120話 関係
アリシアさんたちとドラゴンを倒しに行って、帰ってきた。
久しぶりの冒険ではあったけれど、なかなかの強敵ではあった。
まあ、ぼくたち3人でならそう苦戦はしない相手だったけど。
ただ、ぼく1人ならちょっと難しかったかもしれない。協力してちょうどいい相手と言うか。
指輪の力も、アクアと離れているとそこまで発揮できないみたいだからね。
とはいえ、ぼくだけでも頑張って倒せない相手ではなかったかな。
それにしても、ドラゴンに挑むなんて昔では考えられなかったな。
ぼくとカタリナとアクアでなんとかキラータイガーを倒せる程度の実力だったんだよね。
そもそも、アクアと契約しなければぼくはもっと弱かった。
アクアはオメガスライムだから、ドラゴンくらい簡単に倒せるかもしれないけれど。
もしかして、ぼくに冒険させるために指輪の力を抑えていたとか?
いざという時にはアクアは絶対守ってくれるけれど、ぼくの楽しみを邪魔しないように気遣ってくれているし。
ミーナとの戦いとか、アクアならもっとぼくを強くすることもできたはずだからね。
なんというか、アクアはぼくの成長も楽しんでくれているというか。
まあ、そのへんの考察は今じゃなくていいか。
せっかくアリシアさんたちと一緒なんだから、2人との時間に集中しよう。
ドラゴン討伐から帰ってきたぼくたちは、アリシアさんたちの前の家に寄っていた。
ぼくたち3人になる時には、だいたいこの家にいる気がするな。
アリシアさんたちにとって愛着のあるだろう家に迎え入れてくれている。その事実が嬉しい。
ぼくはアリシアさんたちをきっと誰よりも尊敬しているけど、アリシアさんたちもぼくを大切にしてくれていると感じる。
「今日は楽しかったね、ユーリ君。ドラゴンを軽く倒せるようになるなんて、昔の私が聞いたら驚くだろうね」
「そうだね、アリシア。ユーリ君の成長が実感できて嬉しいよ。いつの間にか、わたしたちが追いかける方になっちゃったよね」
アリシアさんたちに教わっていた始めの頃、アリシアさんたちのような冒険者になりたいと思っていた。
それが、アリシアさんたち自身にぼくが彼女たちを超えたと言ってもらえるようになった。
嬉しさもあるけれど、アリシアさんたちをずっと追いかけていたかった気もする。
そんなこと、この人達の前では言えないけどね。
「こうしてアリシアさんたちと仲間として冒険できること、最高の気分です。ずっと楽しみにしていたことだったので」
「私達も楽しみにしていたんだよ、ユーリ君。だから、ありがとう。ユーリ君のおかげで、私達は最高の喜びを知ることができた」
「ユーリ君だからこそ、わたしもアリシアも一緒に冒険したいと思えたんだ。ずっと尊敬してくれていてありがとうね、ユーリ君」
アリシアさんたちはどちらもとても嬉しそうで、ぼくはなにか救われたような気分になった。
ぼくはアリシアさんたちに返しきれないほどのものを貰った。そう思っていたけれど。
もしかしたら、アリシアさんたちにも相応のものを返せているのかもしれない。
そう感じるくらいには、今のアリシアさんたちの笑顔は素敵だった。
「どういたしまして。でも、アリシアさんたちを尊敬できたのは、アリシアさんたちが素晴らしい師匠だったからです。だから、お礼を言われるようなことではないですよ」
「そう感じてくれていることが嬉しいんだよ。ユーリ君だって、メルセデスさんたちに尊敬されていることは嬉しいだろう?」
「うんうん。わたしたちが教えたところで、何も学べない相手はいっぱいいた。だから、ユーリ君の尊敬が心地いいんだよ」
メルセデスたちに尊敬されて嬉しいというのは分かる。
なるほど、これに似た感情をアリシアさんたちは感じてくれているのか。それは気分がいいな。
それにしても、アリシアさんたちから何も学べない相手か。どうせ会うことはないだろうけど、腹立たしいな。
こんなに素晴らしい冒険者から教わることが、どれほど喜ばしいことだと思っているのだろうか。
まあ、それがわからないからこそ、アリシアさんたちの教えを活かせなかったのだろうけど。
「アリシアさんたちが喜んでくれるのなら、これからも尊敬し続けますね。まあ、そんなこと関係なく、ずっとぼくの憧れた師匠ですけれど」
「ユーリ君はとてもいい子だね。でも、無理に尊敬しようとしないように。それは、きっと疲れるだけだから」
「そうだね、アリシア。ユーリ君に見限られたのなら、とっても悲しいだろうけど。でも、それは仕方のないことだから。強制できることではないから」
ぼくとしてはアリシアさんたちの物言いには不満があるけれど。
この人達ならば、ずっと尊敬できる相手だと信じている。それを否定されたような気分が少しある。
でも、理屈はわかるんだよね。人は変化する生き物だし、感情も当然変わる。
それを無理に押し留めようとしても、歪な感情が出来上がるだけだろう。
だから、アリシアさんたちの忠告は正しいんだよね。ただ、心で納得できないだけで。
「ぼくの方こそ、アリシアさんたちに見限られないようにされないといけませんね」
「それはないと思うけど。私がユーリ君を嫌うぐらいの行動は、ユーリ君の嫌いなものばかりだから」
「それは分かる気がするな~。ユーリ君、人と対立しようとするの苦手だからね」
そういうものだろうか。普通にこいつなら殺してもいいって感じた相手はまあまあいるけれど。
一番強くそう感じたのは父親だったな。あいつだけは、反省したところで許しはしないだろう。
