物資輸送作戦決行

 翌朝、朝日が昇ると共に物資輸送作戦が決行されることになった。


「ものども、準備はいいかー!」


 大声を張り上げる村長のブランさん。


 どう見ても盗賊団の親玉にしか見えないが、これからウッドストックを助けに行く輸送団の団長である。


「「「おー!」」」


「「「ゴレ! ゴレ!」」」


 村人とゴーレム軍団の声が応えると輸送団が移動を開始した。


 編成はボアを積んだゴーレムトレーラーが5騎に、薪を積んだゴーレムトレーラーが5騎となる。


 1騎のゴーレムトレーラーは本来ゴーレム10機編成となるが、予備ゴーレムを先頭に一機追加して11機編成としている。


 ケイトさんによるとゴーレムが壊れることはまずないと思うので予備は持って行く必要は無いけど、念の為に用意。


 単体では悪路を走行することは出来ないのでトレーラーの先頭にくっつけておいたとのこと。


 ボアを積んだトレーラーにはおのおの10体のボアを積んでいるので総数は50頭のボアとなり、ウッドストックの住民2000人の2日程度の食料になるということで後はひたすらハーベスト村とウッドストックの往復を繰り返せばいいとの事だ。


 護衛となる村人は団長のブランさんを筆頭に、セモリナさん、ブレイブ、ローズ、ケビン、ジャズ、ソイル、そしてメンテ係のケイトさんでトレーラーの上に乗って移動をしている。


 トレーラーには初めて目にする大きな弓を背負った女の人がいた。


 彼女はソイルに自己紹介を始める。


「ローズの姉で狩人のコスモスだ。弓使いがローズしかいないので、村長からたっての願いで今回の輸送隊に参加することになった。よろしく」


 と言うことだった。


 ちなみにケイトさんと同い年でとても落ち着いている。


 ケイトさんはと言うと……。


「ゴーレムが揺れる! 揺れ過ぎで落ちるよー! ソイルくん助けてー!」


 と、白々しい演技をしてソイルに抱きついて、怒れるセモリナさんにトレーラーから突き落とされそうになっていた。


 *


 トレーラーゴーレムは順調に悪路を走破する。


「このまま上手くいくなら日が傾く前にはウッドストックに到着出来そうだな」


 ブランさんは満足気に語る。


 トラブルはウッドストック到着まで2時間と言う所で起きた。


 道路の右側半分が削られ深さ50センタメトル程の溝となっている。


 しかもその長さは10メトルほど続き、気づかずにゴーレムトレーラーが走行すれば片側のゴーレムが溝に落ち込み転倒してしまうところだった。


「なんだこれは? 昨日はこんなものは無かったはずだが?」


 ブランさんは首を傾げるが、ソイルは一瞬で運送ギルドの妨害工作であると見抜いていた。


 *


 運送ギルドのワーレン・トラスの腹心チャーリーはゴーレムにも精通していた。


 ゴーレムを輸送手段として使えれば大幅な輸送費のコストダウンが出来ると研究したことがあったのだ。


 だが研究の結果、ゴーレムは輸送手段としては適さないことが判明する。


 ゴーレムのボディーが石という重量物で出来ている構造上、路面が安定していないと歩行できない事が判明したのだ。


 巨大ムカデゴーレムでも同じこと。


 路面に高低差を設けバランスを崩せば簡単に転倒させることが出来ることを知っていたのだ。


 チャーリーは近隣の村から村民の家族を人質に労働力を召集、ムカデゴーレムが到着するまでに溝を掘らせたのであった。


 *


 セモリナさんはソイルに指示を出す。


「ソイルくん、溝を砂利で埋めちゃってよ」


「待って!」


 作業に取り掛かろうとしたソイルをケイトさんが止める。


「砂利で穴を埋めてもゴーレムトレーラーを走らせるとすぐに踏み固められてまた段差になるから慎重に通過、一台トレーラーが通るごとに砂利を補充してね」


 ケイトさんの指示が的確だったのと、トレーラーが転倒しそうになると護衛部隊がゴーレムを支えたのもあって無事溝を通過出来た。


 一難去ったと思ったら今度は野盗が現れ道を封鎖した。


「村長、奴らをやっていいか?」


「いや、待て」


 血気盛んなブレイブが切り込もうとするのをブランが止める。


「なんでだよ?」


「野盗にしては襲ってこないし、なにか様子がおかしい」


 野盗をみてみると武器らしい武器は持っておらず防具も着ず全ての野盗が素手であった。


 ブランがゴーレムを飛び降りるとソイルとブレイブも続き野盗へと向かう。


「我らはウッドストックへの救援物資を輸送中だ。即刻この道を開けよ!」


 だが野盗たちはブランの言葉に耳を貸さない。


「お前たちは俺たちの掘った落とし穴を難なくかわしたようだが、そのムカデゴーレムがウッドストックに到着すれば俺たちの家族は皆殺しになる。ここを通りたければ我らを引き潰す覚悟で進め!」


 野盗たちはそう言うと道路に座り込んだ。

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