第63話 大魔法師の仲間について(1)

「色々物語や言い伝えになっていると思うから、知っているかもしれないけど、異世界から来た大魔法師レナにはルールーを含めて4人の仲間が居たの。」


 ルールーはお茶をすすりながらそう切り出した。


「最初に仲間になったのはルールーなの。と言っても、最初はルールーも弱っちかったの。今よりももっともっと子供で、精霊族の中でも落ちこぼれだったの。」


 ・・・ルールーが?

 とてもそうは思えないが・・・


 周りに視線を送ると、俺と同じようにレイリー達も驚いているようだ。


「ルールーは本当に子供で、人間で言うと7,8歳くらいだったの。で、当時はまだ多くいた同じ年頃の精霊族から仲間外れにされたりいじめられたりしていたの。で、ある時森の中で落ち込んでいたら、大型の魔物に襲われたの。その魔物は、当時のルールーの力をゆうに越えていたの。ルールーは助けを求めようとしたけれど、周りには誰もいなかったの。当然なの。そういう場所を選んで逃げていたから。」


 なんとも悲しい話だな。


「もう死んじゃうのかな、って諦めかけたその時なの。いきなり空間に歪みが出来て、人が飛び出てきたの。それがレナだったの。」

『それは次元穴という現象ですね。数十年から数百年位の割合で発生する、次元を繋ぐ穴です。発生した際には、周囲の物を吸い込み、強制的に次元を越えさせます。』


 ・・・へぇ。

 流石はリーリエだな。

 そんな事も知っているのか。


「ルールーはいきなり現れたニンゲンに驚いたの。でも、その魔物も戸惑っていたの。そんなルールーと魔物をそっちのけで、レナは言ったの。『あらら、これが本で読んだ次元穴って奴なのかしら。まさか私が巻き込まれるだなんて・・・怒られちゃうわね。どうやって帰ろうかしら・・・ていうか帰れるのかしら?』って。」


 ・・・なんともマイペースだな。

 流石はおふくろ。

 超常現象を前にして、巻き込まれても相変わらずのマイペースか。

 そう言えば、血筋だとかなんとか言ってたな。


「ルールーは固まってたんだけど、魔物はすぐに臨戦体制を整えたの。で、レナに襲いかかったの。」


 おいおい、異世界に転移していきなり魔物とバトルとか・・・大丈夫だったのか?

 一般人だったんだろ?


「だけど、レナは、『ん?なんだか怖い熊さんね。でも、攻撃するのならば容赦しないわ。『フリージング。』って無詠唱で魔法を放って熊の魔物を凍結させたの。」

「「「はぁっ!?」」」「ええ!?」『・・・嘘・・・』


 ・・・全員が驚いている。

 というか、おふくろはこの世界で魔法を使えるようになったんじゃないのか!?

 いったいどういう・・・


「その後、ルールーを見て、『大丈夫?怪我してない?』って話しかけてきたの。ただ、ルールーは怖かったの。ニンゲンだってのもあったけど、熊の魔物を一瞬で倒しちゃうような人を。だけど、レナはすぐにしゃがみこんで、目線を合わせてからにっこり笑って、『怖くないよ?あなたのお名前は?』って言ってくれたの。その後は、ルールーは色々レナとお話ししたの。」


 ルールーから聞いた話の内容は、


 ・自分が精霊族の子供だという事。

 ・精霊族は営みで子供を作る事も出来るが、自然から発生する事もあり、自分には親はいない事

 ・落ちこぼれだと言う事。

 ・おふくろが違う世界から迷い込んだ存在だと言う事。


 そして・・・


「レナは言ったの。『そんないじわるする人達は、見返してやりましょう!』って。そこから、レナの指導で魔法を教わったの。ルールー達精霊種は、自然と魔法を使えるようになるの。ルールーも威力は弱いけど、魔法自体は使えたの。それを・・・」


 おふくろがルールーにした指導は大きく分けると、


 ・魔力操作のための精神統一法の教示

 ・威力向上のための物理法則や物の構成などの知識の伝授

 ・戦闘方法


 などだったらしい。

 ・・・どういう事だ?

 やはりおふくろは、魔法について詳しく知っていたって事か?

 俺が聞いたのは精神統一法と・・・想像力を高める事だけなんだが。

  

 ルールーは一週間ほどおふくろと訓練を積つんだそうだ。

 その間、おふくろは一人で森の中で野営していたらしい。

 なんでも、何があっても良いように、ひとしきりその手の知識や技術は両親から叩き込まれていたらしい。

 

 どうもこれも先祖の申し送り事項にあったそうだ。


 ・・・いったい、何者なんだそのご先祖は。

 こんな事態、想定外だろうに。


 で、いつもこそこそと朝から森に入り浸るルールーを不審に思ったのか、精霊族のいじめっ子達がルールーに絡んだそうだ。

 大人たちもそれを知っていて止めなかったらしい。

 ルールーが落ちこぼれなのを知っていたからだそうだ。


 ・・・なんとも胸糞悪い話ではある。

 

 だが、その日は違った。


「どうだ!なの!!」

「「「ふぇ〜ん!!」」」


 ルールーは完勝したらしい。

 

 これに驚いたのは大人達だ。

 で、ルールーを詰問しようと詰め寄ったそうだ。


 ルールーにしてみれば、いきなり大人達に詰め寄られて混乱して泣いてしまったようだ。

 そこに現れたのが、


「子供に何をしているのです?」

「な!?ニンゲン!?」


 おふくろだ。


 おふくろが話をしようとしても、精霊族達は聞く耳を持たず、ただ見下すだけだったそうだ。

 そして、話は平行線となり、しびれを切らした精霊族が襲いかかって、


「お仕置きですね。」


 と言って、おふくろはルールーを除くその場の精霊族をすべて叩きのめしたらしい。





 ・・・いやいや、だからなんでおふくろはそんなに強かったんだ?


「ええ〜・・・精霊族の魔法って、すっごく強い筈なんだけど・・・」


 レイリーも愕然としている。


 そして、その後、精霊族の当時の長にこんこんと説教し、


「ルールー、あなたはどうしたいの?ここにいる?私はそろそろ帰るために旅立とうと思うの。もしついてくるなら、強くはしてあげられるわよ。」

「レナと一緒に行くの!ルールーは最強の精霊族になるの!!」

「そう。じゃあ頑張らないとね。・・・ルールーはこう言ってるけど、よろしいかしら?」


 と精霊族の長に許可を貰い一緒に旅に出たそうだ。


 ・・・あれ?

 おふくろっていつもぽわぽわして、親父にだけきつくあたるイメージだったんだが・・・

 

 なんだか、こっちに来てから俺の中の思い出に罅が入って行くような話ばかりだなぁ・・・辛い。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る