第9話 初夏の怪談、プールにリアルアニメキャラ出現。謎の女子生徒は親友の訳あり妹。 2,144文字

ところで、みなさんは月曜日の朝は得意ですか?


月曜日の朝も、


長期休み明けの次の日、お仕事がある日もとても苦手です。


考えすぎと良く言われます。


現実世界で右足の最初の一歩を出す前に


これから起こることを考えすぎてしまい、


脳も体もヘトヘトに疲れ切ってしまい、


結局家から一歩も出ないで、


焦りと罪悪感だらけで全く無駄に一日が終わってしまうことがあります。


月曜日の朝は子供の頃も大人になっても苦手です。






お話に戻ります




毎日僕は、部活のロッカールームで着替えている時、


妄想に押しつぶされそうなり、


家に帰りたくなる。


プールの水、めちゃめちゃが冷たいだろうな、


とか、今から2時間も水の中で運動なんて絶対無理、


とか。スタートする前に、


ヘトヘトになって死にそうに心臓ばくんばくん言わせてプールの水面に浮かんでいる自分の姿を妄想して、


スタートの合図がなる前にすでに疲れ切っている。




しかし、ある時、


大好きなアニメ、”恒星間軌道ランダ”というあまり流行っていないアニメの


早打ち0.03秒、2丁拳銃の使い手、巨乳の美少女キャラ、


ミランダの手のひらサイズの人形をガチャガチャで手に入れた。




この人形を持っていると


不思議と心が落ちついている自分に気がついた。


それから僕はミランダをずっと鞄に入れている。


誰かに言ったらきっと変態よばわりされるだろう。


だからこれは自分だけの秘密だ。


架空のキャラ、ミランダがいつも隣にいると想像して、


部活にいくと集中できた。


昔、ある有名な凄腕F1ドライバーが、好きなアニメキャラのフィギアをフォーミュラーカーの


コックピットの持ち込んで、レースを戦っていると聞いたことがある。


戦う世界は全然違うけれど、こういうのもありかな、と個人的には思っている。




で、僕は部活に向かった。


その日はとても良いお天気で、


初夏の強い日差しが照りつけて青い空に綿菓子みたいな白い雲が浮かんでいる。


どこからか気の早い蝉のが鳴いている。


仁が部活をサボって美園アズサとの映画に行ったので、


僕は一人でロッカールームに入って学生服の上着のボタンを外していた。






ガタンと音がして、急にドアが開いて、人影が動いた。


小柄でバネのある軽快な身のこなし、


ほっそりと長い手足と、


巨大な胸としまったウエスト。


僕は、彼女を見て驚きのあまり言葉を失った。


ミランダだ!!




落ち着いて見てみると、


肩で息をしながら僕がいるロッカールームにかけ込んできたのは、


ついさっきまで泳いでいたような、


真っ黒のスイムウエアを着た、頭の先から足の先までずぶ濡れの


東南高校水泳部の女子生徒だった。


「着替えなきゃ!やばい、今からタイムトライアルだ!計測の準備しないと!」


女子生徒はそう言った。




冷静に考えたら、


アニメのキャラがここにいるはずがない。


彼女は東南高校の水泳部員で、なんらかの理由で途中でプールから上がり、


着替えるためにロッカールームにきたのだ。



彼女は完全に心ここに在らずの様子で、


その目には学生服のボタンを外している僕の姿はまるきり映っていないように見えた。





おそらく彼女は、西南高校のロッカールームは男子用しかないので、男女が時間差で


入って、男子用であるこのロッカーで着替えたのだろう。




僕が見ている目の前で彼女はシルバーのスイミングギャップを外すと同時に


濡れた栗色の髪が肩のあたりまでぱさりと落ちた。




そのまま、スイムウエアの右肩の部分をずらして脱ごうとしたので、


僕は声をあげた「君、ごめん、僕は外に行くから」


その女子生徒は初めて僕の存在に気がついたみたいだった。


「ああ、ご遠慮なく」


彼女はお構いなしにスイムウエアの左肩の部分も外しかけた。


水滴で光る黒いスイムウエアを身につけた彼女のほっそりとした


肩から腰までの際立って美しい曲線。


まるでアニメから抜け出したかのような見事なボデイライン。


僕は彼女の姿を呆然と見ていた。


「あの?私に何か?」


女子生徒は僕の方を見て不審そうな笑わない目で言った。



「いえ」


女子生徒の声に、にわかに現実に引き戻された僕は慌てて、


上着のボタンが半分外れた中途半端な状態のままロッカーの外に出た。




僕の心臓はB P Mで言えばテンポ160くらいにも思えるくらい早く鼓動を打って


いる。


「リアルミランダだ、リアルミランダだ、リアルミランダだ」


彼女が着替えるのを待つ間、僕は一人でつぶやいた。


体から汗が吹きして制服がベタベタになっていく。


プールでは相変わらず水の音がしていて東南高校の部員が水飛沫をあげて


25メートルプールを行ったり来たり泳いでいる。


僕は、部室のコンクリート製の壁にもたれて地べたにしゃがみ込んで、


ひたすら、“リアルミランダだ”と繰り返してつぶやいた。





しばらくして、さっきの女子生徒が赤い東南高校のジャージを着て髪を後ろで束ね、


ノートとペンを持ち、首からストップウオッチをぶら下げた姿でロッカーから出てきた。


「ロッカーかしてくれてありがとうございます。


私、東南高校3年の西邑扉萌子(にしむらともこ)です。


マネージャーやらしていただいてます」


と深々と頭を下げた。


「あ、西南高校キャプテンの澄田航二っす」


僕は緊張のあまり、彼女の目を見ることができない。


「知ってますよ、コージさん、あなたのことは。兄、佐藤仁からよく聞いています」


西邑さんはそういうと、


プールの方に歩いて行った。


「え?仁の妹??」


僕は混乱のあまり身体中のすべて機能がフリーズしてしまった。






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