移住の提案
ブレイブはローズに抱きしめられていると背後から声を掛けられた。
「娘を助けて下さってありがとうございます」
「お兄ちゃんお姉ちゃん、お母さんを助けてくれてありがとう」
振り返ってみると母親と思しき女の人と手を繋いだ小さな女の子だった。
セモリナさんが町長宅から救出してきた子どもたちだった。
「地下食料庫に子どもたちが閉じ込められていたみたい」
母親たちはローズのように町長宅から飛び出さずに、村人の反乱を防止する為に隔離して人質にされていた子どもたちを救出する為に地下食料庫に向かったそうだ。
若い娘に手を取って貰いながら村の長らしい老婆がやって来てブレイブに礼を言う。
「村を救ってくれてありがとうございますじゃ」
その後、ソイルたちは今までの経緯を聞いた。
突如悪党たちが村に乗り込んできて女子どもを捕らえて町長宅に監禁、さらに子どもは地下倉庫に隔離したそうだ。
男たちは
この村では穀物が特産物だけど、ウッドストックに流さないように近々取り上げられて焼却処分にされると言うことだった。
ケイトさんが頷く。
「穀物をウッドストックに流さないのが目的でこの村を襲ったのかもね」
ソイルも同意する。
「肉だけじゃいずれ不満も出るでしょうしね」
「それなら!」
セモリナさんがいいことを思いついた顔をする。
「この村に残ってる食料を貰えない? どうせ燃やされちゃうんでしょ?」
村長の老婆は渋い顔をする。
「いや、でも、食料は唯一の村の財産ですのじゃ。これからは悪党が襲って来ても追い返せるように食料を換金して防衛の衛兵を雇わないとダメなんですじゃ」
セモリナさんはさらにいいこと思いついたみたいだ。
「あんたたち、わたしたちの村ハーベスタに移住しなさいよ。あんたたちの旦那も既に来てるし、土地も畑も余りまくってるわ。しかもゴーレム軍団の護衛付き、このゴーレムはメタルゴーレムって言って凄いんだから。なにが凄いかはわたしには説明出来ないけどね」
セモリナさんは舌をペロッと出して笑う。
逆にソイルは村の男たちが無事なことについて話すと村長はほっと一息ついて村人に語りだした。
「村の者たちよ。ここに残っても今後は自警団に払う賃金で貧しい暮らししか出来なくなると思うがどうする? わしは村人の安全を考えるなら移住した方がいいと思うのじゃ」
「でも、長老。先祖代々受け継いできた村を捨てるわけにはいきません」
「そうです。そんな大切な事、旦那がいないのに決められません」
「娘たちの安全を考えたら移住した方がいいと思います」
その夜、村長宅の大広間に村人たちが集まって夜遅くまで話し合いが持たれた。
*
翌朝、意見が纏まったようで村長宅の大広間に呼ばれたソイルたち。
村長一同、頭を下げる
「ハーベスト村にお世話になることで意見が一致しましたのですじゃ。まあ、旦那衆には話を通していないが、グダグダ文句言うようなら引っ叩いて言うこと聞かせるので問題ないのじゃ」
そういって村長の老婆が「かかかっ!」っと笑うと村人全員で再び頭を下げる。
「「「これからよろしくお願いします」」」
*
その後は早かった。
ゴーレムを使って移住の準備が始まる。
移住の指揮はケイトさんがとっていた。
「ソイルくん設計図通りに出来た?」
「はい、出来ましたよ。こんな感じでいいですか?」
「いいわね、最高!」
ソイルはケイトさんの設計図通り、家財道具の運搬用にゴーレムバックパックと村人の乗用に6人乗りの座席を作り出してゴーレムに装着する。
メタルゴーレムにセラミックキューブ製の装備なので見た目的に少し違和感が有るけど気にしない。
貴重品や調理器具など、とりあえず必要な物をバックパックに詰め込み引っ越し準備を終える。
ケイトさんは村人に同行しハーベスタに着き次第簡易住居の建設などの指揮を頑張ってもらう予定。
護衛にはブレイブとローズを付けたので大丈夫だろう。
「夜には着くと思うから、ソイルくんまたね」
「はい、よろしくお願いします」
「じゃあ、しばらく別れるので……」
ぶちゅっ!
ケイトさんはソイルの頬にキスをして来た。
「ケ、ケイト! なにしてるのよ!」
激怒したセモリナさんにボコボコにされるケイトさん。
思いっきり鼻血ブーだ。
「セモリナには唇を残しておいたから……」
それがケイトさんの辞世の句だった。
ケイトさんは50体のゴーレムを引き連れて村を旅立って行った。
見送るソイルとセモリナさん。
「行ったわね……みんな」
「ええ」
ソイルの腕に身体を絡ませて目を瞑るセモリナさん。
小声で呟く。
「ウッドストックに戻る前に少し休憩していかない? ケイトのキスの口直しというかなんというか……」
どう見てもキスをおねだりしていたが、ソイルは気が付かなかった。
「さてと、これから忙しくなりますよ」
「まだ、なにかするの?」
「食料の回収です」
ゴーレム軍団を連れて食料の回収に向かうソイル。
一人取り残されたセモリナさんはまた呟いた。
「わたしから誘ってるのに鈍感ね……ばか」
セモリナさんは気を取り直してソイルの元へ駆けつけた。
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