おえかき

藤間伊織

おえかき

洗濯物をたたもうとその腕に抱えた家族の服たちを、リビングの中央に置いたところで、


「パパ!すとっぷ!」


とつたない喋り方で停止命令がくだされた。


ちら、とそちらを見やると先ほどまでおとなしくおえかきをしていた娘がなにやら真剣な顔でこちらを見ている。

周りに散らばった画用紙にはどれも似たようなものが描いてある。

四つん這いになっているその生き物は、一見犬や猫のような動物に見えるが、親の理解力をもってすれば答えは簡単。最近の娘のマイブーム、おうまさんごっこをしているパパ――つまり俺――だ。

しかし納得いかなかったのか、娘はまた新しい画用紙に絵を描こうとしている。本物を見ながら描こうとはすばらしい発想である。……こういうのは親ばかに入るだろうか。


しかし、娘よ。パパはそろそろ限界だ。


まだ若いつもりではいるが、なにせ洗濯物を下ろした瞬間、つまりほとんど中腰に近い姿勢なのだ。この姿勢で停止となるとかなりキツい。

動いてもいいか許可を求めようと口をひらいたが、うんうん言いながら真剣にクレヨンを走らせている娘を見て何も言えなくなった。

、俺はこのかわいらしい小さな画家に協力することにした。



ようやく動くお許しをもらったときには俺の腰はバキボキいっていた。

しかしまあ、「できたー!」と嬉しそうに言う娘の満足げな顔を見れば、そんなことは些細なことだった。描かれている二人は幸せの象徴だ。


その後、娘は洗濯物たたみを手伝ってくれ、その姿にまた愛しさがこみ上げた。


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