第154話 最後の戦いに向けて

「諸君、聞いて欲しい。」


 俺は今、ディアの広場に住民を集めてみんなの前に立っている。


 高い所から見下ろして見るみんなの表情には、不安そうな顔が多い。


 今は、昨夜の地震の翌朝である。

 昨日は、取り敢えず周囲の異変の確認を少しだけ行い、就寝するように指示を出した。


 油断しているわけでは無いが、少なくとも巨大な気配は周囲には無い。


 奴が周辺に来るのには少しだけ猶予があるだろう。


 俺は説明する。


 昨夜の地震がおそらく奴が目覚めであろう事。


 今まで以上に苦戦が予想される事。


 俺の話を聞くみんなの表情は晴れない。

 ただでさえ初めての地震を経験し、気疲れもしているだろう。


 しかし、だ。


「みんな心配していると思う。かく言う俺だって心配だ。だが、それでも俺たちはヤツを打倒するしかこの世界で生き残る術が無い。なら、やるしかないんだ!そうだろう?」


 俺はみんなを真剣に見る。

 

「俺たちはこれまで努力して来た。この為にだ!やれる事はなんだってしてきた!最初から負ける事を考えて挑む者はただの愚か者だ。俺たちは違うだろう?それはこのディアを見ればわかるはずだ。力に自信が無い者も、努力し以前よりも力を得たし、飢えに喘いでいた者は腹いっぱい食べられるだけの成果を得られるようになっている筈だ。俺たちは、それぞれ困難を乗り越えて今ここにいる。俺達の師匠は言った。”俺たちの道を阻む壁は全てぶち破れ”とな。今まではそうしてきたんだ。なら、これからもそうする。そうだろう!?」


 俺の言葉に、少しづつ目に力を持ち始めてくれた。


「ならば俺たちのする事は一つ!あとは、勝利を掴むだけだ!!但し!」


 俺はそこで一度言葉を止める。

 

「俺は・・・俺達は誰一人この戦いで犠牲者を出すつもりは無い!そんなものは認めない!!俺が望むのは、誰の笑顔も欠けず幸せにみんなで暮らす事だ!!お前たちもそうだろう!?」


 力強く頷くみんな。


 俺の伴侶達。

 各種族の族長としてこのディアを運営する幹部達。

 親父もそうだ。


 そして、ディアで生きる全ての者達も。


「必ず勝利をもぎ取るぞ!!良いな!?」

『おおっ!!!!!!!!!!!!!』


 ディアに住む全ての者達が答えてくれる。

 俺はそれを見て頷く。


 よし、もう気持ちで負けて無いな。


「今から作戦をみんなに伝達する。どうかその指示通り動いてくれ。リーリエ。」


 俺がリーリエに場を譲ると、リーリエが前に進み出る。


「まず、予想される事からお話します。現存する知性ある者が存在する集落がどれだけあるかわかりませんが、おそらくこのディアが最大でしょう。そして、魔物共は人・・・敢えて知性ある者を”人”と呼称しますが、魔物共は人の集落を襲います。それは、これまでの調査で分かっています。」


 淡々と話すリーリエとそれを真剣に聞くみんな。

 子供ですら、真剣な表情をしている。


「神魔獣が魔物と通じ合っているかはわかりません。しかし、どちらにも言える事ではありますが、奴らの共通目標はおそらく”人”の殲滅です。で、あれば、最後の神魔獣がここを襲う時、連携して多数の魔物が襲ってくる事が予想されます。」


 ごくり、と唾を飲む音がみんなからも聞こえる。

 

「そこで、我々は色々検討し、ディアを3つの班に分ける事にしました。まず、A班ですが、これは神魔獣と相対する者です。これは、私を含め、忍さんとその伴侶、そして岩男さん、間に合えば玲奈さんと・・・いえ、少数精鋭で対応します。何故この班分けかと言えば、巻き込むのを防ぐためです。わかりますね?」


 リーリエの言葉に、悔しそうにする者達がいる。

 アンナリーゼや捜索班であるエヴァンズ達、そしてマユリさんだ。


 彼らは、このディアの中でも上位の強さを誇る。

 

 しかし、それでも俺たちの戦闘にはついて来れない。


 だが、彼らでなければできない事もある。


「そしてB班ですが、エヴァンズさん達捜索班とアンナリーゼさん、そしてマユリさんを部隊長として戦えるものを編成をし、ディアの周囲から来るであろう魔物の群れを防いで下さい。基本的には各部隊長の判断で戦闘をして貰って構いませんが、不測の事態や応援の要請などはディアに詰めている魔族族長であるゼファルさんが戦闘の総指揮官として受けて判断して下さい。あと、できればディアに詰める部隊も一つ作っておいて下さい。」

「ああ、承ろう・・・さて、久しぶりの指揮となるか。気合を入れねばな。」


 ゼファルは、まだ魔族が力を持っていた頃から生きている古参であり、当時魔王軍の幹部の一人の副隊長をしていたらしいからな。

 適任だろう。


「最後のC班ですが、戦闘が苦手な者や運営に属する方は、このディアにて食事や連絡係、その他様々な対応をして下さい。その指揮についてはレガリアさん、獣人族のフェノンさん、鬼族のゲンさん、そしてその取りまとめとして人魚族の女王であるララさん、お願いします。」

「任されました。」「ええ、頑張りましょうか。」「おうよ!!」

「大役ですね。務めさせていただきます。」


 レガリアもフェノンもゲンも、そしてララさんも気合十分だ。


「動物達は聖なる樹のある所に避難させておいて下さい。イオ、お願いしますね?」

「うん!わかったー!」


 よし、これで態勢は整ったな。


「最後に、私からも一つ。皆さん、これは総力戦です。この結果如何によっては、この世界の行く末すらも変わります。ですが、私達の良き未来の為には、絶対に勝たねばなりません。そして、それこそをこの世界の新たな女神である様サマーニャ様も望んでおられます。その為に、サマーニャ様は忍さんをこの世界に遣わせて下さったのですから。」


 ・・・それは大げさかもしれんが・・・今は茶々を入れるべき時では無いか。


 現に、それを聞いて大きな同意の声が上がっているしな・・・少し照れるが。


「皆さん!忍さんは勇者とは名乗りません!勇者では無いのです。勇者とは勇気ある者と書きます!勇気ある者、それはここにいる人全てです!みなさんの事なのです!!ともに頑張りましょう!!

『おお〜〜〜〜〜っ!!!!』


 大歓声が響いた。

 流石はリーリエだ。


 これで気持ちでは負けていないな。


 必ず勝利する!いや、してみせる!!


 みんなでな!!!

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