未来が見えるようになったけど、なんかヤバい事件しか起きない

@NEET0Tk

第1話

 昔はよかった。


 いわゆる老◯達のテンプレ文句だ。


 だが実際、全ての人間は同じことを考えているのではないかと思う。


 過去にあった楽しい思い出、無くなったルール、惜しまれながら消えた名作。


 そんなものを思い出し、人はそれでも未来まえへと進んでいく。


 そういったものを人は成長というのだろう。


 だがそんな世界に、過去うしろしか見たくない人間だって存在する。


 それが誰かと問われれば



 ◇◆◇◆



「最悪の目覚めだ」


 朝の日差しと共に目を開ける。


 全身に一気に倦怠感が襲いかかった。


「昨日の俺はなんて幸せだったのだろう。こんな気持ちのいい睡眠を堪能出来たなんて。羨ましい限りだ」


 今日は始業式。


 俺は今年で17となり、2年生に昇進する。


 留年するのではないかと気が気でなかったが、どうやら同級生から白い目で見られずに済むようだ。


「そもそも既に白い目で見られてるのでは?」


 やめよう。


 これ以上ネガティブに考えれば学校をサボってしまいそうだ。


「ふわぁ」


 大きな欠伸と共にベットから体を起こす。


「そういえば、今日は珍しく起こしに来なかったな」


 もしかして嫌われたのか?


「そんな……もしそれが真実なら俺が生きていけないや」


 トボトボと重い足でリビングに向かう。


「それにしても、リアルな夢だったな」


『ねぇ果穂。今日は屋上で食べよ』

『うん!!』


 うーむ。


 あれは確か同級生の二人だった気がするんだけど。


「おはよう未来」

「ん?ああ母さんおはよう」


 リビングではマイマザーが朝ご飯を作っていた。


「あれ?父さん仕事は?」

「今日は少しな……」

「ふーん」


 今日は色々と珍しいと思いながらソファーに座る。


 すると、父さんが付けたと思わしきテレビからよく知る言葉が飛び出す。


『4月6日の昨日、あの『本物』の独占インタビューに成功しました』


「……相変わらず人気者だなぁ」


 最早見ない日がない程有名な人物、通称『本物』。


 雲の上の存在に誉れの言葉を送ると同時に、目の前に何かが置かれたことに気付く。


「ご飯よ」

「ん、頂き……は?」


 俺の目の前には朝ごはんは置いていなかった。


 だがある意味、それはご飯に相応しいというかなんというか……


「お金?」

「実はお母さんとお父さん、しばらく海外に行くことになったの」


 ……は?


「な、え?海外旅行?」

「ううん。海外に移住するの」


 急に何言ってんだ?


