第30話 愛を知った人魚

「う・・・ん・・・?」

『忍様!?目を覚まされましたか!?』


 リーリエの声で意識を完全に戻す。

 周囲を見ると、見慣れぬ天井と部屋だ。


「ここは?」

『ここはですね?人・・・』

「シノブ!?目を覚ましたの!?」

 

 そこにレイリーが飛びついて来た。

 覗き込むように俺の顔を見る。


「レイリー?・・・そうだ!クラーケンを戦って・・・っつぅ!?」


 起き上がろうとすると全身に激痛が走った。

 そうだ!

 俺はクラーケンと戦って意識を!!


「クラーケンはどうした!?」

「シノブ、クラーケンはシノブがとどめをさしたわ。そしてここは人魚の里よ。」

『忍様は全身の筋肉がボロボロで回復魔法でも回復しきれませんでした。それで、リュリュがここでの滞在許可をくれ、休ませて貰っていたのです。』

「そうか・・・ん?リュリュはどうした?」


 思い出してきた。

 確かあの後、意識を失う直前、泣きそうな顔をしたリュリュに抱きとめられて・・・


「リュリュは・・・」

「シノブン!目を覚ましたって聞いたよぉ!?身体大丈夫ぅ!?」


 レイリーが話している最中に部屋に飛び込んで来たのはリュリュだった。

 どうやら、人魚の里の建物には扉がないらしい。

 ん?というかここは水中じゃないのか?

 リュリュが足で歩いているが・・・


「ああ、大丈夫だ。それより、リュリュは大丈夫か?俺を庇って傷だらけになっていただろう?すまんな、不甲斐ない所を見せてしまって。」

「そんな事無いよぅ!!シノブンはすっごく格好良かっ・・・じゃなくて不甲斐なくなんて無かったよ!それに人魚の里を救ってくれたでしょう?感謝こそすれ、嫌な気持ちなんてまったくないよぅ!」

「ああ、それなら良いんだが・・・」


 まぁ、リュリュの表情を見ている限り、嘘を言っているわけではなさそうだ。

 それは良いんだが・・・


「・・・なぁ、リュリュ。」

「ひゃい!?な、なぁに!?」

「・・・なんか遠く無いか?」

「ひぇ!?そ、そんな事無いよう!?」

「いや、遠いでしょ・・・」

『遠いですね。』

「うう・・・」


 そう、遠いんだ。

 リュリュは入ってきた部屋の隅にあるベッドから2メートル位離れて話をしている。 

 ここのところのリュリュならもっと近くに来ていた筈だ。

 リーリエとレイリーもそう思っているようで、つっこみを入れている。


 リュリュもつっこまれて肩身が狭そうだ。


 ・・・やはり嫌われたか?


「うふふ・・・リュリュは照れているのですよ?」


 そんな中、リュリュの後ろから女性の声が聞こえた。

 そして、すぐに部屋の中に入ってくる。

 その女性は、リュリュを更に美しく大人にした見た目でよく似ている。


 というか・・・デカすぎだろうあの胸・・・そして、もうちょっと厚着をして欲しい。

 人魚種特有の水着?にシルエットがよく分かるスカート、それにカーディガンを羽織るだけってのは・・・目のやり場に困るな・・・


「ママ!?な、何を言うのよぅ!」

「あらあら・・・まさか、人魚種のこんな姿が見られるなんて・・・リュリュとシノブさんには感謝しなきゃね。」


 ママ?

 人魚の姫であるリュリュがそう言うって事はこの人は・・・


「はじめましてシノブさん。私は、人魚の女王をしておりますララと申します。」

「こ、これは失礼しました。このような姿で申し訳無いです。俺は九十九忍と申します。」

「あらあら、全然失礼ではありませんよ?あなたは、そこにいらっしゃるレイリーさんと共に人魚の里を救う為に尽力してくれたのですから。むしろ、最大限の感謝を致します。ありがとうございました。」


 そう言って頭を下げる女王様。

 

「あ、頭を上げて下さい!俺はただ、イカが食べたかっただけなので・・・むしろ俺を庇って姫であるリュリュ・・・様を傷つけてしまって申し訳無く」

「シノブンやめて!様なんて呼ばないで!!」


 俺が慌ててそう言うと、リュリュが厳しい顔でそう叫んだ。


「だ、だがリュリュ様はここのお姫様だろう?なら・・・」

「ウチは確かにお姫様だけど、シノブンやレーちゃん、リーちゃんの仲間だもん!!それにシノブンの事・・・ごにょごにょ・・・」

「・・・?」


 途中から何故か小声になって指をつんつんと合わせながら真っ赤になって俯くリュリュ。

 なんだろうか?


