裏 アクア
アクアにとって、ユーリといる時間は何より大切なものである。アクアが進化してオメガスライムの体になったとき、アクアがまず考えていたことは、ユーリと一緒に居る時間を増やすための手段だった。
まずご飯を要求したのは、ユーリとの会話のきっかけになることを期待しての事だ。オメガスライムであるアクアにとって、食事など本来は必要ではなかったが、ユーリが嬉しそうに自分がご飯を食べている姿を眺めていることが嬉しくて、ついいっぱい食べてしまっていた。
ユーリとふれあう手段を考える中で、契約の存在に思い至ったアクアは、すぐさまユーリと契約するために、ユーリに契約を持ちかけた。
ユーリの家にある資料によると、契約によって契約モンスターもなにかを得ることが出来て、モンスターはそのために契約を求めるものだとされていた。
アクアはその何かが力であることは知っていたが、それで力を高めるためにユーリと契約したいわけでは無かった。
ユーリともっと仲良くなること、ユーリに自分を頼ってもらうこと、ユーリの格好いい姿をもっと見ること。アクアはそれらを目当てにユーリと契約することにしていた。
本来、契約技というものは、契約するまでどんな能力かはわからないものだ。
だが、アクアは自分の契約技を調整して、狙ったものを発現させることが出来ると確信していた。
ユーリに自分の一部を取り込ませることは決まっていたから、アクアは、アクア水と呼ばれることになる契約技は、ユーリに単なる水に近いと思わせるようなものに決めた。
それで、ユーリがアクア水を飲んだ際、ユーリに自分の事を心地よく感じてもらえるように、ユーリの体を少し調整していた。他にも、ユーリの体をいろいろと変化させた。
ユーリがもっとアクア水を飲んだり、使ったりすることで、ユーリの体はもっと変化していくことになる。アクアは自分の思い付きに、とても満足していた。
ユーリが初めのころアクア水を使うことに苦戦していたのは、アクアの故意によるものもあった。
もともと、契約技を習熟するには時間がかかるものではあるが、アクアは、ユーリが自分のために頑張る姿が見たいこと、ユーリが進化した自分に頼ることを目指して、少しだけアクア水の操作を妨害していた。ユーリがアクア水を使いこなすために頑張る姿に、アクアはとても喜んだ。
それから、アクアはユーリといろいろとふれあっていた。
ユーリが自分に対してそこまで積極的ではないことがアクアにとっては少し不満だったが、だったら自分から近付けばいいと考えた。
ユーリに引っ付いていると、狙った通り、ユーリは自分と接するときに心地よさを感じていた。
これなら、もっとユーリと仲良くなることが出来る。アクアはそう確信していた。
その日にアクアはユーリを誘って一緒に寝ることにした。
夜もユーリと一緒に居られる。アクアはそれだけで、とても嬉しい気持ちになっていたが、ユーリと一緒に寝ることで、ユーリに自分といる時の心地よさを植え付けて、もっと一緒に居られるようになりたい。
そう考えて、ユーリが寝ている間もずっとユーリに触れて、ユーリに心地よさを発生させ続けていた。本当に進化してから良いことばかりだ。まだ進化して1日もたっていないが、アクアの心はすでにそのことに対する喜びで満ち溢れていた。
次の日。アクアはユーリと一緒に学園へと行けないことになり、とても不満を感じた。ユーリとずっと一緒に居たいのに。
そう考えていたが、ユーリの体内のアクア水を通してユーリを感じていられたから、少しだけ不満は和らいだ。
ただ、カインがユーリを痛めつけようとしていることを強く感じたアクアは、カインを始末する手段をずっと考えていた。
アクアが進化する前からずっとユーリのことを傷つけていたカインを、アクアは決して許すつもりはなかった。
だが、それから学園でユーリがアクア水の練習をする中、厄介なモンスターであるキラータイガーがユーリのそばに突然現れたことで、アクアはこのキラータイガーを利用することに決めた。
ユーリはアクアが改造したことによって、キラータイガー程度にどうにかできる存在ではなくなっていたから、アクアに不安はなかった。もし何かありそうなら、アクア水を通してユーリに干渉すればいいだけということもあった。
ただ、カタリナが傷つくことに対する懸念はあった。ユーリと幼馴染なだけあって、カタリナはユーリにとって大切な存在である。ユーリの事をカタリナは何度も助けていたから、それも大きいのだろうが。
なので、ユーリがキラータイガーに向けてアクア水を出現させたとき、上手くキラータイガーにそれを飲ませて、キラータイガーの体をアクア水を通して乗っ取り、キラータイガーを操作することで、カタリナとユーリを見逃すように見せかけた。
その日、キラータイガーを操るアクアは、このキラータイガーを利用してカインを殺すことに決めた。
キラータイガーを水で包み、水を通して水の中を通った光を操り、キラータイガーを視認させないようにして、カインが人から離れた隙を見計らい、カインにキラータイガーを使って攻撃した。
カインは何が起こったかもわからない様子のまま、顔を恐怖と苦痛で歪めて死んでいった。
