109話 望み
今日はサーシャさんに招かれてエルフィール家の屋敷へと来ている。
個人的にプロジェクトU:Reに関するねぎらいをしたいという話だけど、あのパーティで十分だったんだけどな。
でも、断るのも悪い気がしてしまったので、誘いを受けることにした。
もうこの屋敷に来るのにも慣れたものだな。ぼくだけが誘われることのほうが多かったかもしれない。
最初は確かカタリナとアクアも一緒だったんだよね。それで、行方不明者が出ているって話をした。
その事件でユーリヤと出会うことになったんだよね。懐かしいな。
それで、一体どんなおもてなしをしてもらえるのだろう。サーシャさんはぼくのことを知ってくれているし、あまり派手ではないだろうけど。
それにしても、サーシャさんと出会ってからもずいぶん経ったよね。
あのころはオーバースカイがここまで大きくなるなんて想像していなかった。
サーシャさんに受けた依頼のおかげで出会えた人はいっぱいいるので、とても感謝している。
「ユーリ様、よくぞいらっしゃいましたわ。ささやかですが、ユーリ様の好物も用意しておりますので、後で食べていただきたく思いますわ。ユーリ様が楽しめるよう、尽力させていただきますわ」
ぼくの好物となると、魚料理かな。まあ、そこは何でも良いか。
サーシャさんはぼくの好みに詳しいので、今回のもてなしには結構期待してしまっている。
とはいえ、あまりお金をかけていないといいけれど。サーシャさんに負担をかけたいわけではないからね。
ぼくから今回の料金を支払うというのも多分失礼な話だし、悩ましいところだ。
「ありがとうございます。目一杯楽しんでいきますね」
「ええ。そうしていただければ、わたくしも嬉しいですわね」
サーシャさんには何から何までお世話になっているけれど、ぼくはそれにふさわしい利益をあげられているのだろうか。
ぼくが立派な冒険者になればサーシャさんの役に立つとは言われていたけど、どうだろう。
オーバースカイは十分に活躍しているとは思うけれど、それ以外にもなにか必要なのでは?
よく分からないけれど、例えばサーシャさんについて行って人に会うとか、そういうことが。
サーシャさんに頼まれれば大抵のことを引き受けるつもりでは居るのだけれど。
「サーシャさんが用意したのなら、安心して楽しめますからね」
「そこまで信頼していただけますのね……嬉しいですわ。これまでの苦労が報われたようですわ」
やはりサーシャさんも苦労しているのか。ぼくにはよく分からないとはいえ、当然か。
そこら辺をぼくが支えるというのは難しいだろうし、どういう形でならサーシャさんに貢献できるだろうか。
ぼくにできることは戦いくらいのものなので、サーシャさんの依頼はしっかり受けようと思うけれど。
「ぼくが力になれることは限られていますけれど、できるだけ頼ってくださいね。サーシャさんのお役に立てると嬉しいです」
「そんな事を気にされずとも、十分わたくしの支えになっていただいていますわ。ですが、ありがとうございます」
まあ、プロジェクトU:Reの事件を解決したり、強いモンスターを何体も倒したり、役に立っていないわけではないだろう。
それでも、ぼくにできることでサーシャさんの負担を軽減できるのならと思ってしまう。
サーシャさんは優しいから、きっとぼくが無理をすることは望まないだろうけれど。
でも、ぼくだってサーシャさんに同じ気持ちを抱いているのだ。
まあ、サーシャさんが本当に無理をしているのかなんてわからないんだけどね。
「それなら良かったです。サーシャさんには本当にお世話になっていますからね。感謝しています」
「それもこれも、ユーリ様が素晴らしい冒険者だからですわ。ですから、支え甲斐があるのです」
今更ぼくが優れた冒険者であることは否定しない。アクアのおかげがほとんどだと思うけどね。
だけど、それだけで終わらせられないほどにサーシャさんにはサポートしてもらったと思う。
だから、サーシャさんに喜んでもらえるお礼ができれば良い。
まあ、何をすればサーシャさんが喜ぶかなんてわからないんだけど。
サーシャさんがはっきり何をしてほしいか言ってくれれば、できる限りのことはするんだけどな。
「それでも、サーシャさんには本当にたくさんのものをもらいましたから。だから、サーシャさんが喜んでくれるなら、大抵のことはしますよ」
「でしたら、わたくしの夫になっていただけますか? ……冗談ですわ。ユーリ様に貴族としての生活は似合いませんもの。ですが、わたくしと結ばれたいならば、歓迎いたしますわよ」
サーシャさんの言葉はどこまで本気なのだろう。
笑顔のサーシャさんからは、うまく感情が読み取れない。やはり、サーシャさんも貴族だということなのだろう。
というか、サーシャさんと結ばれるとして、サーシャさんはどうなるのだろう。
ぼくがうまく貴族としてやっていけるだなんて、サーシャさんは考えていないだろう。
それで、どうやってぼくとサーシャさんが結ばれたあとのことを処理するのだろう。
となると、流石に冗談かな。まあ、本気だとしても今受けるのは難しいけれど。
「あはは……サーシャさんは魅力的ですけど、さすがに身分が違いすぎますよ」
