第28話 怪物クラーケン

「それじゃあ魔法をかけるねぇ。これをかけると2時間は水中でも息ができるよぉ。」


 翌朝早朝、俺たちは戦いの準備を終え、リュリュから魔法をかけられた。

 水中での戦いにどうしたものかと頭を抱えていたところ、リュリュからそれようの魔法があると言われた。

 但し、時間制限がるらしい。

 

 それでも、かなり助かる。


 リュリュに襲撃を教えてくれた人魚の話では、いつも襲撃は夜明け前であり、まもなく襲撃が来る時間帯だ。


「これが最後の確認よぉ?本当に、良いの?」


 リュリュからの問いかけ。

 いつものふんわりした笑顔では無く、真剣な顔だ。

 

 俺もレイリーもリュリュを見つめ返す。


「当たり前だ。美味いものは山分け、基本だろ?」

「ええ、そうね。今から楽しみで仕方がないわ。人魚種だけに独占させるもんですかっての。」

『忍様のお食事になるのであれば、クラーケンも本望でしょう。』


 俺たちの言葉を聞き、リュリュは嬉しそうに微笑んだ。


「人族の勇者シノブ・ツクモ、エルフ族の勇者レイリー・ツクモ、そしてリーリエ、人魚種を代表して深く感謝をします。」


 そう言って頭を下げるリュリュ。

 いつものように、間延びした話し方では無い。

 だが、そうじゃないんだリュリュ。


「感謝はいらない。それに俺は勇者なんかじゃないさ。俺はただ、仲良くなった友達を助けたいだけだ。」

「ええ、そうね。それにお礼を言うのはまだ早いわ。それは宴の時に頂くわね。クラーケンを食べながら、さ?」

『忍様、イカの調理法をいくつかピックアップしておきますね?盛大に頂きましょう。』

「・・・本当に、ありがとう・・・」


 目元を拭いながらそう言うリュリュ。

 

「さぁ、行こう。」

「うん!」


 リュリュが魔法で海と繋ぐ。

 俺とレイリー、そしてリュリュはその中に飛び込んだ。











「ここが水中・・・むっ!?」

「もう始まってる!?」

「みんな!!」


 俺たちの視線の少し先に、巨大な触手のようなものに魔法を放っている多数の人魚が見える。

 見る限り、あまり効いていないように見える。

 かなり劣勢のようだ。


「まずは近づくぞ!!」

「今から水を操って二人を加速させるねぇ!」


 後ろから凄まじい水流で押され、俺とレイリーは一気に加速した。

 見る見る内に触手が迫る。


「レイリー!」

「わかってる!!」


 水の魔纒術で身体を覆う。

 これでさらに速度があがるはずだ。


 目の前で人魚を押しつぶそうと、クラーケンが大きな触手を振り上げている。


「ひっ!?」

「させるかっ!!せやぁっ!!」


 滑り込むように触手と人魚の間に入り、魔纒術から気功術に切り替え、腰鉈を目一杯振り切る。

 最近わかった事だが、気功術を使用する時、武器まで覆うイメージをすると、切れ味や強度まで上がるようだ。

 俺が放った斬撃は触手を弾き飛ばした。


「え!?誰!?ニンゲン!?なんでここに!?」

「そんな事は良い!下がれ!」

「その人指示に従ってぇ!仲間だからぁ!!あなたは後方から援護を!!」

「え!?リュリュ様!?は、はい!!」


 戸惑っていた人魚だったが、リュリュにそう言われて後方に下がる。


「これがクラーケン・・・でかいな。」

「そうね。でも、食べごたえがありそうよ?・・・見た目は気持ち悪いけど。」

「ははは、まずはこいつを始末するか。行くぞレイリー、リュリュ!!」

「ええ!」「うん!」

『クラーケンの弱点は2箇所です!眼球と胴体の付け根部分、そして眼球と眼球の間です!!』

「了解!レイリー!俺は付け根部分を狙う!君は目と目の間を狙ってくれ!リュリュ!君は他の人魚と一緒に触手を頼む!他の人魚にも援護を!」

「了解!さぁ、やるわよ!」

「わかったぁ!!」


 リュリュは他の人魚に指示を出すために一旦下がり、俺とレイリーは接近を試みる。


 その瞬間、俺とレイリーに1本づつ触手が襲いかかって来た。


 早い!!


「おおおおおっ!!」


 俺は腰鉈と剣鉈を構え、切り飛ばそうと試みた。

 だが、


「ぐっ!?思ったよりも身体が重い!!」


 先程も思ったが、やはり水の中だとかなり抵抗があるようだ。

 それでも触手を半ばまで切る。


「まだまだ!!九十九忍が命じる!風よ!渦巻き我が眼前の敵を退けよ。『エアリアルカッター』!」


 地上で放つよりも速度は遅いが、俺が切った傷に風魔法が飛ぶ!

 更に傷が深くなった。

 触手はのたうち回っている。


「いい加減切れろ!せぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は水の魔纒術を使い一気に近づき、気功術に切り替え剣鉈を振るった。

 これには触手も耐えきれなかったようで、切り飛ばされた。


 これでようやく一本か・・・


「シノブ!こっちもオッケーよ!!」


 レイリーの声でそちらを向くと、レイリーもどうやったか触手を切り飛ばしたようだ。


「でも、かなり魔力を使うわ!全ての触手を相手にする事は多分無理!」

「ああ、そうだな。どうするか・・・」


 そんな俺たちを驚異と見たのか、他の触手と共に本体が接近してきた。

 一斉に襲うつもりか・・・どうする!?


 そんな風に冷や汗を流していると、急にクラーケンの動きが鈍った。

 なんだ!?


「シノブン!レーちゃん!みんなでクラーケンの周りの水の動きを操作して動きを鈍らせてるわぁ!」


 リュリュだ!

 その周囲には他の人魚の姿も見える。

 みんな、クラーケンに手をかざしている。


「レイリー!」

「うんっ!」


 俺たちは、水の魔纒術で本体に接近する!

 しかし、そんな俺たちをあざ笑うかのように目の前の空間が光る。


「なっ!?」

「魔法!?まずっ・・・」


 離れようとする俺たちに向かい凄まじい水流の波動が襲う。

 咄嗟にレイリーを庇って前に出る。

 

「がっ!!!」

「きゃああああっ!」

「シノブン!レーちゃん!!」


 直撃!

 衝撃で身体が痺れる!!


『忍様!防御を!!』

「!?があああああああっ!!??」


 そこへ追撃の触手の撃ち落とし。

 リーリエの警告で気功術(防)を使ったが、それでもかなりの衝撃だった。

 意識が・・・


 クラーケンの触手が迫る。

 

「シノブンはやらせない!!」


 リュリュの声が聞こえた。

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