第10話 監視開始
『写ってる……かな? カメラの角度とか……大丈夫?』
「う、うん。大丈夫。よく見えてるよ」
『そ、そっか。ならよかった。え、えへへ……』
スマホに映し出されてる完全オフモードの欅宮さんは、画面の向こうで苦笑した。
緊張してるのがよくわかるけど、かくいう俺もド緊張状態だ。
土曜の朝八時だってのにわざわざ勉強机にスマホを置き、かしこまった姿勢でそれを見つめてる。
昨日のカフェ内にて放たれた欅宮さんの提案は本気だったのだ。
本当に俺は、通話機能のビデオ通話を利用し、今日一日中自室にいる欅宮さんを監視し続けなければならないらしい。
いったい何のご褒美なのか。
というより、これは一男子高校生として許される行為なのだろうか。
可愛くておっぱいの大きいクラスメイトの女の子の私生活を一日中覗くんだぞ? どう考えたってアウトだろ。R18指定されてもおかしくない事故が確実に起こりますよ、これ。下着の一枚や二枚は確実に見ちゃいますよ、今日これ。
『……それにしても、本当にこんな無茶なお願い聞いてくれるの、宇井くんだけだよ……。絶対他の人にはできない。ありがとう、宇井くん』
「ぜ、全然いいけど……俺、今すごい不安なんだよね……」
『へ? 何が?』
「欅宮さんの部屋とか……余計に覗いちゃいそうでさ。本来なら、仕草とか癖とか、その辺りだけに注視しておけばいいんだけど……」
どうしたって視線は映し出されてる彼女の部屋の四方八方へと向かう。それは止めようにも止められなかった。
好奇心の有無とか、下心の有無とか、そういう問題じゃなかった。ついつい目が行ってしまうのだ。
『……い、いいよ、それは。私……何なら、今度宇井くんを家に誘おうかと思ってたし……あんまり気にしない』
「で、でも、つ、つい見ちゃいけないものを見てしまったりする可能性もあるんだよ!? そ、その、極端に言えば下着……とか、その他もろもろのお恥ずかしグッズ……とか」
『……っ/// ……いい……/// そうなったら……恥ずかしいの我慢する……///』
「が、我慢て……!」
そんなの、こっちが色々我慢できなくなりそうです。反応にもめちゃくちゃ困るし……。
『と、とにかくね、今日はそういうの含めて、色々私の全部を宇井くんに見て欲しいの。それで、む、胸を強調してしまうような癖とか仕草があれば……随時指摘してください。今後の行動の参考にするので』
こういうところはやっぱり真面目だな、と思う。さすがは委員長さん。
自分の反省点を見つけ、次につなげようと頑張る姿勢は見習わなくちゃいけない。……問題はその方法で、少々強引過ぎる気がするところなんだけど。
「う、うん……。わかったよ……。……しかし、不安だ……」
『不安に思わなくてもいいから……! 自然体……! 自然体だよ……! 深呼吸、深呼吸……!』
言って、深呼吸の動きをする欅宮さん。
そんなものでこの不安は拭い切れるはずもないが、彼女を無視するわけにもいかず、俺は効果のない深呼吸に興じ、ドキドキとうるさい心臓と格闘しつつ、また画面へと向かう。
『なら、私も自然に過ごすね。ちゃんと見てて』
「はい……!」
『まずは……お着替えからします』
「――ブッッッ!!!」
吹いた。
シンプルに吹いた。
この子、五秒ほど前に俺に言ったセリフをもう忘れてしまったんだろうか。
「ちょ、ちょっと待って! ふ、不安に思わなくてもいいって言ったよね!? 開始早々、お着替えするの!?」
『え……。だ、だって……思い切りパジャマだし……こんな恰好いつまでも宇井くんに見られるの、恥ずかしい……///』
「も、もっと別の方向性で恥ずかしがって欲しいよ! 当たり前のようにボタンに手を掛けないで! って、あぁ、ちょっ、掛けないでって! 見える! 見えちゃうから! 色々と危ない部分がっっっ!」
死に物狂いで欅宮さんの動く手を止めようとする俺。
というのも、一つわかったのだ。
一番上のボタンは既に外されたのだが、外された途端、欅宮さんのおっぱいにはわかりやすくズンと重力がかかった。
あの感じ……あれはノーブラと見て間違いない。
女の子は寝る時、下着を付けないで寝がちだとは聞いたことがあるが、まさか俺に監視されるであろう日の夜にノーブラで寝るとは……。
策士か……? 策士なのか……? これは俺をドギマギさせるための作戦だっていうのか……!? だとしたら……お、恐ろしい子……!
『むぅぅ……着替えちゃダメ?』
「ダメです。絶対にダメです。お願いですからそのままでいてください」
呼吸を乱しながら言うと、欅宮さんは不服そうにぷくっと頬を膨らませた。
まったくこの人は。
教室の中と俺の前とじゃまるで別人だ。
本当なら、もっと厳格でそういう卑猥なことは言語道断ってタイプなのに。
まあ、そう言ったら俺も俺で「教室じゃ無口なのに、欅宮さんの前だとよくしゃべるんだね」とか言われそうだけど。
要するにお互い様ってわけだ。俺たちは互いに他の人には見せない一面を見せ合ってる。
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