番外編 幼馴染(26)と制服デート!?

 目の前の幼馴染・真帆乃(26)の姿に、信一は驚愕した。

 なぜなら――真帆乃はブレザーのジャケットに、ミニスカート。


 どう見ても、それは女子高生時代に真帆乃が着ていた制服……によく似た服だった。

 真帆乃は恥ずかしそうに目を泳がせる。


 日曜日の昼。二人は今、恵比寿ガーデンプレイスのおしゃれな待ち合わせスポットにいた。

 これからデートに行こうということで、待ち合わせたのだけど。


「ま、真帆乃? その格好は……」


「し、信一のために特別に着てあげたんだから、感謝してよね」


「え?」


「わ、私だって恥ずかしいの」


 信一の視線を受けて、真帆乃は羞恥に耐えるように、ぎゅっと胸のあたりを腕で抱いて身体を隠す。

 真帆乃は26歳だけれど、制服を着れば、まだまだ女子高生と言っても通る気がする。童顔だし、年齢より若く見える。


 高校生風に、化粧もわりと薄めにしているのも原因かもしれない。

 じっと見ていると、真帆乃が頬を膨らませた。


「あ、あまり見ないでよ……」


「あ、ごめん」


「で、でも、信一が見つめてくれるのは嬉しいかも……」


 矛盾したことを真帆乃は言う。

 真帆乃も自分で言っていて気づいたのか、照れ隠しのように信一を睨む。


「それより、信一がどうしても制服デートしたいって言うから、着てきたのに……! どうして信一は普通の服なわけ!?」


「へ!? 俺はそんなこと言ってないよ」


「嘘。だって、梨香子が……信一からの伝言だって言ってたもの」


 梨香子は真帆乃の妹だけど、信一は一言もそんなこと言っていない。スマホを見ると、梨香子からメッセージが来ていた。ちなみに連絡先は再会してすぐ交換した。


「ごめん、お姉ちゃんをちょっとからかっちゃって……本気にしちゃったみたいで」


 どうやら梨香子が冗談を言った、ということらしい。

 事実が確認できて、真帆乃は憮然とした表情になった。


「そ、そんな……! じゃあ、私は……勝手に女子高生のコスプレしてデートに来た、すごく痛い女になってるわけ!?」

 

 真帆乃が愕然とした表情をする。楽しみにしていたデートなのに、思わぬアクシデントだ。

 穴があったら入りたい、というように、真帆乃は恥ずかしさのあまり、沈んでいく。信一は真帆乃を慌ててフォローした。


「い、痛いなんて思ってないよ。その……可愛いと思うし」


「う、嘘つき」


「いや、実際、すごく似合ってるよ。久々に真帆乃の制服姿が見られて、高校生のとき戻ったみたいで嬉しいし」


「そ、そう?」


「そうそう」


 力強くうなずく。実際、女子高生姿の真帆乃が可愛いと思ったのも、信一の本心だった。

 真帆乃はみるみる顔を赤くする。そして、はにかんだような笑みを浮かべた。


「そ、そっか……信一は、女子高生姿の私といられて、嬉しいんだ?」


「もちろん。すごく嬉しいよ」


「ふうん。私が痛い女なら、信一は女子高生姿に興奮する変態ね?」


「こ、興奮しているなんて言ってないよ?」


「してないの?」


「まあ、ちょっとはドキッとしたというか……」


「ほら、やっぱり!」

 

 真帆乃が謎に勝ち誇ったような笑みを浮かべる。

 信一は肩をすくめた。


「でも、それは相手が真帆乃だからだよ」


「へ?」


「俺にとって真帆乃が特別な存在で……幼馴染で昔を思い出すから、制服姿だとドキドキするんだと思う」


「……信一はずるい。そう言われたら、私は何も言い返せないわ。でも……ありがと」


 真帆乃はふふっと笑い、そして、信一の腕を取った。

 ブレザーの上着が信一の身体に触れ、そして、真帆乃は信一を上目遣いに見る。


「じゃあ、行きましょう?」


「そうだね」


 そして、二人は歩き出した。真帆乃と喧嘩して高校を卒業した後、制服を着た真帆乃とこんなふうにデートできるなんて思いもしなかった。


 だから、この時間は、信一にとって、夢のように大切なものだった。


 ……女子高生とデートをしている大人に見られて、周囲の目が厳しかったのは少し困ってしまったけど。


 真帆乃は信一と腕を組み、ふふっと笑った。


「あっ、信一ってば、恥ずかしがってる!」


「真帆乃は恥ずかしくないの?」


「平気。慣れちゃった。でも、スカート丈、ちょっと短すぎたかも……」


 信一はちらりと真帆乃のスカートを見た。赤のチェックの入った紺色のスカートからは、すらりとした細くて白い脚が伸びている。


 信一の視線に、真帆乃がくすりと笑う。


「今、私のことをエッチな目で見たでしょ?」


「見てないよ」


「嘘つき。信一なら、いくらでも見るのを許してあげるのに」


 真帆乃はそう言って、スカートの裾をわざとらしく少し引っ張った。

 最初はあまり見ないでほしいと言っていたのに、矛盾していると思ったけれど、信一が言う前に、真帆乃が人差し指で信一の唇を塞いだ。


 そして、いたずらっぽく片目をつぶる。


「今度は信一にも学生服を着てもらおうっと」


「え。それは……恥ずかしいから、ちょっと……」


「だって、私も信一の制服姿、見たいんだもん!」


 真帆乃はそう言ってくすくすと笑った。







<あとがき>


ノリノリで書いた番外編でした……! 第二部も構想中です……!

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