第18話 湖での決戦
湖で揉めた日の翌日、レイリーはすっかりと元気になっていた。
まぁ、まだ無理矢理元気でいようとしているのは感じられるがな。
それ以降、レイリーは更に訓練に力を入れるようになったのだが、少し困った事がある。
「シノブ〜?一緒に入る〜?」
『レイリー!!忍様は一緒に入りません!!はしたないですよ!!』
「いいじゃないちょっと位。私は気にしないわ。」
『よくありありません!!』
そう、入浴の際、俺を誘うようになって来たのだ。
レイリーに入浴を教えたのは俺なのだが、最初は訝しげにしていたレイリーも、風呂の魅力に取り憑かれて、今では毎日入っている。
そして、あれ以降こうやって混浴に誘って来るのだ。
当然、俺は誘いには乗らない。
レイリーの為に、浴槽のある所に壁と屋根を作り、周りから見えないようにしたのだが、あれ以降、人恋しくなったらしいレイリーが、俺から離れるのを嫌がるようになってしまったのだ。
人の気配を感じられる所に居ればいいらしく、俺はいつも壁際の外で作業をしているのだが、こうやってからかうような事を言って来る。
まぁ、おそらく半分は本気なのだろうが。
そして、それを聞くと、今のようにリーリエが怒るのだ。
そんなこんなで一週間程過ぎた時だった。
「湖の様子を見に行きたい?」
「うん、そう。大丈夫だと思うけれど、あいつらが嫌がらせで何か仕掛けていないか確認しておきたいの。」
レイリーがそう言った
『忍様、レイリーの案に賛成です。湖は貴重な資源が採取出来る所でもあります。覚えているうちに、きちんと確認しておく方が良いでしょう。』
リーリエも賛成したので、湖を確認する事にした。
かなり湖に近づいた時だった。
ドォーーーーン!!
「戦闘音!?」
「近いぞ!・・・あれは!?」
俺たちは音の鳴った方・・・湖に急行する。
するとそこには、巨大なムカデを相手にしているエルフ達が居た。
「あれは・・・」
『大王ムカデですね。しかも魔物化しています。』
「そうみたいだな。あれでは・・・」
俺たちはムカデとエルフ達の戦闘を見る。
エルフ達は30人位が武装しているようだが、ムカデに有効打を与えられず、蹴散らされているみたいだ。
一人、また一人と戦闘不能になっている。
「くっ!!怯むな!!殺せ!!殺せー!!」
少し離れた所に一際身なりの良い年重のエルフがいる。
「・・・叔父様。」
レイリーがポツリと呟く。
あれがそうか。
「くそっ!レイリーを連れ戻しに来ただけだったのになんでこんな化け物が!!ひぃっ!?」
その隣にレイリーと同じくらいの若さのエルフもいる。
もしかしてあれが・・・
「馬鹿息子もいる。自分たちは安全なところから指示だけ・・・変わってないわね。反吐が出る!!」
罵倒するレイリー。
だが、あれはそう思われても仕方がないかもしれないな。
エルフの戦士達は、次々と負傷している。
中には、命を落としている者もいるだろう。
「これ以上は見ていられない!」
レイリーが立ち上がる。
「待て、レイリー。」
「シノブ!止めないで!私は・・・」
「誰も止めないよ。俺もやる。」
「シノブ・・・ありがと・・・」
俺たちは気功術と魔纒術を全開にする。
「あなた達!離れなさい!」
「そこをどけ!俺たちがやる!!」
「あ!?あれはレイリー様とあの時の!?」
「レイリー!?何をしている!!こっちに来い!!」
レイリー
だが、それどころでは無い。
「レイリー!先制する!次弾を頼む!!」
「任せて!!」
俺はエルフを噛み殺そうとしていたムカデの目を剣鉈で切りつけた。
「ギシャアアアアアアアア!!」
「うるさい虫けらだっ!!」
上体を起こしたムカデの腹を蹴りつけて後ずさらせた。
いまだ!
