蝉と水着と8ミリカメラ、黒髪の幼なじみ。夏休みの最後の思い出は太陽とプールと消毒液の匂い。
第3話 5月のある晴れた祝日に、男ばかり10人の水泳部は極寒の屋外プールで2022年初めての水泳の練習をした。
第3話 5月のある晴れた祝日に、男ばかり10人の水泳部は極寒の屋外プールで2022年初めての水泳の練習をした。
2022年の5月3日火曜日祝日
高校3年が始まったばかりの5月の第1週め。
屋根のある室内温水プールの設備の無い、
僕たちの学校、西南高校の全水泳部員10名は、
屋外プールで震えながらストレッチ運動をしていた。
屋外プールのいいとこは、空が見えるところだけれど、
冬の間は、寒くて屋外のプールは放置されている。
放置されているうちに、水は緑色に代わり、藻や泥だらけになり、
近くに溜池があるので、カエルや、みずすましが生息して、
時には近所の人が釣ってきた鮒を離したりして、
ほとんどと隣の溜池と同じ状態になっているプールを
4月の後半に何日もかけて、水をい抜いて、コンクリートに壁を、
ブラシでゴシゴシ磨いて
またまた、何日もかけて、きれいな水を入れて、
5月の連休から、やっと人間が泳げる、プールになる。
5月の最初の祝日は、水泳部員にとって、
練習初めであり、プール開きでもあった。
5月3日の室温はかなりひくい。
昼ごろになり室温は、やっと27度前まで上がったけれど、
水温はまだまだ低いままだった。
「水温は18度です」
今年入部したばかりの一年生が、水温計を読み上げる。
「よし、水温18度まできた。おまえらに練習メニューをいい渡す」
水温を聞いた顧問の佐伯先生は、直立不動で整列する僕たちにメモ用紙を渡した。
「先生といえども、僕たちを“おまえら”よばわりって、あんまりいい気分しないよねぇ」
長髪で、細身の佐藤仁が言った。
「そうかな?僕は別に違和感ないけど」
「コージくんは優しいね、君のそういうとこ好きだな」
仁はさらっと言った。
佐伯先生は、とても怖い顔つきをした30がらみの男性教諭で、
授業では世界史を教えている。
その風貌から、元ヤクザだったとか、今でもたまに暴走族と一緒に暴走しているとか
まともとは思えない噂がたくさん流れる先生で、
そのせいか、職員室でも他の先生と親しく話している姿はあまり見ない。
だが、僕たち泳部員だけは知っている。
佐伯先生は、職員室や教室では仏頂面でわらったところを見たことがないけれど
男ばかりの水泳部員と接している時だけは、
笑顔を見せるし、時には冗談を言うこともある。
怒ったら怖いけど、部員が不調の時はちゃんと心配してくれる。
きっと職員室で、先生は、陸に挙げられた魚とか、
お皿が干からびたかっぱみたいなものなんだろう。
10人の部員にとっても、先生にとっても
ここのプールが気持ちが落ち着く、居場所何だと思う。
だから、水泳部員は平然と厳しい練習メニューを渡されても文句を言わない。
先生は水泳部員10人を、一人一人きちんと見てくれていると知っているから。
佐伯先生は、厳しい練習メニューを渡しながら、
俺たちと一緒にその練習をすべて一緒泳ぐ。
ここでは、
佐伯先生は先生というより、仲間みたいなもんだ。
だから先生の言うことは信じられる。
佐伯先生を含めた男ばかり11名の水泳部員は、
ストレッチの後、
トレーニングウエアを脱いで、足からゆっくりプールに入った。
「コージくん、お水、とっても冷たいね、」
仁は、そう言いながら、
ゆっくりと胸まで水につかった。
僕も、黙って水に浸かった。
本当は叫びたいほど寒かったんだけどね。
6月26日に県の水泳大会が控えていて、
それが僕たちの引退の大会になる。
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