「お、俺と彩葉はどうすんだ?」

「その為のお金よ」


 父さんがなんかドデカイジュラルミンケースを出す。


 それいくらしたんだよ……


「足りなくなったら言え」

「ま、待て!!何故そんなお金を!!それに色々分からないことだらけで」

「実は未来に話さないといけないことがあるの」

「ま、まだあるのか?」


 母さんは真剣な趣で


「実はあなたは、魔法使いの末裔なの」

「……そうだったのか」


 俺は考えることをやめた。


 どうやら俺の母親はこの歳(4X)で厨二病に発症したらしい。


 確かに俺も時々カッコいい技名を叫ぶことがあるが


「証拠を見せないと」

「あぁ、そうだった」


 そう言って母さんは手を前に出し


「プット」


 すると


「……どんなマジック?」


 いつの間にか、母さんが手を向けた先の写真がその手の中に納められていた。


「母さんはね、近くの物を勝手に取ることができる魔法が使えるの。凄いでしょ?」

「ちなみに父さんは物体を固定することができる」


 母さんが手を離すと、写真は空中で停止した。


「未来。にわかに信じられないのは分かる。でも、本当に大事なことだから聞いて欲しいの」

「待ってよ、急にそんなこと言われても俺……」

「魔法は幸せになるとは限らない」


 まるで過去に経験があるかのように、母さんは言った。


「そしてお母さんとお父さんは出会ってしまった。その二人の子である未来はきっと、これから大変な生活が待ってると思う」

「何で今更そんなこと言うんだよ。なら母さんと父さんがどうにか……」

「ごめんね未来」


 そしてボヤける二人。


「未来。実は言い辛かったのだけど」


 徐々に二人の姿はまるで映像のようになっていき


「未来がこれを見ている頃、実はお母さん達はもう……」

「まさか……」


 死


「シンガポールにいまーす」

「楽しんでるから、お前は彩葉にちゃんと面倒見てもらうんだぞ」


 そして二人の姿は消え、残ったのは学生が持つ量ではない大金。


「……」


 ジュラルミンケースの中には一枚の紙。


『ちなみにこの大金は彩葉が稼いだお金です。一日でお父さんの年収超えちゃってお父さん泣いてた』


 こんなことが書かれていた。


「……学校行こ」


 俺は学校に行った。



 ◇◆◇◆



「えー皆さんはもう立派な大人でありー」

「ふわぁ」


 校長先生の催眠術により眠気を誘われる。


 一瞬校長の催眠って何か……とか考えたが、流石にやめた。


 まだR-18はいけないのだ。


「えー、本校にはなんか知らないけど多数の有名人が在籍している。教師としてではなく一人の人間としての言葉として、間違ってもおかしな真似はしないでくれたまえ」


 さすが校長先生だ。


 初日にあの人気アイドルから全校生徒の目の前でサインを貰おうとした男の言うことは違うぜ。


「えー最後に」


 校長は一枚の色紙を取り出し


「サインっていくらで売れますかね?」


 こうして始業式は終わった。


「疲れたー」

「てかクラスって誰いたっけ?」

「彩葉ちゃんと同じクラスになっちゃった」

「俺のクラス外れなんだけど……」


 教室に向かいながら皆が友人達と楽しそうにお喋りしている。


 例に漏れず俺も友人と楽しく会話を


「そうそう、俺って実は魔法使いでさ」

「……」

「でも正直意味分かんないというか、漫画かよって話でな」

「……」

「おいおい返事しろよ」

「……」

「あ、そっか」


 俺、全然友達いないんだった。


 イマジナリーフレンドが風に消えていく。


 空気と一体になりながら、俺は今朝の出来事を思い出す。


「魔法か」


 あまりにも荒唐無稽な話で話についていけなかったが、まるで本物かのように動く二人の姿、更にはジュラルミンケースを持てていた様子から、実態があったということ。


 最新の科学技術だと信じたいが……


 いや、違うな。


 信じたいのはそっちじゃない。


「本当に魔法が使える?」


 それが本当だとすれば


「ウヒ」


 おっと、キモオタ特有の笑いが出てしまった。


 いやキモオタに失礼かそれは。


 まぁそんなことどうでもいい。


「魔法か。瞬間移動、サイコキネシスにテレパシー。いやー、夢が膨らむなー」


 非現実に夢を抱く。


「でもま、後でそんなもの存在しないって痛い目見るんだろうな」


 あくまで妄想。


 そんな夢物語は期待すればする程、後でその反動が大きくなるだけだ。


「夢か……」


 相変わらず過去を思い出すのが大好きな俺。


『ねぇ見て果穂。空が綺麗』

『ホントだね。あ、舞ちゃん、ここからの景色も凄いよ』

『え!!見せて見せて』


「どうした未来」

「へ?あ、先生」


 ボーッと歩いていると、とある女教師にぶつかる。


「寝不足か?遠足を楽しみにする小学生とは違い、お前のことだからきっと始業式が憂鬱過ぎて夜更かししたか?」

「先生は何故いつも俺の解像度がそんな高いので?」

「お前が分かりやすいからだ」


 ペシリと教師の必須アイテム、謎の日誌で頭を叩かれる。


 ここで


『体罰だ!!』


 なんて軽口が叩けるなら俺は友達がいる。


 全く、弱気な自分が嫌になるぜ。


「裁判所でお会いしましょう(キメ顔)」

「だからお前には友達が出来ないんだ。ほら、さっさと教室入れ」

「あれ?もしかして担任って……」

「喜べ。去年と同じで私だ」


 ほぇ〜。


「そりゃ確かに運が良いです」

「やけに素直だな」

「先生なら、グループ活動とかで陽キャグループに入れられたら死ぬことを知ってるのでラッキーです」

「あくまで自分中心なとこ、嫌いじゃないぞ」


 そう言って先生は教室に入って行った。


 この人は大代先生。


 俺の去年の担任だった人だ。


 めちゃくちゃ美人、てかこの前芸能関係の人が学校に来た時にスカウトされたぐらいであるが、当の本人は


『チヤホヤはされたいが、目立つのはだるい』


 という理由で断る少し変わった人だ。


「俺も行くか」


 コソコソと先生に注目が集まってる隙に、教室に忍び込んだ。


 今日は始業式のため俺らは昼飯と掃除をしたら即帰宅である。


 だから四限分の時間を乗り越えれば、晴れて俺は自由になれるわけだが


「……」

「えっと……源君どうしたの?」

「え!!いや、なななんでもないです!!」

「そ、そう?」


 ジロジロ見過ぎたか!!


 俺は隣の席になった果穂という女子を見ていた。


 去年同じクラスだったが、関わることは一切なかった為、気にもかけていなかったが


『果穂。お昼食べよ』

『うん』


 今朝の夢が忘れられない。


 夢ってもっとこう、すぐに忘れるものじゃなかっただろうか?