「レイリー!」
「わかってる!『エアロストーム』!!切り刻まれなさい!!」
横合いから詠唱を完了していたレイリーの魔法が炸裂した。
みるみる傷が増えるムカデ。
ムカデは尻尾を振ってレイリーを攻撃しようとした。
「させるか!!『防』!!」
俺は気功術を防御に全振りしてその尻尾を受け止める。
ある程度意識を切り替えられるよう、攻撃に全振りの時は『攻』、防御に全振りの時は『防』と口にするようにしている。
いずれは、思考するだけで出来るようにしたい。
ぐっ・・・凄まじい衝撃だ!
こいつは魔熊に匹敵する!!
だが、今の俺もあの時の俺じゃない!!
「シノブやるぅ!!その尻尾頂き!『エアロスラッシュ』!!」
「ギャァァァァァァァァァアァ!!!!!」
ムカデから悲鳴があがる。
レイリーが尻尾の先のハサミを根本ごと切り飛ばしたからだ。
「隙あり!せぁっ!!」
俺は剣鉈でムカデの牙を切り飛ばす。
その瞬間、魔法陣がムカデの全周囲に浮かぶ。
「シノブ!魔法が来る!ほら!あんた達引きなさい!!ここは私とシノブが受け持つから!!」
「ですが!」
「いいから逃げろ!!邪魔よ!!」
「は、はい!!」
エルフの戦士が逃げ出す。
それを見ていると、紫色した霧が魔法陣から吹き出した。
「これ、多分毒!!」
「了解!吹き飛ばす!九十九忍が命じる。風よ!暴風となり・・・ぐあっ!?」
「シノブ!?」
後方に下がりながら詠唱していると、霧の中から棘が飛んできて俺の足に刺さった。
すぐに全身がふらつき足に激痛が走る。
毒だ!!
だが、俺には状態異常耐性がある!!
「レイリー!こいつは棘を飛ばしてくる!毒を付与してな!俺が気功術で盾になるから霧を吹き飛ばしてくれ!!」
「大丈夫なの!?」
「なんとかする!!」
レイリーには指一本触れさせない!!
『忍様!毒消しを!!そうすれば毒の進行を抑え、耐性があがり毒の弱体化、もしくは無効化ができるかもしれません!』
「わかったリーリエ!!」
俺はすぐに手製の毒消しを飲む。
苦い。
むっ!?棘か!やらせん!!
「『防』!!」
キンッ!と音がなり、その場に棘が落ちる。
いくら棘でも刺さらなければ関係ない。
「お待たせ!吹き飛びなさい!『ウインドストーム』!!」
霧がレイリーの魔法で吹き飛び、ムカデの姿が見えた。
ここだ!
Pon!
『忍様!耐性が向上しました!今なら全力が出せる筈です!』
身体がスッと楽になった。
それと同時に、身体の能力が上がる感覚がある。
『称号の効果です!『切り開く者』が発動しています!』
なるほど。
毒が逆境となったか。
好都合だ。
「ムカデ。お前を殺して俺はもっと強くなる!【気闘術】発動!うおおおおおぉぉぉ!!」
俺は剣鉈をしまい、手刀を作る。
そして顔面に向かって放った。
ズブゥッ!!
めり込む感覚。
そしてそのまま頭を突き破り、ムカデはひっくり返った。
ビクビクと動いているが、戦闘はもう不可能だろう。
気闘術を解除するとグラッと来た。
やはり全力時に使うとかなり負担となるようだ。
「シノブ!」
レイリーがふらつく俺を支えてくれた。
「すまんレイリー。」
「良いのよ。無茶したわね。」
レイリーが苦笑いして俺を見た。
これで終わり・・・
「レイリー!何をしている!下等種の男から離れろ!!」
そこに馬鹿息子の声が響いた。
どうやら、まだ終わりでは無いようだ。
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