13話 救出
カタリナがモンスターのいるところに取り残されたらしい。ぼくは焦りながらも、状況をステラ先生に確認する。
「カタリナが取り残されたって、一体どこに!?」
「いつも訓練で使用している山です。前にキラータイガーも現れた場所に近いところですね」
山の異常はあれで終わってなかったのか。
それにしても、一体なぜカタリナが。いや、そんなことを考えている場合じゃない。
「モンスターが異常発生しているといいましたが、キラータイガーみたいな危険なモンスターはいますか。それに、数はどれくらいですか」
「普段山にいるようなモンスターより強いことは確かですが、キラータイガーほど危険なモンスターはいません。それより厄介なのは数です。とにかく多くて、現場も混乱していたみたいです」
「とにかく多い、ですか。具体的な数はわからないんですか?」
「情報が錯綜していて。ただ、10や20ではないことは確かです」
そんなに多いのか。だとすると、何の準備もなく向かっても、犠牲者を増やすだけにしかならない。今すぐにでも向かいたいけど、装備を整えないと。
「ステラ先生、ぼくは救出に向かう準備をするので、アクアを呼んできてもらえますか」
「危ない……いえ、わかりました。急いで呼んできます。しっかり準備してくださいね」
ステラ先生はそう言って駆け出す。
ぼくも急いで用意しないと。剣と盾に防具、後はアクア水で使えそうなもの、食料も一応あったほうがいいか? 飲み水はアクア水でいいとして、軽い物がいいかな。あまり重くても、探し回る邪魔になりそうだ。取り残されたと言われている場所にいるとは限らないし、あまり重い荷物にならないほうがいいよね。
ぼくが準備を終えたころ、ステラ先生がアクアを連れてきた。ステラ先生は息も絶え絶えといった感じだ。
「ユーリ君、お待たせしました。すぐに向かいますよね? 私は応援することしかできませんが、必ず、カタリナさんと無事に帰ってきてください」
「ありがとうございます、ステラ先生。では、すぐに向かいますね。アクア、状況は分かってる?」
「うん。カタリナが危ない。ユーリ、急ごう」
「ユーリ君、アクアちゃん、お気をつけて。私はここで無事を祈っています。目途が立ったら、応援も送るつもりですから、慌て過ぎないように」
ステラ先生はそう言うけど、応援が間に合うとは限らないからな。焦りは確かに良くないけど、できるだけ素早く行動しないと。
「ありがとうございます、ステラ先生。アクア、行こう」
「わかった。ユーリ、カタリナと仲直りしよう」
「ふふっ、そうだね。そうしようか」
そうしてぼくたちはカタリナの救出へ向かった。
カタリナと仲たがいしたままお別れなんて、絶対に嫌だ。いや、そうでなくても、カタリナはぼくの大切な幼馴染だ。絶対に助けてみせる。
ぼくたちが山に入ると、早速ダブルホーンラビットが10匹くらいで出迎えてきた。2本角の生えたウサギのようなモンスターだ。
授業でよく戦うホーンラビットは無力に等しい存在だったけど、ダブルホーンラビットは対応を間違えればやられかねない。
それが入り口でこの数か。カタリナはもっと多くのモンスターとぶつかっているとみて間違いないだろう。ぼくの心に焦りが生まれる。
「ユーリ、落ち着いて。ここで焦ったら、カタリナにたどり着く前に疲れ切っちゃう」
そうだ。カタリナにたどり着いても、そこでカタリナを襲うモンスターたちを倒しきれないと意味がない。焦りが消えたわけではないけど、少しは落ち着いた。
消耗を防ぎながら探索範囲を広げるとなるとこれかな。ぼくはガラス片をアクア水で包んだものをいくつも用意した。
アクア水は少なめにして、速く動かせるようにしたものにする。
