再婚約
セモリナさんの瞳をソイルが見つめる。
「セモリナさん、僕のお嫁さんになってください!」
「いいの?」
「ぜひお願いします」
セモリナさんはソイルにヒシッと抱きついて来た。
言葉は無かったがそれが答えだった。
「セモリナさんのお父さんにもちゃんと挨拶しないとね」
「うん!」
そこにシェーマスがやって来た。
「坊っちゃん、お嬢様、お熱い所すまねーだ。砂を片付けないと旦那さんに怒られるべ」
そう言ってバケツとスコップを持ってきて砂を片付け始めるシェ-マス。
その砂山を見てセモリナさんが驚く。
「この砂山どうしたの? わたしの背丈ぐらいある砂山だけど、これ全部ソイルくんが出したの?」
「ええ、魔法の訓練に集中し過ぎて出し過ぎちゃいました」
「一日でこんなに砂を出せたってことは他の魔法も使えるんじゃないかな? 試しに
手を突き出し
それを見て驚くシェーマス。
「やや! 坊ちゃん、他の土魔法を使えるようになったんですか?」
「どうやらそうみたい」
「土の品質は……」
土を調べたシェーマスの顔が一瞬で青ざめ信じられないといった顔をする。
「品質は……オ、オラのソイルの方が絶対に上だべ! 村一番の
品質もシェーマスが驚くほど高いようだ。
いろいろ試したがセモリナさんが知っている土魔法は全て使え、レンガを作ることも出来た。
特訓の効果は十分のようだ。
*
屋敷に戻ると早速ブランさんにセモリナさんとの再婚約を申し出た。
そのまま祝福されると思ったら雲行きが怪しい。
「ダメだ! 認めぬ!」
「お父さん! どうしてよ! 許嫁のマイケルにも捨てられたのを知ってるでしょ?」
セモリナさんは今まで見せたことのない勢いで怒っていた。
ソイルも異議を示す。
「なんでなんですか?」
するとブランさんは落ち着き払った態度でその理由を言った。
「ソイルは土魔法を使って騎士になるためこの村にやって来たんだろう? ロックの野郎から預かった以上、騎士になれるまで結婚は認めんし、ハーベスタ村から出ることも許さん!」
ソイルの父親のロックもソイルが騎士にならなければ帰郷を認めることは絶対にあるまい。
「ソイルくんが騎士になれたら結婚を認めてくれるのね?」
「もちろんだ」
胸を撫でおろすソイルとセモリナさん。
「ソイルくん、明日から剣の猛特訓よ」
「いや、僕は天職が土魔法になって剣技を全て失ってしまったから剣はもう持てないんです」
「だから特訓するのよ!」
えっ?
言ってることが伝わってないかな?
ソイルはどう説明すればよいか悩む。
「僕は剣のマスタリースキルを持ってないから……」
でもセモリナさんは顔をグイっと寄せて力説する。
「元々ソイルくんが持ってた剣技って天職を貰う前に取ってたんでしょ?」
「はい」
「なら天職が無くてももう一回訓練すれば取れるじゃない」
確かにそうだ。
なんで今まで諦めてたんだ?
ソイルの目から鱗が落ちたように心が晴れやかになる。
「訓練の先生をお願いします」
「もちろん、そのつもりよ」
「もちろん俺も手伝うからな」
ブランさんも剣を教えてくれるらしい。
グレートボアの首を一撃で撥ねたセモリナさんと、無茶苦茶強そうなブランさんが剣技の先生なら心強い。
だがブランさんの表情は依然厳しいままだ。
「ソイルはセモリナと結婚したら実家に戻る気なのか?」
「いえ、僕は家を追い出された身です。出来ればこのハーベスタ村にセモリナさんと住みたいと思います」
「だとなー、騎士にはなれんぞ」
「なんでなんですか? 僕は必死に訓練してきっと騎士になってみせます!」
「いや、なれないんだ」
ブランさんは棚から書類を取り出す。
「俺も本当は騎士になってこの地を治めないといけないんだが条件が厳しくてな」
その書類は騎士になる申請書で条件が色々書いてあった。
『1 騎士は領主が任命する。』
条件はこれだけだった。
「これのどこが難しいんですか? ブランさんが僕を任命するだけじゃないですか」
「俺は領主じゃない。村長だ。領主にならないとダメなんだよ」
「えっ……」
村長じゃだめなのか。
ブランさんが言うには村長が任命出来るのは衛兵までで、騎士を任命するのは領主の権限が必要という。
ブランさんは別の資料をソイルに見せる。
「これが領主任命申請書だ。この条件が厳しいんだよ」
書類には色々と条件が書いてある。
『1 少なくとも1000人の住民が必要』
『2 地場産業が必要』
『3 親領主の承認が必要』
「どうだ? どれも厳しそうだろ?」
「今この村の住人は何人なんです?」
「ソイルを入れて17人だ」
ふへ!
17人?
さすがにそれは少なすぎで村とは言えない。
「そんなに少なかったとは予想外です」
「少ないだろ。ちなみに地場産業は無い」
「でしょうね」
「親領主の承認は一番簡単だな。ロックの野郎をぶん殴って認めさせるだけだ」
でもソイルの父親のロックは国でも有数の英雄だったはず。
それが弱い?
ソイルは首を傾げた。
「あいつは俺のパーティー最弱の癖にヒロインのサンドラちゃんに告白しやがって……今でもむかっ腹が立つ!」
そう言って怒り任せに机の上に置いてあった剣をグニャリと曲げ、慌てて真っすぐに直していた。
ソイルは父親のロックよりも強いというブランを怒らせるのは止めようと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます