第18話 急なシリアスは風邪引きそうになるわ。
「く、ぐるじい…」
「それ見たことか。」
どうもハリナだよ〜…。うぅ…お腹いっぱい…。ラーメン完飲後、追加で二軒回って次々に名物グルメを平らげた私のお腹はぱんぱんだ。いやはやどれも素晴らしい一品でした。やっぱりご飯はいいね。お父さんやお母さんにも食べさせてあげたいなぁ。…しかし、いかんせん苦しい。なんかグルグル言ってる気がする…。
お腹を押さえて苦しんでいると、カタラナさんが瓶入りの胃薬をくれた。ダースで。
あれ?馬鹿にされてる?
私がジッ…と素知らぬ顔でそっぽを向くカタラナさんを見つめていると、地図を見ながらほむほむ言っていたカリオくんが顔を上げてこちらを向いた。可愛いね。
「えと…食べ歩きは一旦終了で次は冒険者ギルドに行くみたいです!」
「ほう。冒険者ギルドか。私も少し興味があったのだ」
そう言ってふんす、と鼻を鳴らし興味を示すカタラナさん。
私は胃薬をバリボリ食べながら冒険者ギルドという言葉について考えていた。ちょっぴり甘酸っぱくて美味しい。いくらでもいけそう。
カタラナさんのドン引きしたような視線を受け流しながら、私は物思いに耽る。
冒険者ギルドか〜。エランソが毎日のように話してたからよく覚えてるよ。なんでもダンジョンっていう迷宮に潜ったり、凶暴な魔物を狩るのがお仕事らしい。大変そうだよね。そして、エランソはそんな冒険者の中でも一番偉い特級冒険者っていうのに憧れてたみたい。何が違うのかな?よくわかんないや。
「でも冒険者ギルドって一般人が行っても大丈夫なの?」
「はい!依頼を出す為にギルドに行くこともありますから!」
「ふーん、でも見物目的ってどうなのかな?」
「うーん、と、ど、どうなんでしょう?」
流石にわからないか。あ、そんなに申し訳なさそうな顔しないで。当たって砕けろの精神で行こうぜ!
今、私たちがいるのは王都の中心から少し東寄り。これから人で賑わう王都の中心街を突っ切って、南に位置する職人街に冒険者ギルドがあるらしい。
いや〜、それにしても流石は王都の中心街。人混みが凄い。ギチギチだ。
「いや〜、それにしても中心街は一際賑わってるねぇ」
「え、ええ。そうですね。…でも、なんだかおかしいです…。いつもより人だかりが出来てるような…?」
「そうなのか?」
カリオくんの言葉に耳を傾ける私たち。確かにギチギチおしくらまんじゅうだけど、そうなの?私は周囲をなんとなく見回す。んん…?なんか違和感が…。なんだろう。
「うわっぷ」
なんだか変な雰囲気にキョロキョロよそ見してたら、急に立ち止まったカタラナさんの背中に顔から突っ込んでしまった。
「いたた…どしたの?」
「なんだ?前方の人だかり全員が立ち止まってるぞ。全く進む気配がない」
そう言われて確認すると、確かに人だかりが出来ている。小さな私には全貌が見えないがどうも奥の方までもずらりと並んでいる様だ。大道芸とかやってるのかな?
「…………」
………?いや無視してたけどなんか隣のおっさんが凄いこっち見てくるな?なんだろ?目の焦点合ってないし。酔っ払い?やべー薬やってる人?
こえー。無視無視!変に声かけたら絡まれそうだしこういう時は無視に限る!
「おい、あれ・あそこ・あっち、見つけたかも・だぜ・かしら・なの」
「あら、そう」
人混みの中、その中心あたりから変な話し方をする男の人の声が聞こえた。いやクセ強いなホント。
かと思えば、幼い女の子の声が雑踏の中から響き渡る。
「ごめんねみんなー!ちょっとみちをあけてくれないかなー!」
ザザザザザ!!!!!
わーお!凄い何これ!
人混みは割れるように大慌ての大移動!声の主が通れるようにぱっかーん!と両端に寄って声の主が通れるように道を作った。親切な人が多いんだね。
そこにいたのは腰に手を当ててふんぞり返った小さな女の子だ。
「『虚像』が言ってたのはお前ね?」
腰まである綺麗な黒髪、背中に真っ白な鳥の羽のような飾りがついた可愛いワンピースを着たその子はピッ!と私を指差して生意気な口調で声をかけてきた。
その目は真っ直ぐ私の方を向いてて、訳のわからない私はポカンと口を開けて惚けてしまう。
その後ろには、先程私を指差した目をギョロギョロと動かす黒ローブの長身の男が立っている。出目金みたいな顔だね。わっ!こっち見た!
そんな大男と幼い少女は真っ直ぐこちらに向かってくる。うわ近っ!ふえぇ、こんな可愛い子に迫られたら私どうしたらいいのぉ?
急接近してくるその子に私もタジタジだ。でもその子は、子どもとは思えない悪意に満ちた笑みを浮かべて、私にしか聞こえない小さな声で囁いてきた。
「本当にあんたが聖女なのぉ?地味でくだらないガキじゃない。ねえ、あんたもそう思わない『群像』?」
「思う・思わないよ・そうかもね」
さっきから何なのこのクセ強おじさん。1人3段活用?いや、全然活用できてないか。
「…あんたと話すと頭がおかしくなりそうだわ。でも、ほんとに聖女なのかしら?馬鹿みたいに呆けた顔して。
確かに、私と目があって何も感じてないみたいだけど…。まあいいわ。連れて行きなさい『群像』」
「そうだね・そうだな・わかったわ」
え、何これ?私はクセ強おじさんになすすべなく小脇に抱えられた。
え?マジで何これ?誘拐?急なシリアスは風邪引くからやめな?
てか、カタラナさんったら何ぼんやり立ってんの!聖騎士でしょ!役目でしょ!…ってカリオくんは?あ、人混みに飲まれてる。可愛いね。…って誰でもいいから助けておくれー!
********♪*****♪♪*♪♪*
〈サイド:カタラナ〉
はっ!?
しまった!私は何故か目の前の少女に気を取られ、みすみすハリナが攫われるのを見逃してしまった。
気づけば、大男とハリナ、そしてカリオの姿も見当たらない。ぐっ!聖女付きの役目につきながら情けない!私は腰の剣をいつでも抜けるようにしながら周囲を見回す。
「まずいな。すぐに探さねば!」
しかし、この少女はどうする?こんな幼い子がたった1人で…。
いや!周囲には沢山の大人がいる。ここは他の者たちにこの子を任せて、私はハリナとカリオを探さなけれ「ねぇお姉さん?あたし、おかーさんをさがしてるの」れれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれれ、そうだな。まずは彼女のお母さんを探してあげないと。…ああ、可哀想に。こんな幼い子が迷子なんだ!一体母親は何をしているんだ!探してあげなければならない。他の何を差し置いても。……そうだ。例え命を失おうと構わない!私の使命などどうでもいい!全身全霊全力を上げて母親を探してあげないとな!!!
…そうだ。もはや、ハリナなんてどうでもいい!今は彼女に尽くして尽くして尽くし尽くさないと!
「よし!共にお母上を探そうじゃないか!」
「いえ、僕が!」
「あ、おい!ずりーぞ!俺が探すんだ!」
「いいえ、私が!」
「てめえ邪魔だ!俺が探すんだよ!」
老若男女が押し合いへし合い、少女に少しでも近づこうとする。ミシミシと骨や肉が軋む音の中、私は人の波を掻き分ける。
邪魔な群衆だな。私こそ彼女に相応しいだろうに。いっそ燃やしてしまおうか?私は有象無象を押し退けながら愛しい彼女に近づく。
そうだ。まずは名前を聞かないと!地に膝をつき、頬を紅潮させながら少女に問いかける。
「まだ、名前を聞いていなかったね。
どうか麗しき君の名前を教えてくれないか…?」
すると、少女はうん、と頷き後ろ手に手を組むと、花のような笑顔で言う。
「あたしは『偶像』のアルトラ・トラッタ!以後よろしくね!さ、あたしの精一杯の時間稼ぎにつきあってね!おねーちゃんたち!」
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