第93話 ダイエットします! その四

 浅草寺の境内。毎年行われる相撲イベント『浅草場所』。その盛り上がりは最高潮に達しようとしていた。


「皆さんお疲れさまでェす! 浅草場所の取組も一回戦を全て終了しましたァ! 実況は私、音楽ロボのエルビス・プレス林太郎がお送りしまァす。解説はこちらァ」

「どうもおっぱいロボのギガントメガ太郎です。よろしくお願いします」


 十六名のトーナメント形式で行われる浅草場所。その一回戦が終わり勝ち抜いた力士達は次の取組への余念が無い。


「それでは二回戦の取組表を発表でェす」


 二回戦の取組表


 Aブロック

・第一試合 黒乃山×マリー

・第二試合 御徒町安子×マッチョメイド

 Bブロック

・第三試合 アンテロッテ×三ノ輪咲子

・第四試合 増上寺春子×ノエノエ

 


 ——第一試合 黒乃山×マリー


「いよいよ二回戦が始まりまァす! この取組の見所はどこでしょうかァ?」

「二人とも貧乳なので乳相撲は期待できません。しかしこの二人、中々の因縁があります。ことあるごとに勝負をして、大抵の場合黒乃山がボコボコにされます。今日はその因縁に決着をつけてもらいたいですね」

「どうしてそんなプライベートな事を知っているんでしょうかァ!?」


 黒乃山はタオルで汗を拭きながら土俵に向かった。


「ご主人様! 手加減をしてくださいよ!」

「ぶひゅー、もきゅー。ぶひゅひゅ、それはどうかな?」


「お嬢様ー! 金的です! 金的を狙うのですわー!」

「ぶっ潰してやりますわー!」

「「オーホホホホ!」」


 両者土俵の中央。構えて勢いよく立ち上がった。


「マリー選手、変化したァ! 飛び上がって黒乃山の後ろをとったぞォ!」

「素晴らしい変化です。しかし黒乃山はそれを読んでいましたね」


 黒乃山は素早く反転するとマワシを取りに来たマリーの上手を取った。そのまま抱え込むとマリーの背中側からマワシを持って持ち上げた。


「黒乃山、逆に背後を取ったァ! 送り吊り出しかァ!?」

「いや! この技は伝説の……」


 黒乃山はマリーの股の間に両手を入れて足を開かせた。マリーをM字開脚させた状態で吊り上げる。


「なにするんですのー!」

「ぽきゅーふきゅー、メル子のおっぱいをしゃぶった恨みを晴らさせてもらうしゅ」


 マリーをユサユサと上下に揺らしながら土俵の上を練り歩いた。


「これはおしっこしーしーのポーズだァ!」

「最大級の屈辱ですね」


 観客から笑いと歓声が巻き起こった。


「いやー! 見ないで欲しいですのー!」

「お嬢様ー!」


 抱えられたまま土俵の外へ出された。決まり手『おしっこしーしー』で黒乃山の勝利。


 ——第二試合 御徒町安子×マッチョメイド


 安子がマッチョメイドの足を取るも、マッチョメイドはそのままブンと足を振り、土俵の外まで安子を転がして決着。決まり手『サッカーボール』でマッチョメイドの勝利。

 

