第18話 一緒にお風呂!

 信一と真帆乃は互いに着替えてから風呂場へと足を運ぶことにした。考えてみればシュールな状況ではあるけれど、二人とも望んだことだ。


 狭い浴室の扉を開けると、真帆乃の水着姿が目に入ってくる。白いセパレートタイプの水着で、水着のなかでは上品なデザインとはいえ、やっぱり露出度は高い。


 スタイルを見せつけるように、真帆乃は少し前かがみになり、正面から信一を上目遣いに見る。


「信一も水着姿だ」


「裸になるわけにはいかないからね……」


 信一も買った黒の海水パンツをはいている。とはいえ女性の真帆乃と違って、信一の場合は、上半身裸だ。


 真帆乃がじーっと信一の胸板のあたりを見つめるので、恥ずかしくなる。


「ど、どうしたの?」


「いえ……た、たくましくなったなって思ったの。それだけだから!」


 真帆乃は慌ててぶんぶんと首を横に振る。


 互いに照れくさくなって、信一と真帆乃は目をそらす。


「えっとまず私からシャワーを浴びるから」


 真帆乃が慌てた様子でシャワーの蛇口をひねる。ところが最初は温まっていないから冷水が出てくるのに、動揺した真帆乃は気づいていなかったらしい。


「きゃああっ」


 真帆乃が悲鳴をあげ、慌ててシャワーを止める。


「やっちゃった……」


 なんて真帆乃が子供っぽくつぶやく。

 水に濡れた真帆乃は、艶っぽくて信一は背後から抱きしめたい衝動に駆られた。


 でも、そんなことをするわけにはいかない。温水の出るシャワーで身体を流すと、信一も同じようにした。


「えっと、この後どうする?」


「私が先に身体を洗うから、信一は湯船につかってて」


「なるほどね」


「……胸を洗うときとか、水着を外すから……私の方を向いたら駄目だから」


「そんなことしないよ」


「ふうん。私の水着姿に興味あるってくせに」


「裸に興味があるとは言ってないよ」


「興味ないの?」


「健全な成人男性並みにはあるけどね」


「いやらしい答え方」


 真帆乃はくすっと笑う。


(こんな挑発するようなことを言って、襲われたらどうするつもりなのかな……)


 水着姿で狭い浴室に男と二人きり。信一が手を伸ばせば、真帆乃を好き放題に出来てしまう。

 エリートの美女の身体は、無防備に信一の前にさらされていた。

 

 真帆乃がそんな信一の内心を見透かすように、胸を両手で隠す。


「それとも、信一が胸を洗ってくれる?」


「俺がそのつもりになったらどうするのさ?」


「別に……信一ならいい。昔もやってもらったし」


「そ、そんなことあったっけ?」


「小学生のときに洗いっこしていたでしょ? 覚えていない?」


「胸を洗った記憶は……ない気がする」


「わ、私はあんなに覚えているのに!」


 真帆乃がショックを受けた顔をする。

 でも、信一はどうしても思い出せなかった。


「そのとき俺ってどうしていたの?」


「教えてあげない。信一の変態!」


 真帆乃はツンとわざとらしく上を向いてしまう。

 信一は苦笑して、言われたとおり湯船につかることにした。


 個人のマンションの湯船としてはそれなりに広い方でくつろげる。

 

(入浴剤とかあるのかな……)


 真帆乃に聞こうと思ったとき、予想外のことが起きた。

 続けて、真帆乃が湯船に入ってきたのだ。


「ま、真帆乃!?」


「……最初からこうするつもりだったの」


 信一の膝の上に座るように、真帆乃は腰を下ろした。

 広めとはいえ、湯船のなかだからもちろん密着する。


「こ、これはまずいよ……」


「水着で浴室にいる時点で、今更でしょ」


 真帆乃は意外にも落ち着いた声だったが、手足はぷるぷると震え、その首筋は朱色に染まっていた。

 信一が手の置き場に困っていると、真帆乃が「お腹のあたり、ぎゅっとして」とささやく。


 やむなく信一は言われたとおり、真帆乃のお腹のあたりに腕を回す。

 背後から抱きしめる形だ。


 さっきのソファでも正面から抱きついていたとはいえ、今のほうが密着度も露出度も高い。

 真帆乃の甘い香りと白い肌に、信一の理性は崩壊しそうだった。

 でも、真帆乃は意外とリラックスしているようだった。


「抱きしめられると、男の人に、信一に守られているって気がする」


 幸せそうに真帆乃がつぶやいた。信一は少し意外に思う。


「……真帆乃は男に守ってもらうっていう考え方を嫌いかと思っていたよ」


「そうでもないわ。警察は男社会で、私はキャリア官僚で、誰も私を守ってくれない。自分の力で立たないといけない」


「でも、今は違う?」


「信一が、幼馴染がいるから安心できるの」


「そっか」


「あのね、勘違いしないで。私は自分で望んで警察に入ったの。だから、普段はもちろん強くありたいって思っている。でも……たまには……こういうふうに甘えられる人がいるのもいいかなって」


 真帆乃はそんなふうに言い、信一にその体重を預ける。


(真帆乃の信頼に応えられるだろうか?)


 今だけではなくて、もし真帆乃と同居するとしたら、この先も、信一は真帆乃にとって頼れる幼馴染でありたい。


 そう願った。いつしかドキドキした心は収まり、目の前の幼馴染を愛しいという思いが強くなる。


「ねえ、信一。今夜も泊まっていくよね?」


 真帆乃が優しい声で、信一に甘える。

 そんな真帆乃の提案を、信一は断れるはずもなく、真帆乃の身体をぎゅっと抱き寄せた。

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