第2章 新たな出会い

第11章 とある逃走者

「はぁ・・・はぁ・・・こ、ここまで来れば流石に・・・」


 息も荒く少女は立ち止まり、水筒に残った最後の水で喉を潤す。


「みんな逃げられたかな・・・」


 そして、自分が走って来た方向を見て呟いた。


 彼女は逃げて来た。

 自らを囮にして奥地まで。


 どれだけの距離を逃げたのかはもうわからないほど走った。

 その身体は、枝や石で傷まみれになっている。


 その少女は金色の長い髪に、スラリとした体躯を若草色の衣装で身を包み、背中には弓を持っている。

 しかし、矢筒にはもう矢は入っていない。

 全て使いきっていた。

 少女の大きな特徴は耳。

 長い耳。


 本来であれば誰もが振り返るような女性であろうが、残念ながら今は見る影も無い。

 血と、汗と、泥で汚れており、髪も乱れている。


「みんな・・・どうか無事で・・・」


 少女が呟いた時だった。


 アオー・・・・・・・・・ン!!


 何かの生き物の遠吠えが聞こえた。

 その鳴き声に少女は覚えがあった。


 アオー・・・・・・・ン!!

 

 アオー・・・・・ン!!


 そう、彼女を追跡しているのは鳴き声の持ち主。


「近づいて来る!まだ追いかけて来てるんだ!逃げなきゃ!!」


 少女はまた走り出した。


 その間も遠吠えは聞こえているが、段々とはっきりと聞こえて来るようになっていた。

 必死の形相で少女はひた走る!!


「みんな!みんな!!どうか生きて!こんな世界だけど、最期まで生きて!!」


 涙が出てきた。

 頭の中に、友人や親しかった者の顔や、今は亡き両親の顔が思い浮んで来る。

 だが、少女はもう会う事は叶わないだろう。


「どうして・・・どうしてこんな世界になっちゃったの!?神様はどうして助けてくれないの!!」


 泣き言が口から出てくる。

 

 彼女は長命種だが、滅びの日はまだそれほど昔ではない。


 世界が滅ぶ前を知っている。

 しかし、そんな彼女でも世界が滅んだ理由は知らない。


 ある日突然、滅んだのだ。


「はぁ・・・はぁ・・・きゃっ!!」


 ドザッ!!


 少女は石に躓き転倒した。

 何も食べずに長距離を走り続け、もう限界なのだ。


「駄目・・・もっと引き付けなきゃ・・・みんなが無事でいられるように・・・」


 ゆらりと立ち上がり、また歩みを進める。

 自分と同じ種族の者達は逆方向に逃げている筈だ。

 なんとしても引き離さなければならない。

 足を引きずって歩く。

 もう、走ることも出来ない。

 

 限界なのだ。


ガサッ!ガサッ!!


 後方から物音が鳴り響いている。

 

 それは死の足音。


「うう・・・みんな・・・ごめん・・・もう・・・限・・・界・・・」


 ドサリ


 その場に倒れ伏す少女。


「グルルルルルル・・・」


 そこに現れたのは狼。

 いや、狼の魔物、魔狼の群れだ。


 その数は10を越えている。


「・・・お父さん、お母さん、私、必死に生きたよ・・・?もう、そっちに行って・・・良いよね・・・?」

 


 段々と近づいてくる血なまぐさい気配。

 どうやら、ここまでのようだ。

 朦朧とする意識の中、少女は涙に濡れた瞼を閉じようと・・・





 ドゴンッ!!


「ギャインッ!!!」


 凄まじい衝撃音と悲鳴。


「え・・・?」


 少女はビクッとして目を開ける。

 すると、そこには・・・一人の男が立っていた。

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