だが、アクアに満足感はなかった。こんな奴が死んだくらいで許されるわけがない。ユーリを傷つけた罪というのは、その程度で贖えるものではないのだ。アクアは今後ユーリを傷つけたものは、もっと苦しめてから殺そうと決めた。
その日の夜、ユーリにキラータイガーについて相談されたことで、アクアはユーリに自分が操るキラータイガーを殺させようと考えた。そうすれば、きっとユーリは喜ぶだろう。
それに、ユーリはキラータイガーを危険と感じているようだから、きっと自分を連れて行ってくれるし、アクア水の習得も頑張ってくれる。ユーリを自分で埋められると考えたアクアは、絶対にその計画を実行すると決めた。
この日アクアが学園についていけなかったように、服を着ないとユーリが外に連れ出してくれないということに不満があったアクア。
だが、ユーリのペットの証として首輪を服のついでに買ってもらうことを思いついたアクアは、首輪を買ってもらって付けてもらう事だけは喜んでいた。
服を着ていればユーリと触れる部分が少なくなるし、窮屈に感じる。服なんて何がいいのか分からなかったアクアは、それでも首輪を買ってもらえたことだけは良かったと思っていた。ユーリと自分の絆の証だと考え、首輪を着けることを楽しんでいた。
その日またユーリと眠ることが出来たアクアは、もうこの時間を手放すことはできないと考えていた。
夜の間ユーリと離れ離れになるなんてごめんだ。かつてのように過ごすことなど、絶対にしたくない。ユーリとくっついていられる幸せは絶対に譲らない。アクアはそう決めていた。
もしユーリが反対するようなら、何としても説得するつもりだった。その心配は杞憂だったが。
次の日、カインが死んだことに悲しんだユーリを見ていても、アクアは特に何も感じることはなかった。ユーリの事だから、ある程度知っている人ならだれが死んでも悲しむだろう。その程度の考えだったので、どうでもいい人の死に慣れてもらうこともいいかもしれないと思っていた。
アクアにはユーリの周囲の人間をうまく殺す手段が思いつかなかったので、実行はしなかったが。
ユーリがアクアにアクア水の使い方を相談した時、アクアはいくらでもアクア水の使い方を思いついていたが、ユーリにアドバイスすることはしなかった。ユーリはそうしたほうがきっとアクア水についてもっと考えてくれる。
すなわち、自分の事をもっと考えてくれるようになるも同然だ。そう考えたアクアは、ユーリに対して適当な答えを返していた。
ユーリがカインの仇を討つと言い出した時は、ユーリはお人好しが過ぎると考えていたが、それでも、自分に頼らせるためのいい機会だと考えていた。ユーリの目的であるキラータイガーのことをちょうどいい難易度に調整できる敵として使うつもりだった。
アクア水の有用性と、アクア自身の強さ。それらを感じてもらい、もっともっとユーリに頼ってもらうことを目標としていた。
ただ、あまりにもアクア自身が強すぎると、ユーリが自分を恐れかねないという懸念があったため、アクア水の有用性の方を主にアピールするつもりだった。
きっとユーリは自分を嫌わないが、念には念を入れよう。アクアはそう考えていた。
それから、キラータイガー討伐隊だというアリシアとレティがやってきた。アクアはそれによって自身の計画に問題が発生しないか警戒していた。
幸い、彼女たちはアクアにとって都合のいい考えをしてくれていたので、その2人をどうにかするという考えは破棄した。
そして、キラータイガー討伐の本番。ユーリの策は事前にある程度確認していたが、本当にアクア水をよく工夫して使っていた。
それだけ、アクア水の事を考えていたのだろう。アクアはだいぶ満足していたが、せっかくだから、もっと格好いいユーリの姿を見たい。アクアはそう考えて、いろいろと演出しておいた。
ユーリはそのすべてをうまく乗り切り、アクアはユーリの格好いい姿を見られたことにとても満足していた。
これなら、ユーリは冒険者になることを目指すだろう。自分の弱さに諦めるということはきっとない。
だから、自分にも、アクア水にも、頼ってもらえる機会はいっぱいあるし、ユーリの活躍もきっといっぱい見られる。
弱かったころのユーリがダメだったということはないが、せっかくなのだから、いろいろとユーリには活躍してもらいたい。アクアはそう考えていた。
その日、ユーリはとても満足感に満たされた様子だった。ユーリが嬉しそうなことで、アクアは自分まで嬉しい気分になっていた。
ユーリとずっと一緒に居るだけでもいいと考えていたアクアだが、ユーリといるともっとどんどん欲望が浮かんできていた。
もっとユーリに頼ってもらいたい。もっとユーリといろいろな遊びをしたい。もっとユーリの格好いい姿を見たい。アクアはこれからユーリとどうするか、いろいろと考えていた。
アクアはその日の夜もユーリと一緒に眠っていた。大好きなユーリと一緒に居られることの幸せを、アクアは今日も噛みしめていた。
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