 ——第三試合 アンテロッテ×三ノ輪咲子


 立ち合いアンテロッテは咲子の突進をかわして自ら土俵際まで下がった。そしてタワラに沿って反時計回りにぐるぐると走り始めた。


「これはどういう状況だァ?」

「タワラがスパークしていますね」


 土俵に埋め込まれているタワラがバチバチと放電している。


「オーホホホホ! 実はマリー家の財力を使いましてタワラを超電磁タワラにすげかえておきましたのよー!」


 アンテロッテが放電しながら反時計回りに回ることにより超電磁タワラに上向きの磁場が発生した。


「なんだァ!? アンテロッテ選手が浮いているゥ!?」


 浮力を得たアンテロッテは土俵を縦横無尽に動き回り咲子を翻弄した。アンテロッテを見失い慌てた瞬間を狙い突き倒しで勝負を決めた。


「大技が出ましたァ!」

「これが伝説の決まり手、磁気浮上(Magnetic levitation)。通称『マグレブ』です」


 ——第四試合 増上寺春子×ノエノエ


「優勝候補のノエノエ選手ゥ! 褐色の肌には汗ひとつかいていませェん。誰か私に冷や汗でもかかせてみろと言わんばかりに土俵を見下ろしていまァす」

「増上寺春子選手は相撲だけでなく、空手、柔道、カポエイラも修めています。何か見せてくれるかもしれません」


 立ち合い、春子は土俵際まで下がった。距離を取り何か技を仕掛ける作戦だ。ノエノエはそれを迎え撃つつもりだ。


「春子選手走ったァ! ああァ!? 飛び蹴りだァ! ノエノエの選手の綺麗な顔面めがけて飛び蹴りだァ!」

「普通に反則ですね」


 しかしノエノエはそれをしゃがんで待った。そして蹴りが真上に来たタイミングでバク転をしながら蹴りを放った。その勢いで春子は土俵の下まで吹っ飛んでいった。


「くにへ かえるんですね。あなたにも かぞくがいるでしょう……」ノエノエは春子を見下ろして言った。


「なんだこれはァ!? 相撲なのかァ!?」

「決まり手『待ちガイル』です」



 二回戦も終わり、ベスト4が出揃った。

 

 準決勝の取組表


 Aブロック

・第一試合 黒乃山×マッチョメイド

 Bブロック

・第二試合 アンテロッテ×ノエノエ


 

 ——第一試合 黒乃山×マッチョメイド


「ご主人様、大丈夫なのですか? 相手はマッチョメイドですよ!?」

「ぎゅぽっ、相手が誰であれやるしゅかないにょり。ふぅふぅ、見てなしゃい」


 黒乃は意を決して土俵に上がった。マッチョメイドがその堂々たる威容をもって黒乃を出迎えた。


「黒乃山 おで 手加減しない 覚悟する」

「吠え面かくにゃにょ〜!」


「さァ! いよいよ準決勝でェす! 先生、黒乃山に勝ち目はあるでしょうかァ!?」

「普通に考えたらマッチョメイドに勝てるはずがありません。しかし何かやってくれそうな予感がします」


 立ち合い両者激しくぶつかった。黒乃山が押し負けた。やはりパワーではマッチョメイドに分があるようだ。続けてマッチョメイドが突進を繰り返す。黒乃山はギリギリのところでかわし続けた。


「黒乃山、逃げる逃げるゥ! 一撃でも喰らえばあの世行きの殺人タックルだァ!」

「やばいですね」


 マッチョメイドは一旦土俵際まで下がった。


「黒乃山 なかなか すばしっこい これで仕留める」


 マッチョメイドは必殺の構えに入った。


「あァ! これはァ!?」


 マッチョメイドは両手を地面に着き、右足を前に、左足を大きく後ろに伸ばす姿勢を作った。腰を上に上げ鋭い目で黒乃山に照準を合わせた。

 

「クラウチングスタートですね。短距離で一気に最高速度まで加速するための構えです。この技を使われては狭い土俵では逃げ場がありません。もちろん手を地面に着いたので負けです」


 決まり手『クラウチングスタート』で黒乃山の勝利。


 ——第二試合 アンテロッテ×ノエノエ


「これも注目の戦いだァ! セクシーメイドロボ対決が実現したァ!」

「アンテロッテ選手のGカップ、ノエノエ選手の褐色Fカップ(推定)。どちらが勝つか見ものです」


 アンテロッテは開幕土俵際を反時計回りに走った。二回戦で使った『マグレブ』で戦うようだ。


「出ましたマグレブゥ!」


 するとノエノエも土俵際を走った。アンテロッテとは逆の時計回りだ。するとアンテロッテの動きが急激に遅くなり、とうとう停止してしまった。


「なんですのこれー!? 体が重くて動きませんわー!」


 アンテロッテはプルプルと震えながら動こうともがいている。


「先生ェ! これはどういう事でしょうかァ!?」

「これは超電磁タワラをコイルに見立てた右手の法則です。アンテロッテ選手は反時計回りで回ることにより上向きの磁場を生成しました。それに対してノエノエ選手は時計回りで下向きの磁場を生成したのです。それにより地面に押さえつけられてしまったというわけです」


 ノエノエは動けないアンテロッテの肩に手を乗せると顔を近づけてそのほっぺにキスをした。


「ふふふ、子猫ちゃんおいたはいけませんよ」

「ドキーンですわー!」


 アンテロッテはそのまま倒されて勝負あり。決まり手『マグレブ返し』でノエノエの勝利。

 