「・・・まさか、こんなに早く、なんてねぇ・・・」

『・・・そっくりそのままレイリーに返しますよ・・・忍様のバカ・・・』


 何か呆れたように言うレイリーと、ムスっとした感じの声のリーリエが何かよくわからない事を言っている。


「うふふ。シノブさんはリュリュだけじゃなくて、人魚種全ての恩人、というわけですよ。だから、本当に感謝しています。」


 ころころと笑いながら女王様がそう言った。

 一体どういう事なんだ?

 あ、そうだ!


「よくわかりませんが・・・女王様、そう言えばクラーケンはどうなったのでしょう?それと、あれからどれくらいたっているのでしょうか?」

「あら?わたしの事はリュリュと同じ様にララと名前で呼んで下さいな。」

「いや、しかし、女王様を名前でなんて・・・」

「良いのですよ?だってわたしはもうあなたのお義母さ・・・」

「ママ!言っちゃだめぇ!!」

「あらあら、うふふ。でも、本当に名前で呼んで下さいね?勿論、様、なんてのは無しで、ね?でないと嫌われていると感じて悲しくなってしまいますわ、よよよ・・・」


 ・・・真っ赤になって女王様に詰め寄るリュリュ。

 そして明らかに泣く真似をする女王様。

 はぁ、仕方がない。


「わかりましたよララさん。ですが敬称は勘弁してください。」

「うふふ。それで構わないわ。それよりも、今日はシノブさんが気絶してから3日たっています。」

「3日!?」


 ・・・嘘だろ?


『忍様、今回はかなりダメージを負った上、何度も気闘術を発動し、その上で【切り開く者】が発動していました。回復魔法を何度も受けてそれでも今の状態なのですよ。正直、回復魔法を受けなければ、一生そのまま目を覚まさなかったかもしれません。』


 そうなのか・・・やはり、クラーケンは強かったのだな・・・あれ?そういえばここは息が出来るが・・・


「シノブ?ここはララさん達の力で空気を地上から送って貰ってるのよ。」


 俺が疑問に思っている事をレイリーが代わりに教えてくれた。

 ・・・というか、よく分かったな、俺の疑問に。


「なるほどな。すみません、俺たちの為にありがとうござます。」

「うふふ、良いのよ。恩人だし、それにあなたはリュリュの旦那さ」

「ママぁ!!」

「うふふふ。」

「『・・・』」


 ・・・なんだろう?

 リュリュは真っ赤になっているし、それを微笑ましげに見ているララさん、は良いとして、レイリーとリーリエから不穏な空気を感じる。

 何故だ?


「さて、身体が動くようになったら、宴を致しましょうか。どれくらいで動くようになりますかね・・・」

「・・・そうですね。どうだろうリーリエ?」

『回復魔法はレイリーがかけるとして、忍様は気功術でそれに上乗せして・・・お世話をレイリーとリュリュさんでするのであれば、明後日にでも大丈夫でしょう。』

「いや、宴なんだろ?だったらレイリーとリュリュに世話させるのはどうなん・・・」

「お世話するわよ。任せて。絶対に一人にしないから。危なっかしぃし。」

「お世話するよぅ!むしろさせてぇ!他の子から守らなきゃ!!」


 おおう、食い気味に来たな。

 しかし、危なっかしいとか守るってのはなんなんだ?

 ・・・それはそれとして、だが、リュリュよ。


「・・・リュリュ、なんかわからんが、そんな距離を取っていて出来るのか?なんならレイリーだけに・・・」

「するもん!絶対するぅ!」

「わ、わかったわかった。」

「う〜!」


 涙ぐんで睨むように俺を見るリュリュ。

 しかし、怒っている感じはしない。

 一体どうしたんだろう?


『忍様のバカ・・・』

「うふふ。これで人魚種も安泰ね。歴代の女王の懸念事項が消えてホッとしたわ。本当にシノブさんには感謝しないとね。」


 そしてリーリエは何を怒ってるんだ?

 ララさんの物言いもよくわからんし。

 

 まぁ、良いか。

 とにかく、人魚の里を救えて良かったよ本当に。

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