別にカタリナを襲っていないモンスターを倒す必要はない。ガラス片を利用して目をつぶし、こちらに襲い掛かってこられなくするだけでいい。ぼくはそうしてダブルホーンラビットを無力化し、先に進む。
戦闘中でないときは、常に大声でカタリナの名前を呼んでいた。
カタリナが気づいてくれるならそれでいいし、モンスターに気付かれるだけだとしても、カタリナにそのモンスターが襲い掛かる可能性は減る。
ぼくの負担が増えるだけなら、大抵のモンスターからはアクアが守ってくれる。その場で考えたにしては悪くないアイデアだと思えた。
ぼくはそうして、出会うモンスターをいなしながらカタリナを探し続けていた。
だけど、カタリナは見つからない。反応も帰ってこない。ぼくの心に暗い物がよぎる。もしもう手遅れだったら。
いや、まだ探しきれていないだけだ。行き違いになった可能性もある。まだあきらめるな。そう自分を鼓舞した。
「カタリナ、どこにいるんだ……」
だけど、それからしばらくしてもカタリナは見つからなかった。
ぼくの頭にカタリナとの思い出がよみがえる。涙が出そうになるけど、歯を食いしばってこらえる。涙なんて流したら、今よりもっと見つけにくくなるだけだ。そんなの全部終わってからでいい。
絶対に、カタリナともう一度仲直りするんだ。そう思いながら必死にカタリナの名前を叫ぶ。
すると、少し遠くで声が聞こえた。その方向に近寄り、何度もカタリナの名前を呼ぶ。今度ははっきりと声が聞こえた。
「ユーリ!」
カタリナの声だ。まだ間に合う。そう思うとぼくの体に力が沸き上がってきた。
急いで声のほうに向かう。そこにはカタリナの姿が見えた。かなりボロボロだけど、命が危ないようには見えない。少しだけ安心するけど、気を取り直す。まだ、カタリナが助かったわけじゃない。
カタリナはいくつかの種類のモンスターに囲まれていた。弱いモンスターばかりで、その中心にいるのはラピッドウルフだ。少しだけ厄介な、尻尾が黒い狼という見た目をしている、名前の通りに速い狼といった感じのモンスターだ。
だけど、ラピッドウルフはゆっくりとカタリナを取り囲んでいる。弓の傷以外もあるし、ラピッドウルフに向かうモンスターもいる。これは同士討ちでもしていたのだろうか。いや、考えるのは後だ。
「アクア! カタリナを守って!」
「わかった。まかせて」
アクアはモンスターの中をくぐり抜け、カタリナのそばに寄る。アクアがいるなら、ある程度は大丈夫だろう。そう判断したぼくは、まずラピッドウルフを倒すことにする。
カタリナに近い物から順に攻撃しようと決め、ぼくはアクア水で針を高速で移動させる。アクア水があるから針の軌道を変えることもできる。
それを利用して、ラピッドウルフの喉や眉間に針を突き刺す。ラピッドウルフは少し苦しんだ後、倒れていく。ラピッドウルフはこれで大丈夫そうだ。
ぼくはその作業を何度か繰り返しつつ、他のモンスターの様子を見る。
ラピッドウルフが倒れると、ラピッドウルフ以外のモンスターはカタリナの方へ向かおうとしていた。
ぼくはアクア水をモンスターたちの方へぶち撒けて、モンスターたちが水を払っている間に、地面の土をアクア水を通して操り足を絡めとった。
足を止めている間に、剣が届くモンスターから順にとどめを刺していく。
それからしばらくして、カタリナの周りにモンスターがいなくなった。もう大丈夫だ。そう思うと、涙がボロボロとこぼれていく。しばらく泣いていると、その間に近寄ってきたカタリナに抱きしめられる。
「ほら、泣くんじゃないわよ。あたしは無事よ。あんたのおかげでね」
「カタリナ……ぼく、カタリナに何かあったらと思うと、本当に怖くて。良かった。カタリナを助けられて」
「ユーリ……ありがとう、あたしを助けてくれて。あんた、本当に頼りになるようになったのね。また、あたしとパーティを組んでくれるかしら」
