第55話 約束と呪縛
レナの息子達がこの森を出た翌日、早朝に森の中に不穏な気配を感じたの。
この気配は、ここの所ずっと感じていた気配。
悪意だけがある嫌な気配。
魔王と同じような気配。
おそらくだけど、ワタシは聖樹を守りきれないの。
それくらい、この気配の持ち主は強大なの。
あの、世界崩壊の日、おそらくこの気配の持ち主は生まれたの。
あの日、ワタシは何があったのか詳しくは知らないけど、でも予想は出来ているの。
何故なら、ワタシ達は魔王の真実を知っていたから。
ワタシは魔王と相対した時を思い出すの。
大魔法師のレナ、バカ鬼のガンダン、エルフの英雄レンベルト・・・レン、吸血鬼のヴィクトリア・・・ヴィーが魔王を前にした時、魔王は言ったの。
『神の意思に従っていないのはお前らの方だ。』
と。
ワタシ達はその時、真実を知ったの。
何故、種族同士で争いが無くならないのか。
確かに、魔王を倒すという事に協力する為に、ニンゲンを除いて各種族は協力する・・・という事になったの。
表面上は。
でも、実際には違うの。
各種族はそれでも他の種族を見下していたの。
ワタシ達にはわからなかったの。
見た目が違うだけで、どんな種族も同じなの。
なら、いったい何がそう仕向けていたのか。
『それはこの世界の神がそれを望んでいるからだ。』
魔王は語ったの。
この世界の唯一神は、色々な種族が争う様を見て楽しんでいたの。
その為に、各種族にそれぞれ祝福を与えたの。
それを色濃く持つ者ほど、力を得る代わりに、他の種族を虐げるようになるの。
そう、ニンゲンみたいに。
でも、やりすぎて【世界を維持する力】が足りなくなったみたいなの。
だから、
『それを回収する為に、我は神に生み出されたのだ。』
だから魔王は世界を壊すの。
生き物を殺すの。
世界を維持する力を回収するためにだけ。
そして回収した力を使って、クソ神がまた楽しむ為に。
その為に、世界から生き物が死にやすくする為・・・すなわち、魔物を増やす為に、汚染された魔力を浄化して放出する聖樹を切り倒していたようなの。
神の指示で。
ワタシ達はそれを聞いて絶望したの。
だってそうなの。
神様が敵なのだから。
でも、レナは違った。
「知らないのかしら?悪が栄えたためし無し。私のご先祖様の口伝の一つに『理不尽は理不尽に潰される。』というものがあるの。この世界の神・・・管理者もいずれ破滅するわね。」
そう言って魔王の言葉を一蹴したの。
何か小声で、
「・・・本当にバカね。世の中そんなに甘く無いってのに。怖い怖い私のご先祖様に潰されると良いわ。どうせバレるから。」
とかなんとか言ってたけど、その意味はわからなかったの。
ワタシ達は、その後、魔王と死力を尽くして戦い、勝利したの。
魔王を倒して、生き残った囚われていた人達を探すために城を捜索していたところ、地下に大きな何かの装置があったのだけど、それを見たレナに言われて、そのままにその場は後にしたの。
その意味は後で分かったの。
ワタシ達は、魔王城を後にした時、野営したのだけど、その時はなんでレナの魔法で転移しないのか疑問だったの。
でも、すぐに判明したの。
大きな爆発音と何かが流れていくのを感じて起きた時、レナはいなかったの。
ガンダンのバカも。
代わりに、レナの過去再生魔法が残された宝石が残されていたの。
ワタシとエルフのレンベルトと、吸血鬼のヴィクトリアの三人で確認して驚愕したの。
私達がレナとガンダンが出ていったのに気が付かなかったのはレナに魔法で眠らされていたから。
あそこで発見したのは、この世界を維持する力だったの。
レナはそれを壊すって言ってたの。
クソ神に利用させないように、世界に循環させるんだって。
