Ⅱ 品定めの観覧客

「──確かに腕っぷしの強い者は集まるでしょうが、剣ばかりか火器も使う実戦で役に立ちますかな?」


「いや、狭い船上での白兵戦となれば、間合いの近い素手での戦法はむしろ優位に働く。何かと役に立ってくれるだろうさ」


 天高く秋晴れの空の下、老若男女様々な階層の人々がひしめき合う円形闘技場コロッセオの観客席……その人ごみの中で、口髭を生やしたダンディな男の質問に金髪碧眼の美青年がそう答える。


 いずれも「大きな一つ眼から放射状に降り注ぐ光」──プロフェシア教のシンボル〝神の眼差し〟と、それを挟む羊の巻角の紋章を描く白い陣羽織サーコートを纏ったこの人物達……皇帝直属の伝統ある精鋭部隊〝白金の羊角騎士団〟の副団長ドン・アウグスト・デ・イオルコと、帝国最高の騎士〝聖騎士パラディン〟にして団長のドン・ハーソン・デ・テッサリオである。


「なるほど。それでこの大会を見たいと急に言い出されたんですね」


 また、そのとなりでは、やはり白い陣羽織サーコートを今度は黒い修道女服の上に着て、顔には半透明の薄布ベールをかけた、聖職者とも騎士ともとれぬ、なんとも不可思議な格好をした女性が得心がいったというような感じで頷いている。


 彼女も同じく白金の羊角騎士団に属する魔術担当官、もとは流浪の民の魔女で、なおかつ修道女でもあった過去を持つメデイアという異色の女性団員だ。


「ああ。良い人材が見つかれば良いのだがな……」


 メデイアの言葉に、ドン・ハーソンは開会式の行われている円形闘技場コロッセオの中心部を眺めたまま、どこか愉しげにそう答えた。


 彼ら羊角騎士三人がここを訪れたのは、単に娯楽として武闘試合を楽しむためではない。中流の騎士階級ながらも聖騎士パラディンに叙され、伝統ある騎士団長にも大抜擢されたハーソンは、現在、皇帝のめいにて有名無実化していた羊角騎士団を真の精鋭部隊とすべく、優れた人材をスカウトする旅の真っ最中なのである。


 しかも、そもそもは護教のために組織された修道騎士団であったものの、若き皇帝カルロマグノが彼らに求めたのは異端よりも海賊の討伐であったために、より広い分野からの人材登用をハーソンは欲しているのだ。


 カルロマグノは大海洋国家エルドラニア王国の国王でもあり、遥か海の向こうに発見した新たなる領土〝新天地〟の海を脅かす海賊に頭を悩ませているのである。


 ともかくも、そんなわけでちょうどイスカンドリーアの近くまで来ていた彼らは、この帝国一武闘会の話を偶然耳にして、急遽立ち寄ることにしたという次第である。


「とりあえず、一番の注目株は前回の優勝者、〝暴君〟ことハブリゲスのアミーゴスと、そのライバル、準優勝だった〝鉄人〟の異名をとるノルマンディーノのリュックスですな」


 ハーソンの傍ら、会場入口前で売っていた公式パンフレットを眺めながら、副団長アウグストが選手を値踏みするかのようにそう言った──。

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