。ここでヤらせるか、死ぬか選べや」

「殺しても強姦しちゃうぞ―」

「おい、早くヤらせろ。どっちでもいいから」


町の半グレらしき4人に囲まれたが、女2人はコイツらが何を言ってるのか理解できていない。

いないが「そういうことか」とこの場面のクズ男らの雰囲気で察したらしい。


男らのついてこいというゼスチャーについてい行くフリをして前を歩くクズ男の頚椎へ手刀。クズ男の首の骨を切断し、振り向くクズ男へ指2本の貫手で目を突くと男の脳まで破壊した。もう片方の女は左右の足で交互に前蹴り一閃、ハイヒールがクズ男2人の腹部を通越し背骨までもへし折った。

クズ男らのうめき声すら聞こえない。即死だった。


息のあったコンビだ。


レベル900台の2人とノンレベルの人類とでは勝負にならない。

「汚ったなーい」

「男の急所はキンタマよ。キンタマ潰せばよかったのに」

「今更そんなこと言ったって…」


「もう、なかなか見つからないわね。目当ての男」


生物を殺傷するのに罪悪感など感じない2人は全く呑気だ。




  


















 

ステルスコートで身を隠したイシイとバナナ

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