雨粒の園

綴魅星大夜

雨粒の園(序)

 雨、あめ、アメ…。今日もまた雨だった。真っ暗な空、長年続く膨大な量の雨。最後に見た青空はいつだったんだろう。最初の頃は鬱陶しいとすら思っていたけど、今はもはや心地いい気さえもする。



 親と手を繋いで、微笑ましい園児の姿。友達と追いかけっこをする小学生の光景。戯れ合う同じ服を着た賑やかな生徒の集団を見ながら、帰り道を歩く。曇り空の下、肌寒く降る鬱陶しい春雨。それでも人々は笑みを浮かべて、生きている。


 「友達ね…。」


 友達なんか必要ない、なんて思っているわけではない。ただ、自分は一人で十分だって、いつもそう考えていた。だって、人と関係を持つのは心が悲鳴をあげるほど恐ろしいから。


 「…」


 また変なことを考えてしまった。雨も段々強くなってきたし、早く帰って宿題をやらないと。






 「おーい!そこのキミ!」


 背後から聞き覚えのある声がした。とんでもなく不愉快な声だ。その瞬間に逃げ出そうとした。しかし、また腕を捕まえられてしまった。


 「ちょっと、キミー。なんで逃げようとするんだよー!」

 またこの人だ。毎回毎回、帰り道を歩くたびに話しかけてくる変な人。姿からして会社員のようだが…。

 「話しかけないでくださいと何度も申し上げたはずですが。」

 「もう、冷たいってばー。傷ついて泣いちゃうよ?」

 「社会人の方がそんな簡単に泣いたら、余計関わりたくはありませんが。」

 怪しい。明らかに怪しい。こうしてほぼ毎日待ち伏せをしたかのように話しかけてくるのは、どう考えても何らかの目的があるとしか考えられない。場合によっては警察の方々のお世話にならなくてはならない案件の可能性も?


 「ねぇ、ねー。一回だけでもいいから付き合ってくれよー。」


 あるいはただの暇人の暇つぶしの可能性もあるのだが…。


 「…」


 毎回断ったらしょんぼりした顔をされて、こちらとしては気が重い…。いっそ一回だけ付き合って、最悪な印象を与えれば勝手に自分から遠ざかってくれるのだろうか。


 「……はぁ、いいでしょう。」

 「ほんとう?やったー!」


 年に合わずはしゃぐこの成人した人間に対してどう思ったら良いのだろうか…。


 「ただし、今後話しかけてこないことを約束していただます。」

 「うーん、わかった!じゃあさあ、まずはあそこの公園に行こうよ!」

 「ちょっと、引っ張らなくても逃げませんから…!」

 「ふふ、信用できないからな、君は。手を離したらすぐどっかに流れちゃいそうだよ。」

 「なんですか、それ…。」

 「いいからいいから!」

 「はいはい…」


 手を引っ張られながら、ふと空を見上げた。いつも通り空は真っ暗のままだ。でも、雨の勢いは少し、弱くなった気がした。

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雨粒の園 綴魅星大夜 @Tdmboshi_DY

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