急襲
翌朝、闘剣場では悲鳴が聞こえていた。
「うぎゃー!」
「うぼぁー!」
「きゃー!」
どう聞いても断末魔である。
でもこれはブランさんが若手四人衆に対して行う修行だった。
修行と言っても一方的にブランさんに殴られてる4人。
ブランさんからは厳しい注意が飛ばされる。
「なんだ? お前らのその情けない姿は? 魔獣を狩れるようになったから修行をお前ら自身に任せておいたら全然練習してないじゃないか」
その指摘を聞いて不服そうなブレイブ。
「そうは言ってもこの辺りで俺たちの敵になるような相手はいねーし!」
「ワイルドボアとか一撃だもんね」
「一瞬で串刺しさ」
「槌でぐしゃり……」
4人はブランに殴られながらも、自分たちは敵なしの強さだと主張していた。
それを見てブランは怒る。
「敵がいないなら、お前たち同士で戦って
「それは……」
ブランの言うことはもっともでブレイブはなにも言い返せない。
ブランは4人に課題を突き付ける。
「武器のマスタリースキル取るまでお前らは毎日ずっと修行だからな」
「えっ? それって冗談だろ?」
「俺が闘剣場で冗談を言ったことがあったか?」
「そんなの無理よ。無理だから!」
「なんで無理なんだ?」
ローズが「辛いから無理」と言ってもブランが聞き入れてくれる訳もないのでテキトーな言い訳を作って拒否した。
「わたしは家族のご飯当番だからご飯作らないと家族が困ります」
「それなら心配するな。俺の嫁のフラワーちゃんが修行中はお前たちの家族の分の食事も作るから安心しろ」
ローズの言い訳は速攻却下されたので新たな言い訳を絞り出す。
「ほ、ほら、ご飯当番は食事だけじゃなく食材も取りにいかないといけないし」
「それなら心配するな。ソイルが訓練がてらワイルドボアを毎日5匹狩ることになってるから安心しろ」
「ソイルくん……なんて余計な事を……」
本人は全く悪くないのにローズに恨まれるソイルであった。
*
ソイルとセモリナさんとケイトさんは防御壁の出入り口を塞ぐ扉を作っていた。
闘剣場からは相変わらず悲鳴が聞こえるが気にしない。
「ケイトさん、村の出入り口の扉は木の板で作っているんですけどいいんですか?」
「ん? なにか気になる?」
「防御壁はレンガで出来てるのに、出入り口の扉は木製だったら壊してくれって言ってるような物ですよね。木製だと燃えるから火矢を放たれたら終わりですよね?」
「まあ、そうなんだけどレンガの扉だったら重くて開けるのが大変よ」
「確かにそうですね」
レンガで扉を作ったら重くて力自慢でもない限り開くのは無理だろう。
ケイトさんはその点も考慮していたみたいだ。
「木製の扉だと確かに防衛上の弱点になるのは間違いないわね。後で鉄棒で作った柵も発注しとくから安心して」
「それなら安心ですね」
「万一ゴブリンに襲われるようなことが有ったらソイルくんの魔法でレンガの壁を出して閉じちゃってよ」
「わかりました」
と言うことで、とりあえずの方針は決まった。
そうは言うものの扉を開閉してくれる衛兵なんて便利な人はこの村には存在しないから、門は当面開きっぱなしの運用にすると決めた。
ゴブリンや魔獣が入って来てもこの村の住民ならあっという間に始末できるので扉は無意味だったりする。
村外からの訪問者が現れて初めて扉を運用するのだ。
なんてことを話していたらセモリナさんが村の外からなにかが結構な速さで近づいて来るのに気が付いた。
「あれなんだろう?」
ワイルドボアよりも大きめの影。
新たなる魔獣?
「随分、大きい魔獣ですね」
「この辺りでは見たことないサイズなんだけど……ケイト悪いけどお父さんを呼んできてくれる?」
「わかった。大急ぎで呼んでくる」
ケイトさんはブランさんを呼びに闘剣場に向かって走り出した。
セモリナさんはソイルに目くばせをする。
「あの魔獣どうする?」
「扉を閉めても意味無さそうだし、先手必勝で相手の準備が整う前に急襲をかけますか?」
「それがいいわね」
二人して魔獣に向い駆けだす。
敵との半分ぐらいの距離まで詰めた時セモリナさんが突如速度を落とした。
「あれ?」
「どうしました? セモリナさん?」
「あれは馬車よ。なんで馬車がこの村に?」
10年以上ぶりの訪問者らしい。
二人は馬車の到着を待っていると……それはソイルの知っている人物だった。
「やあ、久しぶり、ソイル。そして初めましてセモリナさん」
馬車の中から顔を出したのはソイルの幼馴染でセモリナさんの元婚約者のマイケルであったのだ。
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