カタリナからそう言われる。本当に良かった。カタリナとまたパーティを組めるなんて、願ってもないことだ。
「当たり前だよ。ぼくはあの時からずっとそうしたかったんだ。こちらからもお願いするよ」
「ふふ……そうね。なら、また一緒に組みましょう。あたしたちなら、きっと最高のパーティになれるわよね」
「ぼくもそう思うよ。カタリナ、またこれからもよろしくね」
そう言うとカタリナはぼくを離して微笑む。そうしているカタリナは、これまで見たものの中で、一番きれいなもののように思えた。
「そうだわ。アクアにも礼を言わなくちゃね。ありがとう、アクア」
「別に。気にしなくていい」
「じゃあ、そろそろ帰りましょうか。一応心配かけた人もいるでしょうしね。ま、ユーリほどじゃないでしょうけど」
「あはは……。それにしても、ステラ先生は援軍を送ってくれるって言ってたけど、結局見当たらなかったね」
そう言っていると、教員たちがこちらに向かってきているのが見えた。5人組か。今の山にはさすがに一人では行動できないということだろうか。
それにしても、本当に遅い。もう全部終わったんだけど。内心あきれるけど、さすがにそれを表に出すことはしなかった。一応、危険を承知で行動してくれたわけだし。
そしてぼくたちは教員たちと合流し、学園に戻ることに。
ぼくたちと合流した以外の人員が退路を確保していたらしく、帰りにはそれほどモンスターには出会わなかった。
学園に戻ったぼくたちは軽く診察を受け、カタリナは治療のために別れていった。カタリナに後遺症が残りそうなケガは無かったらしく、一安心といったところ。
それからステラ先生に事の顛末を報告することに。ステラ先生は戻ってきたぼくたちに対して、
「カタリナさんともども、よく無事に戻ってきてくれました。先生は嬉しいです。応援はあまり役に立たなかったようですが、責めないであげてください。必要な戦力計算のための情報がうまく集まらなかったみたいなんです」
と言ってくれた。ステラ先生が喜んでくれているところに悪いとは思うけど、本当に学園の教師は信用ならない。
まあ、ぼくもカタリナも無事だったのだから、責めなくてもいいか。
「まあ、カタリナが無事だったので何でもいいですけど。結局、何が原因だったかはわかったんですか?」
「原因は現在調査中です。原因が判明するか、一定期間以上落ち着くまで、あの山は立ち入りを制限することになりました」
まあ、妥当なところか。似たようなことがまた起こるかもしれないわけだし。
アクアやカタリナ以外が似たような目にあっても、ぼくは助けに行こうとは思わないけど、起こらないに越したことはないよね。
ステラ先生は山に入ることはないだろうし、ぼくが心配するのはそれくらいか。
「ユーリ君、あの指輪、役立ってくれましたか? そうだとすると、贈ってよかったと思えるのですが」
「あの指輪がなかったら使えない手段もあったと思います。カタリナを助けられたのは、先生のおかげでもありますね」
「そうですか。ユーリ君たちのお役に立てたのなら、嬉しい限りです。カタリナさんが元気になったら、アクアちゃんも一緒に出かけませんか?」
ぼくと親しい人みんなで出かけることになるな。でも、カタリナはぼくとステラ先生が仲良くしようとすることに不満があったみたいだから、反対するかもしれない。
「ステラ先生となら喜んで。まあ、カタリナには聞いてみないといけないとは思いますけど」
「では、カタリナさんさえよければ。ふふっ、楽しみですね。では、また」
ステラ先生と別れたぼくは、カタリナを家に送っていったあと、帰宅した。今日は本当に疲れた。早く寝よう。
そうして、ぼくの長い一日は終わったのだった。
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