 胸にモヤモヤを抱えながら、その日の授業は終了した。


 そして


「果穂、お昼一緒に食べよ」

「うん」


 正夢か。


 ザ・文系の俺としてはそんな非科学的なもの信じてなかったが、これはもしかしたら


「おい」


 声を掛けられる。


「さっきから何だよ」

「え!!お、俺ですか?」

「お前以外誰がいるんだよ」


 名前は確か舞……だったか?


 気の強そうな陽キャ女子だ。


 一生関わることはないと思ってたのに最悪だ。


「まさかあんた果穂に気があるの?」

「い、いえ!!滅相もございません!!」

「てかいつも思ってたけど何でそんな前髪長いの?ダサすぎんだけど」

「ちょっと舞ちゃん」


 俺の自動視線防御システム、通称前髪を引きちぎられそうなところを、果穂と呼ばれる女子に助けられる。


「ごめんね源君」

「あ、いや、こっちこそジロジロ見てごめん」


 だけどやはり、どうしても気になる。


「一つだけ教えてくれない?」

「何だよ」


 俺は意を決して


「今から屋上に行こうとしてる?」

「……盗み聞きかよ。キモ」


 そう言い残し、舞は果穂を引っ張るように消えて行った。


「はぁ」


 何やってんだ俺。


 すると肩を叩かれ


「同志でござるわね」

「誰だよ」


 リアル丸ぶちメガネのオタクに仲間認定された。



 ◇◆◇◆



 死にたい。


 影に徹することに一目置かれた俺が、何故あそこまで執着したのだろうか。


 きっと両親のせいだな。


「魔法なんて言うから」


 もしかしたらなんて思ってしまうのは、思春期特有だろこんなの。


「あー、パンうめー」


 親がいない為弁当がない俺は、購買で買ったパンを食う。


 場所は使われていない空いた部屋、ここは丁度


「良い天気だなぁ」


 屋上が少し見える良い塩梅のスポットである。


「恥をかいたんだ。この際本物か偽物かハッキリさせよう」


 そしてパンを食べて数分経ち


「マジかよ」


 屋上の扉が開く音がした。


 一人が楽しそうに飛び出し、もう一人は少し怖がている様子だ。


「舞に果穂」


 よく知ってる二人だ。


 二人は俺の角度でも見える場所で、仲良く昼食を食べ始める。


「俺が屋上とか言ったのが悪かったのか?」


 まだ確信を持てない。


 だが、偶然にしてはよく出来ているとも思う。


 そして


「あ」


 舞がクルクルと回りながら、果穂に空を指差している。


 あの光景は確か


『ねぇ見て果穂。空が綺麗』

『ホントだね。あ、舞ちゃん、ここからの景色も凄く綺麗だよ』

『え!!見せて見せて』


 そう言った後……舞は確か……


 その後どうなったんだ?


 思い出せない。


 いや、そもそも見ていないのか?


 そして舞は楽しそうにフェンスにしがみつく。


「あ」


 思い出す。


 いや、その瞬間初めて見たのかもしれない。


 そう


 この後に舞は



 ◇◆◇◆



『本日午後1時頃、都内の高校で一人の女子生徒が事故により死亡しました。死因は経年劣化となったフェンスが崩壊したようであり、学校側はーー』


 ニュースが暗い部屋で流れる。


「俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ俺のせいだ」


 違う!!


 俺のせいじゃない!!


「まさか死ぬなんて思ってなかったんだ!!知ってたら止めてたのに!!そんなの有り得ないって普通思うだろ!!なぁ!!」


 何に怒ってるのか分からない。


 知っていたのに助けられなかった自分か


 俺の目の前で死んだ彼女にか


 分からない。


 自分が何を考えてるのかも分からない。


 ただ……その時両親の言葉を思い出した。


『能力は幸せになるとは限らない』


 もしあの景色を知らなきゃ俺は、きっと今頃いつも通りに過ごしていたはず。


 学校の人間が死んでもきっと、そうなんだという一言で済ませられた。


 なのに知ってしまったから。


 知っていたのに何も出来なかったから。


 だから俺は


「死にたい」


 今朝の俺はよかったな。


 何も知らず、のうのうと生きていた。


 あの時の俺はなんて幸せものなのだろうか。


「憎いよ」


 本当に嫌だ。


 もう嫌だ。


 未来なんてクソだ。


 今なんてクソだ。


 やり直したい。


 戻りたい。


 後悔したくない。


 次はもう


『失敗しないようにか』


「……誰だ」


 今一瞬、誰かに話しかけられた気がした。


 いや、気がしたじゃない。


 ほら、今も


『一度だけだ』


 一度だけ?


『もう後悔はするなよ』


 そして俺は


「最悪の目覚めだ」


 夢から戻った。



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