 ——決勝戦 黒乃山×ノエノエ


「とうとうやってまいりましたァ、浅草場所決勝戦! 数々の名勝負を勝ち抜き選ばれた二人はこちらァ!」


 黒乃山が土俵に上がった。大きな歓声で迎えられた。そのシャツには『01110011』という謎の文字が表示されている。


「相撲歴一ヶ月にして完璧な体型を作りあげ、見事決勝まで上り詰めた黒乃山ァ! そのぜっぺきに秘めた想いは如何にィ!?」


 続いてノエノエが土俵に上がった。土俵の下でご主人様であるマヒナが見守っている。


「世界をまたに掛け戦う最強のメイドロボ、ノエノエ! その先に目指すものは何かァ! 最強の頂には何があるのかァ! まだ我々は何も知らなァい!」


 黒乃山とノエノエは土俵中央で睨み合った。


「とうとう来ましたね、黒乃山」

「ぼひゅー、どひゅー。この時を待っていましゅた!」


 土俵下では皆が応援している。


「ご主人様ー! やっちゃってください!」

「やっつけるんですのよー!」

「黒乃山 ぜったい 勝つ」


 そして最後の取組が始まった。黒乃山が仕掛けた。手を大きく広げて胸を張って突進する。逃げ場を塞ぐ作戦だ。しかしノエノエはそれを華麗にかわした。すぐに反転して突進する。しかしまたもギリギリでかわされた。


「動きが速すぎでしゅ〜」

「どうしました? そんなものですか?」

「まだまだ〜、ぎゃぷー!」


 黒乃山は突進を繰り返し土俵を走り回ったがノエノエを捕まえる事はできなかった。土俵の真ん中で息を乱して止まった。


「もきゅー、もきゅー! もう動けないぴょ」

「ふふふ、やはりこの程度でしたか。ではトドメを刺させてもらいましょう」


 ノエノエはゆっくりと黒乃山に近づこうとした。しかしその時——


「な……なんです? 体のうごきが、に……にぶいです」


 ノエノエはプルプル震えながら立ち止まった。


「ち、ちがいます……動きがにぶいのではありません……う、動けませんッ! ば……ばかな」


 黒乃山はニヤリと笑った。


「にゅにゅにゅ、私が動きを止めしゃせてもらったにょ」


 黒乃山のディスプレイシャツの謎の数字が目まぐるしく変化している。


『01110101』、『01110011』、『01110000』、『01100101』、『01101110』、『01100100』


「あれはなんだァ!?」

「あれはコードです! 何らかのコードが表示されています!」


 黒乃山は息を整え直すと語り出した。


「ぶひゅひゅ、これは命令コードでしゅ。ノエノエの型番はイズモ研究所のA2-Mroid-HUNDRED。この型番にはカメラで認識したコードを実行してしまうという脆弱性があるのでしゅ。私のディスプレイシャツに表示されたコードを動体視力が良過ぎるために認識をして停止コードを実行してしまったのでしゅ! 会社のプログラマーに頼んで停止コードを二進数に変換してもらいましゅた」


 黒乃山はノエノエにのしのしと近づいた。


「なんとォ! ただいま確認したところイズモ研究所のサイトのバグレポートにそのような記述が確かにありましたァ! バグの修正は来週を予定していますとの事ォ!」

「あの、これってハッキング……」


 黒乃山はノエノエに腕を回して抱き抱えた。


「どんな気分でしゅか? 動けないのにハグされる気分は?」

「くっ」

「フンフンフン!」


 黒乃山は力を込めてノエノエを締め上げた。


「あァ! さば折りだァ!」

「古来より伝わる決まり手ですね」


 黒乃山はノエノエを締め上げる。


「フンフンフン!」

「ぐっ、離しなさい!」


 黒乃山はノエノエを締め上げる。


「フンフンフン!」

「こら、いい加減に」


 黒乃山はノエノエを締め上げる。


「フンフンフン!」

「……」


「長ァい! いつ終わるんだこれはァ!」

「どうやらノエノエ選手に抱きつきたくてずっと頑張ってきたようです。さすが黒乃山、メイドロボに対する愛が凄すぎますね」


「フンフンフン!」


「ではご主人様、先に帰っていますので後は頼みます」

「今日は疲れましたわー!」

「お嬢様、帰ったら一緒にお風呂に入りますわよー!」


 客席の人々も帰り支度を始めた。


「フンフンフン!」


「えー、以上を持ちまして浅草場所は終了となりまァす。決勝戦はハッキングにより黒乃山の反則負け。おそらくこの後ロボマッポのお世話になるでしョう」

「説教で済むといいですね」

「それでは皆さん、また来年の浅草場所でお会いしましョう。実況は私エルビス・プレス林太郎とォ」

「ギガントメガ太郎でした」


「フンフンフン!」

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