まあ、もう死んでいるんだけれど。今思い出しても不愉快な相手だったな。
「自分ではよくわからないですね。でも、アリシアさんたちから嫌われる可能性が少なそうなのは嬉しいです」
「ユーリ君が私達を嫌いになる可能性も少ないだろうけどね。たとえば、ほら、お手!」
アリシアさんはそんな事を言いながら手を出してくるので、ぼくはそれに合わせて手を出し返した。
そのままアリシアさんの手の平の上にぼくの手を乗せると、アリシアさんはいたずらっぽい表情をしていた。
なんというか、こういう表情もする人なんだな。意外な一面かもしれない。
「こんなこと、相手によっては嫌われてもおかしくないんだけどね。ユーリ君はイヤイヤやっている風でもないからね。私達の関係が破綻する可能性は、相当小さいものだよ」
まあ、たしかにお手とか言われたら、バカにされていると考えてもおかしくはないか。
でも、アリシアさんがぼくをバカにするイメージはできないし、問題ない。
新しい一面を見られた感じで、むしろ嬉しいくらいだ。
「ユーリ君は相変わらず素直で可愛いなあ。よしよし、いい子だぞ~」
そのままレティさんに頭を撫で回される。
なんというか、レティさんのふんわりした感触、暖かさ、優しい表情。
すべてがぼくを落ち着かせてくれて、いっそこのまま眠ってしまいたいくらいだ。
「随分落ち着いているよね。癒されるな~。でも、ユーリ君はわたしがかぎ爪を突き立てたりするとは思わないの?」
他のモンスターなら、そもそもそんな距離に近づこうとは思わない。
レティさんが相手だから、素直に体を預けられるんだ。
それを思えば、レティさんがぼくを傷つけようとするなんて、考えられないな。
「そんな事、考えたこともありませんでした。でも、レティさんはそんな事をしないって信じてますから」
「そうだよね。ユーリ君ならそう返すよね。あーほんと可愛いなあ。食べちゃいたいくらいかも」
「食べられたら、レティさんと会えなくなってしまうので、それは嫌ですね……」
「心配する所そこなの? でも、嬉しいよ~。ユーリ君には楽しませてもらってばかりだね」
レティさんはそんな事を言うけれど、ぼくだって楽しませてもらっているから。
それに、レティさんに貰った恩を考えれば、楽しくなかったところで何の問題もない。
でも、レティさんが楽しんでくれているのならば、恩返しにもなっているのかな。そうだと嬉しいけれど。
「レティさんに楽しんでもらえているのなら、嬉しいです」
「じゃあ、私も楽しませてもらっていいかな、ユーリ君?」
アリシアさんはそんな事を言う。一体何をするつもりなのだろうか。
まあ、アリシアさんが楽しいのなら、大抵のことは受け入れるつもりではあるけれど。
「どうぞ。ぼくは何をすれば良いんですか?」
「まずは肩でも揉んでもらおうかな。弟子なんだし、いいよね?」
たしかに弟子の仕事ってイメージがある。
そういえば、アリシアさんたちには弟子として使いっぱしりみたいなことをされなかった。
アリシアさんたちを尊敬していた理由の1つだったりしてね。
まあ、多少便利に使われたくらいで、どうとも思うことはないか。
それこそ、奴隷のような扱いなら反発を覚えるかもしれないけれど。
アリシアさんたちがそんな事をするイメージは浮かんでこないな。
それはさておき、アリシアさんの肩をゆっくりと揉んでいく。
ユーリヤにマッサージした経験もあって、ある程度どうすれば良いのかは分かる。
それに合わせて、アリシアさんの反応を見ながら動きを調整していった。
「うん。気持ちいいよ、ユーリ君。そんなにうまいのなら、他の所も揉んでもらおうかな」
そう言ってアリシアさんはうつ伏せになっていく。
とりあえず、背中から揉み進めていく。アリシアさんの体はしなやかで、やはり素早い動きができる人なんだって感じた。
次に、手にマッサージをしていく。アリシアさんの体がほぐれるように、真剣におこなっていった。
「太ももとか、お尻とかもお願い」
そのままアリシアさんの太ももを揉んでいく。ちょっとドキドキするけど、アリシアさんの体に不具合が出ないように、ちゃんと進める。
そして、お尻にまで手を進めた。そういえば、以前アリシアさんのお尻に触れた事件があった。
それを思い出してしまって手が止まったけれど、無心になって続けていった。
アリシアさんの全身をほぐし終えると、アリシアさんは立ち上がって体の調子を確認していく。
以前よりもっと動きが洗練されているかもしれない。ちょっと体術を見ていただけだけど、そう感じた。
「なかなか良かったよ。またお願いしようかな? それとも、私もお返ししてあげたほうが良いかな?」
「いえ、弟子の役目ですから。それに、アリシアさんが喜んでくれるのなら、それで十分です」
「ふふっ、私達は良い弟子を持ったものだ。見限られてもいいって言ったかもしれないけど、あれは嘘だ。そんな事になったら、私は私を許せないよ」
「そうかもね、アリシア。でも、ユーリ君なら大丈夫だよ。だから、これからもずっと一緒にいようね」
ぼくの方からお願いしたいことを言われて、何度もうなずいた。
本当に、この人達との出会いこそが、冒険者としてのぼくのほとんどなんだろう。
だから、ずっと尊敬し続けるに決まっている。アリシアさんの心配なんて、吹き飛ばしてみせるから。
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