第4話 強くなったのよ?

 ゲームに負けたら、真帆乃は何でも言うことを聞く、という。

 しかし……。


「いや、なんでも言うことを聞くって……本当に何でも?」


「そうそう。ほら、『いま何でもするって言ったよね?』っていうネタあるじゃない。あれ」


「元ネタわかっていってる?」


 信一が言うと、真帆乃はちょっと顔を赤らめた。


(もともとは18禁ビデオのネタだし、だいたい、このセリフが使われるのは性的な要求をするときなわけで……)


 真帆乃が思い浮かべたのも、そういうことだっただろう。真帆乃は動揺していたけれど、すぐににやりと悪い笑みを浮かべた。


「なに? 信一は私とエッチなことをするのを想像したんだ?」


「してないよ」


「信一が勝ったら、そういうこと、私にさせる?」


「賭けに乗るとは決めていない」


「あ、負けるのが怖いんだ」


「怖くなんてないさ。負けて当然だから」


 信一はいつでも、どんな面でも真帆乃に負けていた。成績も容姿も社交性も人間的魅力も……。


 だから、たかがゲームで負けるのを嫌がったり恥ずかしがる理由もない。

 けれど、真帆乃は首をかしげる。


「でも、高校生のときは信一の方がスマブラは強かったよね?」


「まあ、そうだけど。でも、それなら、俺に負けそうな勝負で真帆乃は賭けるの? 真帆乃らしくないな」


「私らしくない?」


「真帆乃なら、勝負は確実に勝てるように準備してから挑むだろうから」


 真帆乃は常に完璧だった。大事な勝負に臨むときは必ず勝てる準備をしていた。

 受験も、きっと就職もそうだろう。


(まあ、ゲームぐらいは違うだろうけど)


 とはいえ、今しようとしているのは、負けたほうが相手の言うことを何でも聞く、という賭けだ。


 そんな賭けに勝算無く挑むのが、真帆乃らしくない。


 真帆乃はくすっと笑った。


「私だってこのゲームやり込んでいるもの。かなり強くなったのよ?」


「忙しいのに、すごいね」


「そうでしょう?」


 ふふっと真帆乃が笑う。自然体の笑みに信一は一瞬見とれた。そして、聞かないといけないことに気づいた。


「勝ったら、真帆乃は何を要求するの?」


「もちろん、信一に私とルームシェアしてもらうの」


 いたずらっぽく真帆乃は目を輝かせた。信一の予想通りだった。

 今の真帆乃なら、それを賭けの対象に選ぶだろう。


「それに、信一になら負けてもいいもの」


「へ?」


「信一は勝ったら、私に何する?」


 上目遣いに真帆乃が尋ねる。信一は言葉に詰まった。

 

(俺が真帆乃に望むこと……?)


 変なことをするつもりは、もちろんない。今でも、真帆乃は信一の大事な幼なじみだった。


 けれど、だからといって、してほしいことなんて思いつかない。


「まあ、勝ってから考えてくれてもいいけどね」


 真帆乃は優しく微笑み、そして、コントローラーを手に握った。


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