第5章 悲しき精霊

第49話 ディアでの生活

 強敵ゴウエンの脅威を越え、その結果俺たちの生活は少し変化が見られた。


 あれから、俺たちは本格的に他種族の村ディアの開発に力を入れるようになったのだ。

 

 これまでは、どちらかというと援助を目的とする事が多かったし、そういう意識だったが、ゴウエンが俺の叔父だと判明し、彼の起こした事の罪滅ぼしと、スキルに支配されてしまったとは言え、血縁者であった事もあり、親父やおふくろも俺の行動を望むのではないかと思ったからだ。


 まぁ、あの人達は俺が幸せであればそれで良い、と言ってくれそうではあるが、それでもあのゴウエンの最期の時の言葉を聞く限り、本心ではこれを望んでいるだろうと思うからな。


 それに、俺自信も、レイリーを初め、リュリュ、キョウカなど、他種族と仲良くなった事もあるので、彼らの暮らしが向上するのであれば嬉しく思う。


 最初に手を入れたのは、住居だ。


 幸い、新しく来た鬼族の四人は、それぞれ夫婦だった事もあって、家は二軒で済んだので、総出で5日で終わらせた。

 やはり魔法は色々と楽だな。

 切り倒すのも、乾燥も、加工だってかなり楽になる。


 次に手を入れたのは衣服だ。


 今回来た鬼族の内、女性二人は元々機織りなどの服飾をしていたらしい。

 これにはリーリエが喜んだ。


『これで忍様のお布団が出来ますね!すぐに!すぐに作りましょう!!すぐにっ!!』


 捲し立てるリーリエに少し引きながら、それでもお願いする。


 ・・・俺もその方が正直助かるしな。


 材料は大量に採取した綿があるから良いが問題がある。

 機織りの機械が無いのだ。


 どうしたものかと思っていたのだが、これにも目処がついた。

 

 女神の像の話の時にも出たが、男の鬼族の一人が木工や鍛冶を生業としていたので、彼に設計図を渡し作って貰うことになった。

 設計図はリーリエの知識を借りた。


 それを使った機織りはとても好評だった。

 鬼族の二人の感想は、 


「こんなに使いやすい機織り機は使った事がありません!!」

「すばらしいです!!」


 というものだった。


 流石はリーリエだ。

 頼りになるな。

 

 そう言えば、新たに人魚も数人、ディアに常駐する事になった。

 居住場所は、湖の水上に作った家だ。

 特殊な作りで、家の中に階段があり、水中に行ったり来たり出来るようになっている。


 湖の水は綺麗だとはいえ、海ほどでは無いと思っていたので少し心配だったが、それについてはリュリュが、


「人魚はみんな水に特化した浄化の魔法が使えるから大丈夫だよぉ。それに、ある程度広めに水中に石垣を作ってあるからねぇ。防御も万全なのよぉ。」


 ・・・ふむ。

 餅は餅屋、だな。

 

 人魚がディアに来た事で良かった点はもう一つ。


 塩作りや海の幸、湖の幸が入手しやすくなった事だ。


 森を少し切り開いて、大きめのため池のようなものを作り、そこにリュリュやララさんにお願いしてゲートを設置して貰って、海の水を貯めてもらう事にした。

 ただ、リーリエが言うには、塩というのは植物にはあまり良くないらしいので、リーリエの発案で池の底に、俺が魔法鍛冶のスキルで薄く伸ばしたミスリルを敷き、塩を地面に逃がさないようにする方式が取られた。


 これにはレイリーやキョウカ達が唖然としていたよ。


「・・・貴重なミスリルをこんな風に使うなんて・・・」

「いや、本当にありえねぇな・・・むちゃくちゃしやがる・・・」


 俺にはよくわからないが、それでも武器を作るよりも、こうやって生活力向上の為に使用した方が俺は良いと思う。


 それに、コレには利点もあるのだ。

 

 ミスリルの端を地表に出し、一定期間おきに火魔法をミスリルに伝導する事により、池の水を蒸発させ、塩に出来るようになっている。

 まぁ、かなり魔力はいるのだがな。


 試しにやった時には、みんなから盛大に歓声が上がったよ。

 塩は大事だからな。


 こうして、狩りで肉を取る者、魚を取る者、衣服を作る者、果物や野菜や木の実を取る者、鍛冶や木工をする者が、種族の垣根を越えて協力し合う環境が出来上がったのだった。


 お互いにその分野を教え合い、切磋琢磨していくのを見るのは感慨深い。

 勿論、俺も協力している。

 

 狩りに付き合ったり、魚を釣ったりしてな。

 ちなみに、今は鍛冶場の作成をしている。


 鍛冶場は、ディアから俺の家の間に作る事にした。

 ここなら、あまり音を気にせず出来るだろうし、何かあったら、どちらにも逃げる事が出来る。


 ああ、勿論ゴウエンの墓は既に作って埋葬した。

 俺はいつも朝、訓練の前に水や酒を備えて手を合わせている。

 少しでも安らかに眠って欲しいからな。


 そうして、鬼族が来てから三週間が過ぎた頃、キョウカが


「そういや、シノブ、ちょっと遠出しねぇか?」


と言い出した。


 なんでも、鬼族の元集落に行きたいという事だった。

 ある程度、こちらが落ち着くのを待っていたようだ。


「なんか使えるもんがありゃ儲けものだろ?」


 確かにそうだな。

 よし、行ってみようか。

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