どうせまた碌でもない事をするのは目に見えているから、やらなきゃいけないって。
でも、それをしたら、壊したレナはクソ神に目をつけられるだろうから、ワタシ達は気が付かなかったフリをして離れて欲しいって言ってたの。
そして・・・お別れの言葉も。
レナとガンダンはクソ神が干渉して来たら、最後まで抵抗するって言ってたの。
でもおそらく敵わないから逃げて欲しいって。
だけど、自分たちが敵わなくても、いずれこの世界のクソ神は天罰に遭って滅ぼされるとも言ってたの。
これはそれまでの時間稼ぎだって言ってた。
その時、クソ神から力を貰っている人に何が起こるかわからず、この世界が滅ぶ可能性が高いって言ってたの。
だから、それまでに滅びを乗り越える力を得ておいて欲しいって。
無駄死にしないように絶対に来るなって言ってたの。
ワタシは泣いたの。
レナがいなくなったことに。
悪戯好きのヴィーも、真面目なレンも悲しそうにしてたの。
本当は、玉砕覚悟で向かおうかって話になったの。
でも、三人で話し合った結果、絶対にレナとガンダンはそれを望まないって結論になって、三人で泣きながらその場を離れたの。
ワタシは涙を隠さずに、そしてレンとヴィーは涙を隠しながら。
そしてその後、ワタシ達は各国に魔王を討伐した事、レナ達はどこかに行っちゃったのを伝えて、それぞれ別れたの。
レナの言ってた通り、知らないフリをしていた為か、クソ神からの干渉は何も無かったの。
そして、あの日、世界が滅びた日。
レナの言う通りになったの。
いきなり空が暗くなったと思った瞬間、世界中で祝福を受けていた人が干からびて死んだの。
その後、それぞれの国の上空に黒い塊が現れ、家や住処が消え去ったの。
一番酷かったのはニンゲンの国で、生き残った奴隷達の話では何も残らなかったし、ニンゲンで生き残った人はほとんどいなかったらしいの。
おそらくだけど、クソ神の祝福を沢山受けていた国程酷い被害だったの。
世界中で魔物が爆発的に増え、少数の生き残っている人は散り散りに逃げ出したの。
それが滅びの原因。
おそらく、クソ神が滅ぼされたの。
文明は滅び去り、小さい集落程度でしか生き残れない世界になったの。
何故なら、魔物は人の沢山集まるところにおしかけるから。
でも、これは自業自得なの。
他人を虐げてでも力を得たいと思ったこの世界の醜い人達のせいなの。
「グォォォォォォォォ!!!!!!!!!」
叫ぶ声が聞こえるの。
もう、アレが目と鼻の先まで来ているの。
ここまで近づくとわかるの。
アレは、クソ神の祝福の残滓を取り込んだ魔物なの。
だから、ワタシだけでは倒せないの。
ヴィーかレンが居てくれたら・・・
ちらりと聖樹を見る。
でも、ワタシにはレナとの約束があるの。
ここから逃げる事は出来ないの。
だから・・・あの時のレナやガンダンみたいに、負けると分かっていても戦うの!!!!
「ガァァァァァァ!!!」
「来るの化け物!大魔法師レナの仲間、最強の精霊族ルールーが相手になるの!!」
ワタシは・・・ルールーは頑張るの!
頑張って・・・レナのいる所まで行くの・・・きっとレナの魂は逃げなかった事を怒るだろうから、最後の最後まで頑張って戦って許して貰うの!
レナ、もうすぐそっちに行くから、また遊んでね?
レナの子はレナ達の事は何も言わなかったの。
だから多分・・・レナ達はもう・・・お陰でそっちに行くのは怖くなくなったの。
ガンダンのバカも仕方がないから一緒に遊んであげるの・・・大事な大事な仲間だから。
ルールーは頑張るから見ててなの!
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