「そうですか。残念ですわね……気が変わったら、いつでも言ってくださって構いませんわよ」
サーシャさんは満面の笑みだ。ほんと、どこまで本気なのやら。
まあ、完全に本気なら、もっと別の言い方をするだろうし。からかいが混ざっているのだろう。
とはいえ、サーシャさんと結ばれたとしたら、それはとても幸せなのだろうな。
それでも、今はそういうつもりにはなれない。カタリナのこともあるのに、不誠実だろう。
「では、気が変わったら、そうしますね」
「ええ。ところで、そろそろ昼食にちょうどいい時間ですから、料理を運ばせますわ」
サーシャさんの言葉通り、すぐに料理が運ばれてきた。
一体どうやって連絡したのだろう。事前に時間を決めていたのかな。
そこら辺を気にしても仕方ないか。目の前のご飯に集中しよう。
昼ごはんとして用意されたのは、魚と野菜を同時に煮込んだ料理と、後は多分グロリアカウのステーキかな。
前にサーシャさんに用意してもらったグロリアカウはスープだったけれど、匂いは似ているから多分グロリアカウでいいはず。
ステーキはびっくりするぐらい柔らかくて、以前のスープを思い出した。
あのときも同じような感想だったはず。でも、ステーキでこの柔らかさか。すごいな。
そして魚と野菜を煮込んだ料理を食べてみたけれど、魚は弾力があって味がよくしみている。
野菜にもしっかり味がついているので、魚に負けていないと感じた。
とても美味しいんだけど、以前カタリナにグロリアカウの希少性について聞いてしまったせいで、値段が気になってしまう。
本当にサーシャさんの迷惑になっていないんだよね? 嫌だよ、食事のためにとんでもない出費をさせるのは。
とはいえ、出されたものを食べないのは論外だからな。それに、値段を聞くのもちょっとおかしな話だ。
ここは素直に料理について褒めておくのが良いのだろうな。
「サーシャさん、とっても美味しいです。わざわざ用意してくださって、ありがとうございます」
「ユーリ様はわたくしの特別なお客様ですから、当然ですわ。それにしても、ユーリ様はずいぶんと可愛らしい顔で食事をなさるのですね」
それって、美味しいのが顔に出ていたということだろうか。まあ、喜んでいるのが伝わる分には良いことなんだけど。
だって、せっかくサーシャさんが用意してくれた料理だからね。
とはいえ、かなり恥ずかしくはある。ぼくがどんな顔をしているのか知りたいけど、質問するのはちょっとね。
「サーシャさんに失礼でなければ良いんですけど。ぼくはマナーに詳しくないので、気づかないうちに変なことをしているかも……」
「そんな心配をなさらなくても構いませんわ。ユーリ様がこちらにしっかりと配慮されているのは伝わっていますわ。ですので、安心してくださいまし」
「それなら良かったです。サーシャさんを不愉快にするのは、かなり嫌ですから」
「それだけわたくしを好意的に思ってくださるのなら、それで十分ですわ」
サーシャさんはぼくと比べてだいぶ大人だと感じるな。10は離れていないように見えるけど、流石に年齢は聞けないし。
ぼくを子供だと思っているから色々と許してくれているという可能性を思い浮かべてしまった。
それは、ちょっと嫌だな。サーシャさんにはできるだけ頼ってもらいたい。
甘えるばかりではなくて、色々と助けになりたいんだ。
「ぼくが失礼を働いているようなら、すぐに言ってくださいね。サーシャさんに嫌われたくないんです」
「ふふっ、可愛らしいですこと。あなたを嫌いになるとするならば、わたくしを攻撃してきたときでしょうか。ですが、ユーリ様がそんな事をするとは思っておりませんわ」
「もちろんですよ。サーシャさんを傷つけるなんて、絶対にごめんです」
「ええ、存じておりますわ。ですから、心配なさらなくてもよいのです。貴方様の心は、しっかり通じておりますわ」
ぼくはわかりやすいといろいろな人に言われているから、本当に通じているのだと思う。
サーシャさんなら、ぼくよりわかりにくい人の心だってある程度分かるだろうし。
だけど、やっぱりしっかりと言葉にしたいな。ぼくがサーシャさんに感謝しているってことは。
今日はすでにちょっとだけ伝えてはいるけれど、まだまだ足りないからね。
「サーシャさんのおかげで、ぼくは冒険者として成長できたんだと思います。それに、サーシャさんに受けた依頼にはたくさんのものをもらいました。ありがとうございます」
「こちらも打算あってのことですから、あまり気にしなくとも構いませんわ。ですが、感謝の言葉はありがたく受け取っておきますわ」
「言葉だけじゃなくて形にもしたいんですけど、サーシャさんの喜ぶものが分からなくて……ぼくとは違う世界に生きていますからね」
「それでしたら、またこのような機会を作っていただければ十分ですわ。ユーリ様と過ごす時間は、あなた様だけでなく、わたくしにとっても大切な時間です。ですから、これからもずっと、よろしくお願いいたしますわ」
本当にサーシャさんと出会えて良かった。サーシャさんが望むのならば、また何度でもここに来よう。
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